給与は上昇傾向でも根強い不満の声
やりがいは感じているが給与に満足していない
政府は分配戦略の一つとして、介護職の給与を段階的に3%(約9,000円)引き上げる政策を行っています。評価する声が挙がる一方、介護職の多くはいまだ給与に不満を抱いていることが各種の調査でわかっています。
介護労働安定センターによる「介護労働実態調査(2020年)」の結果を見てみましょう。
同調査では仕事の満足度を測る指標として満足度D.Iという指標を用いています。これは、「満足」「やや満足」と回答した割合から「不満」「やや不満」と回答した割合を引いたものです。
それによると、「仕事の内容・やりがい」については46.0と大半が満足しているのに対し、「賃金」は-13.9と最低となっています。
これらの調査を総合的に考えると、介護職は厳しい仕事に対してやりがいを抱いているものの、それに見合った給与をもらっていないと感じていると読み取れます。
全産業との差は大きいものの改善傾向にある
こうした不満の根本的な原因は、全産業と比較した給与の差にあるとも考えられます。
内閣府の資料によると、2020年の平均月収は全産業が35.2万円なのに対し、介護職は29.3万円と約6万円の差があることがわかります。
出典:『公的価格評価検討委員会第1回資料』(内閣府) 2022年04月18日更新いまだ低い水準にあるものの、10年前と比べると約4万円上昇しています。
介護職の給与引き上げについては今後も継続して政策課題に位置づけられており、何らかの対策が講じられる可能性もあります。給与水準が全産業に追いつく日も近いかもしれません。
処遇改善加算に見る問題点
加算(Ⅰ)を取得を困難にする2つの理由
介護事業所の利益は、介護報酬に依存しているため、給与についても政策に左右されます。
かねてより介護職の給与を引き上げるための取り組みが進められてきました。そのうち「処遇改善加算」は、介護事業者が職員の賃金を改善した場合に認められる加算として創設されました。
処遇改善加算は(Ⅰ)~(Ⅴ)までの区分があり、算定要件は(Ⅰ)が最も厳しく、報酬が高くなっており、(Ⅴ)にかけて算定要件が緩くなる一方で報酬額が低くなります。
厚生労働省のいずれかの処遇改善加算を算定している事業所は94.1%に上り、中でも(Ⅰ)は79.8%と、最もポピュラーな加算となっています。
(Ⅰ)の報酬は、37,000円相当と最も高くなっており、算定要件も厳しくなっています。
取得が困難な理由として挙げられるのは、「職種間・事業所間の賃金のバランスが取れなくなることが懸念されるため」が最多の49.5%で、次いで「昇給の仕組みを設けるための事務作業が煩雑であるため」40.2%、「昇給の仕組みをどのようにして定めたらよいかわからないため」21.9%と続きます。

このように、事業所内における職種間の給与バランスと昇給の仕組みに問題があることが示唆されています。
各事業所で独自の賃金体系を作成している
また、介護事業所では賃金体系が一般と異なる面もあります。
一般企業では、職員の給料を決めるために賃金表というものが定められています。
こうした賃金体系は慣例に沿ったものであったり、独自の人事評価に合わせた基づいたものだったり、さまざまな種類がありますが、多くは既存の参考資料をベースにしています。
しかし、三菱総合研究所のヒアリング調査によると、介護事業所では独自の賃金表を作成しているところが多い可能性が示されています。
独自の賃金表を用いている理由として挙げられているのは、主に以下の4つです。
- 従業員が処遇について公平感を持ってほしい
- 介護事業所の実態に合った賃金体系を作成したい
- 事業所の理念を反映した賃金体系をつくりたい
- 透明性の高い賃金・評価制度を作成したい
こうした賃金表は非常に複雑になっており、事業主や人事担当者しかわからないことも少なくありません。
従来の雇用慣行から脱却する必要がある
人事評価や賃金体系が複雑で職員にわかりづらい
介護事業所が独自の賃金体系を作成している背景には、介護報酬によって収入が決定され、看護師や理学療法士などの多職種が勤務しているという一般企業とは異なる環境があります。
また、介護職は中途採用が多く、介護以外の前職の経験は評価に考慮されないといった課題を抱えています。
こうした理由から、勤続年数によって給与が上がるといった日本型の雇用慣行をそのまま導入することができず、独自の賃金体系を作成せざるを得ないのです。
職員数の多い大手事業所などでは、明確な体系を作成しているところもありますが、中小では事業主だけで作成しているところも少なくありません。
こうした賃金体系をより明確でわかりやすい指標として、職員にもわかりやすく周知することは大切ですが、そのためには多くの労力がかかります。
明確なキャリアパスの導入が必要
そこで、事業所に求められているのはキャリアパスの普及です。これは、一般的に企業や事業所などにおいて、職員が役職などに就くまでに沿って進む経歴(キャリア)や道筋(パス)のことを指します。
職員の視点からみると、将来的に自分がどのような資格を取得して、どのようなキャリアを積んでいけば昇給できるかを把握しやすい体系のことです。
前述した処遇改善加算ではキャリアパス要件が設けられていますが、その要件を満たすことが困難な事業所もあります。
例えば、処遇改善加算(Ⅲ)~(Ⅴ)を算定している事業所が、より報酬額の高い(Ⅱ)を算定できない理由を尋ねたところ、「キャリアパス要件(Ⅰ)を満たすことが困難」が56.1%を占めました。

キャリアパス要件(Ⅰ)を算定するためには、介護職員の職位や職務内容、任用要件、賃金評価を明確にしなければなりません。
例えば、ヘルパーに上級・中級・初級などの段階を設けて、それぞれの職務内容と役職手当の金額などを明記するといったことを指します。
しかし、実際には役職を細分化したり、新たに手当を設けたりすると職員間の給与バランスを崩してしまう可能性もあります。そのため、介護事業所ではキャリアパス要件を満たせない内部事情を抱えていることが多いのです。
確かに職員間の公平感も大切ではありますが、成果によってキャリアを積めて、着実に昇給できるシステムが求められています。