独立行政法人福祉医療機構が2021年度の介護医療院の経営状況を公表

介護医療院の約3割が赤字との調査結果

2022年9月29日、独立行政法人福祉医療機構は、介護医療院85施設を対象に実施した調査において、31.8%が赤字であるとの調査結果を発表しました。

施設のタイプ別にみると、重篤な高齢者を受け入れる「Ⅰ型」は24.6%、「Ⅱ型」は半数に近い46.4%が赤字になっています。

福祉医療機構とは、国の施策と連携しつつ、福祉医療の基盤整備を図ることを目的に設立された機関。

社会福祉施設・医療施設の整備のための貸付事業や経営診断、各種助成事業などを行っています。

今回の調査は、貸付先の85施設のみを対象としたもので、サンプル数が多いとは言えません。それでも、介護医療院全体に生じている傾向をある程度は読み取ることができます。

同機構の調査結果によると、赤字施設の割合は年々増加。2019年度は12.5%、2020年度は23.3%、2021年度は31.8%となり、直近の年度では3割を超えました。

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出典:『2021年度(令和3年度)介護医療院の経営状況について』(福祉医療機構)を基に作成 2022年11月10日更新

介護医療院とは?

そもそも介護医療院とは、介護が必要な高齢者の長期療養と生活支援を目的とした入所施設です。介護療養型医療施設の廃止に伴い、2018年4月に創設されました。

医師の配置が義務付けられていて、他の施設では受け入れが限られる喀痰吸引、経管栄養など医療的処置を必要とする要介護者の受け入れにも対応しています。終末期における看取りケアにも対応し、重度の要介護者も手厚い医療ケアを受けながらの生活が可能です。

介護医療院には「Ⅰ型」と「Ⅱ型」の2つの種類があり、Ⅰ型は比較的重度の要介護者を受け入れ、十分な医療ケアを提供する施設、Ⅱ型は入居者の自宅復帰を目指し、リハビリなどを主に提供する施設です。

Ⅰ型については、さらに「療養機能強化型A」と「療養機能強化型B」に分かれ、A型の方が医療的処置やターミナルケアを受ける人の入所割合が多く設定され、より手厚い医療・介護体制が整備されています。

Ⅰ型、Ⅱ型のどちらも要介護者を入居対象としていますが、Ⅰ型は従来の介護療養病床に相当、Ⅱ型は介護老人保健施設に相当する施設といえます。また、居住部分と医療機関を併設している「医療外付け型」での運営も認められています。

福祉医療機構によると、全国の介護医療院の開設数は2021年3月時点で572施設。年々増加しつつあります。

赤字の介護医療院が多い背景

「移行定着支援加算」の廃止が要因の一つ

この創設されて間もない新進気鋭の介護医療院において、なぜ赤字施設が約3割にまで増えているのでしょうか。

その一つの要因として指摘できるのが、「移行定着支援加算」の廃止です。

介護医療院は導入が開始された2018年度から3年間、介護療養型医療施設や介護療養型老人保健施設からの移行を進めるために、介護医療院に移行した日から起算して1年間、1日につき93単位を算定できる「移行定着支援加算」が設けられていました。これが2020年度いっぱいで廃止されたのです。

もともと3年間と期限を区切っていた加算だったので、「延長されなかった」とも言い変えられるでしょう。

この以降定着支援加算の廃止に伴い、介護医療院の介護料収益は減少。赤字施設のさらなる増加につながったと考えられます。

実は、移行定着支援加算が廃止される代わりに、長期療養・生活施設としての機能を評定する「長期療養生活移行加算」が創設されてはいました。

これは最長90日まで1日につき60単位を算定できるもので、いわば移行定着支援加算廃止の穴埋めのような位置づけも持っていると言えます。

ところが、福祉医療機構の調査によると、この代わりに導入された長期療養生活移行加算の取得率が12.9%にとどまっていました。

算定要件の中に「入所者が療養病床に1年以上入院していた患者であること」という条件がありますが、これをクリアすることが難しかったためです。

Ⅰ型よりもⅡ型の方が、赤字施設が多い理由

冒頭で示した通り、赤字施設の割合はⅠ型が24.6%だったのに対し、Ⅱ型は46.4%とかなり多くなっていました。

この要因としては、Ⅰ型は要介護度が高めの入居者が多く、その分介護報酬が多くなります。一方、Ⅱ型は比較的軽度の高齢者を入居対象とする施設であるため、介護報酬も低めです。

つまり、介護報酬における利用者一人当たりの単価が違うために、このような差が生じるわけです。

福祉医療機構の調査結果によると、2021年度における介護医療院に入居する人の平均要介護度は、Ⅰ型が4.19、Ⅱ型は3.88。入所定員1人当たり事業収益は、Ⅰ型が604万3,000円、Ⅱ型は536万6,000円。入居者一人につき、1年度で約70万円の収入差が生じています。

介護医療院の約3割が赤字なのはなぜか?黒字転換に必要な収支の見直し策とは
Ⅰ型とⅡ型における入所定員1人あたり事業収益
出典:『2021年度(令和3年度)介護医療院の経営状況について』(福祉医療機構)を基に作成 2022年11月10日更新

Ⅰ型に比べてⅡ型は収益が少なくなってしまう構造的な要因があるといえます。こうした差が常に生じる状況が続くと、将来的に医療法人等において、Ⅱ型に対する運営意欲が減少するなどの影響が強まるとも考えられます。

赤字の介護医療院における収支改善策は?

黒字施設と赤字施設の収支構造の違い

福祉医療機構の調査結果では、介護医療院の赤字施設と黒字施設の施設状況を見ると、両者の間に差が生じている項目が多数あることが分かります。

まずは定員数です。Ⅰ型の場合、黒字施設の平均定員数は85.1人であるのに対して、赤字施設は57.3人です。両者の差は27.8人にも上り、定員が多い施設ほど黒字になりやすい傾向が見てとれます。

Ⅱ型も同様で、黒字施設の平均定員数は65.7人、赤字施設は55.2人です。

大規模施設は黒字になりやすく、小規模施設は赤字になりやすいのが現状となっています。

また、「介護職員処遇改善加算(Ⅰ)」の算定率にも違いがあり、Ⅰ型の場合は黒字施設の74.4%が取得しているのに対して、赤字施設は50%。Ⅱ型では黒字施設が46.7%、赤字施設は30.8%の取得にとどまっています。

この点も両者の間に明確に差があり、職員の就労環境を整え、介護職員処遇改善加算の報酬を取得して人件費に充てることは、黒字施設となるための一つの注目点と言えそうです。

介護医療院の約3割が赤字なのはなぜか?黒字転換に必要な収支の見直し策とは
黒字施設と赤字施設の定員数、「介護職員処遇改善加算(Ⅰ)」の算定率の違い
出典:『2021年度(令和3年度)介護医療院の経営状況について』(福祉医療機構)を基に作成 2022年11月10日更新

もちろん、定員数を増やしたり、介護職員処遇改善加算を取得したりしても、黒字化が約束されるわけではありません。ただ、一つの傾向として黒字施設と赤字施設の間に差があるのは事実です。

定員数は急に増やすことは難しいですが、介護職員処遇改善加算の取得を目指すことについては、赤字打開に向けた一つの対策になるのではないでしょうか。

赤字施設の改善策は人件費?

黒字施設と赤字施設の費用構造を見てみると、両者の間に明確に違いがある費目があります。それは「人件費」です。

福祉医療機構の調査によると、人件費率(事業収益に占める人件費の割合)は、Ⅰ型の黒字施設だと約50%~約72%、赤字施設では約56%~約83%。Ⅱ型の黒字施設では約43%~約73%、赤字施設では約58%~約86%です。

傾向として、明らかに赤字施設の方が人件費率は高い結果となっています。

Ⅰ型、Ⅱ型のどちらにおいても、赤字施設では人件費率が8割を超えるケースもありますが、基本的に黒字施設では人件費率が73%を超えていません。

そのため、あくまで全体としてみた場合で言えば、人件費率が高めの赤字施設は、収益の改善もしくは人員配置を見直すなどの対策を取って人件費率を7割以下まで抑えることが、一つの収支改善ポイントになると考えられます。

人員配置に関しては、黒字施設の方が赤字施設よりも「入所定員10人当たり従業者数」が少ない傾向にもあります。黒字施設は赤字施設よりも、より少ない人員で多くの入居者をケアする状況にあるわけです。

しかし、入居者のケアを行う人員数を減少することはケアの質の低下を招く恐れもあり、対策は慎重に行う必要があるのも確かです。この点については、介護保険制度・介護報酬のあり方自体を見直すなど、根本的な改善策が求められているとも言えます。

今回は独立行政法人福祉医療機構の調査結果をもとに、介護医療院の赤字施設増加について考えてきました。

同施設が創設されてわずか3年で赤字施設の割合が3割にも上っている現状に対し、国・行政側はどのような対策を取るのか、今後も注目していきたいです。

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