執筆:井上 愛子(保健師、看護師)
消費するカロリー以上に食べ過ぎていたり、カロリーを摂りすぎていれば太るのは当たり前ですね。
ところが、それ程食べていない、カロリーを摂っていない。
それにもかかわらず、太ってしまう…
こんなことはありませんか?
小食なのに太ってしまうのはどうしてなのか、詳しくみていきましよう。
1食抜くと体重は増える?
体重を減らすためにカロリー摂取をしたり、食事を減らす・摂らないということをした経験はありますか?
もちろん、消費カロリーよりも摂取カロリーを減らすことはダイエットの基本です。
しかしカロリーを減らすために食事を抜かすことは、実は逆効果になってしまいます。
ヒトの身体には、飢餓状態に備えるための機能があります。欠食によって飢餓状態、つまり空腹の時間が長い程、次に食事を摂ったエネルギーを蓄えようとするのです。
「朝は忙しいから朝食を食べない」こんな生活をしていませんか?
朝食を食べずに空腹時間が長くなると、昼食の吸収率が上がります。
すると、同じカロリーを摂取していたとしても、1食分食べずに空腹時間が長ければ長い程身体に吸収されやすく脂肪となり、太ってしまう原因となるのです。
少なく食べても、食べる時間で太る?
遅くまで仕事をしているせいで、夕食が遅くなる人も多いかもしれません。
夜に摂る食事は、朝や昼とは違い摂ったエネルギーは消費されることなく、身体に蓄えられてしまうことになります。
また22時以降には「BMAL1(ビーマルワン)」というタンパク質の影響で、吸収されたエネルギーを脂肪にかえやすくなるのです。
つまり多く食べなくとも、遅い時間に食事を摂ることが太る原因につながります。
食事のバランスが悪いと太る?
小食の人の場合、身体に必要な栄養素が不足している可能性があります。

食事はエネルギー源となる炭水化物や脂質と、血液や筋肉など身体の組織をつくるタンパク質、身体の機能を調整するビタミンやミネラルをバランスよく摂ることが大切です。食事の量を減らすことで、このバランスが崩れた状態になっていませんか?
食事バランスが崩れていると、筋肉を作る栄養素が不足し、筋力が落ちてしまいます。
筋力はエネルギーを消費するための大切な存在です。その筋力が落ちることで、エネルギー消費量が減ってしまい脂肪がつきやすく、結果として太ることにつながっているのです。

食事だけではなく運動量が問題?
食事のバランスにも関わることですが、小食でも太るのは運動量が少ないことも原因のひとつにあるかもしれません。
筋肉は動かさないでいると減っていきます。
身体を動かさずにカロリーを制限している小食の場合、脂肪よりも先に筋肉が減ることで体重が落ちていくのです。
そして筋肉が落ちた状態では、「生きていくための活動で消費するカロリー=基礎代謝」が減ってしまいます。
筋肉1kg減るごとに1日に50kcalの基礎代謝が減るといわれています。基礎代謝が減った分が、太ることの原因へとつながっていくのです。

太ってしまう病気がある?
規則正しく食事を摂っていて、適度に身体も動かしているのに太ってしまう裏には、病気が隠されている可能性があります。
体重を増やしてしまう病気の一部を紹介します。

甲状腺機能低下症・橋本病
「甲状腺機能低下症」は、のどぼとけの下にある「甲状腺」という甲状腺ホルモンを分泌する臓器の機能が低下した病気です。女性に多くみられます。
橋本病も同じく甲状腺の病気です。橋本病では、甲状腺の機能が低下するのはおよそ3割ほどといわれています。
甲状腺ホルモンは新陳代謝を促進する作用があります。この機能が低下することで、新陳代謝が低下し、小食でも太りやすくなるのです。

クッシング症候群・クッシング病
「クッシング症候群」とは、「副腎皮質ホルモン」が身体の中で異常に多く産生されるために生じる病気の総称です。
その中でも「コルチゾール」というホルモンが過剰に分泌されるものを「クッシング病」といいます。
コルチゾールは、食べたものをエネルギーに変換させる作用があります。また、ほかのホルモンの分泌を促す作用もあります。
クッシング病は、顔が満月のようにまんまるに膨らむ「満月様顔貌(まんげつようがんぼう)」や腹部を中心に脂肪がつく「中心性肥満」といった症状がみられます。
これらは、小食であってもホルモン分泌に関連して体重を増加させる病気です。

体重が増加する病気はほかにもあります。生活習慣が正しくても体重が増える背景には、病気が隠されている可能性もあるのです。
普段から体重を測定する習慣で、その変化に早く気が付くことができます。
一度ご自分の生活習慣と体重の変化を振り返ってみることで、不調の早期発見と自身の健康へとつなげていきましょう。
<執筆者プロフィール>
井上 愛子(いのうえ・あいこ)
保健師・助産師・看護師・保育士。株式会社とらうべ社員、産業保健(働く人の健康管理)のベテラン