執筆:南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師)
医療監修:株式会社とらうべ
急に首が動かなくない、そして激しく痛い…
そんな経験をしたことはありませんか?
ぎっくり腰はよくご存知と思いますが、まるでその首バージョンのような「ぎっくり首」になる人が、この頃増えているようです。
いわゆる「寝違え」とも違うといわれています。

今回はこの「ぎっくり首」について、症状や原因、対処法などについて解説したいと思います。
ぎっくり首とは?
ぎっくり首は、整形外科を受診すると「頸椎捻挫(けいついねんざ)」と診断されます。
この診断名は「むち打ち症」も同じです。
しかし、交通事故などで突発的に起こるむち打ち症とは異なります。
頚椎捻挫は、いくつかの因子が重なり蓄積されて発症するもので、首が炎症を起こし、痛みやハリがでてきます。
ぎっくり腰とぎっくり首の共通点は、患部の周囲の筋肉が異常な硬直状態になることです。

腰椎・頸椎ともに生理的湾曲が失われ、激しい痛みをともないます。
「寝違え」とは違うの?
「寝違え」とは、不自然な姿勢で就寝して寝続けてしまい、翌朝首や肩、背中などに痛みがでる症状をいいます。
医学的には「急性疼痛性頸部拘縮(きゅうせいとうつうせいけいぶこうしゅく)」という診断名になります。
頸部周囲の靭帯や筋肉の炎症による痛みの総称を「寝違え」と呼んでいます。
ぎっくり首の中に寝違えが含まれる、とも考えられるのですが、寝違えは、動かさなければ支障がないとか、我慢できる程度であるとか、いつの間にか治っている…といったケースがほとんどです。
しかしながら、ぎっくり首は、何からの対処が必要になります。

ですから、この2つは違う症状であると捉えるほうがよいでしょう。
ぎっくり首の原因は?
それでは、どうしてぎっくり首になるのでしょうか。
おもに次のような原因が考えられます。
姿勢の悪さ
一番に挙げられるのは姿勢の悪さです。
デスクワークなどで猫背になり、首が前に出る姿勢を長時間続けると、首に負荷をかけやすく疲労が溜まります。
首の疲労が慢性化すると、頭痛や吐き気、寝不足、冷え性など自律神経にも支障をきたし、ホルモンバランスの乱れにもつながります。

その他、片脚に重心を置いて立つ、背中を丸める、座ったときに足を組む、頬杖をつく…など、日ごろの偏った姿勢の癖はより悪循環を招きます。
運動不足
長時間同じ姿勢でじっとしていると筋肉が緊張して血行不良になります。
デスクワーク、読書、スマホの使用などが代表例です。
筋肉が硬直していると首の動きが悪いので、可動域も狭くなって頭の重さを逃がす力が弱まります。
そんな状態のとき、首が何か強い衝撃を受けたらどうなるか、容易に想像がつくでしょう。
衝撃を吸収しきれず、筋繊維や腱、骨にまで悪影響を及ぼすのです。

筋肉の硬さ
日常のストレスや普段の癖などから、筋肉がアンバランスになり硬くなります。
その硬い筋肉にちょっとした動作(くしゃみや歯磨き時の悪い姿勢)などが加わって、ぎっくり首になる可能性があります。
枕の高さ
高さの合わない枕を使い続けると、筋肉やスジが硬くなって歪み、ぎっくり首になる可能性があります。
自律神経の乱れ
首の脇には自律神経の束があります。
ストレスや寝不足が続くと自律神経のバランスが乱れて、首の筋肉が硬くなりますので、ぎっくり首になりやすい状態といえます。
衝撃
何らかの強い衝撃がかかるとぎっくり首になる可能性があります。

とくに左右、斜めからの衝撃を受けると起こりやすいといわれます。
ぎっくり首の症状
ぎっくり首の症状には個人差がありますが、一般的には次のような症状といわれています。
・首を動かすと強い痛みがある
・痛みで首を動かせない
・首の凝ったところを押すと痛い
・くしゃみをすると首に激痛が走る
・首の筋肉の凝りがひどい
ぎっくり首の治療法
通常は1~2週間位で炎症が治まるため症状は軽くなります。
それまで、まずは安静第一にしましょう。
楽な姿勢で横になるとよいでしょう。
熱を帯びているようであれば「冷湿布」で患部を冷やすと、炎症が治まって痛みが軽減するはずです。

入浴は控えたほうがよいです。
それでも症状が治まらない場合は、早めに整形外科を受診しましょう。
病院では、消炎鎮痛薬や筋弛緩薬の内服やパップ剤の貼付、また、頸部痛の鎮痛処置として電気刺激やレーザー照射などの治療をします。
症状が強いと、局所注射や神経ブロックなどの治療をおこなう場合もあります。
その後は、頸椎の可動域を少しずつ増やしていくことが必要です。
ぎっくり首の予防 
前述の原因に気をつけて生活をすると、ぎっくり首の予防になります。
正しい姿勢に直す
普段の自分の姿勢や態度を見直し、徐々に矯正しましょう。
頭の重さは5㎏ほどあります。
脊柱で支えるためには生理的湾曲が必要です。
つまり、頸椎と腰椎は前湾し、胸椎は後湾しています。
このS字カーブである生理的湾曲が保たれるからこそ、クッション機能も果たせるのです。
日常生活でのふとした姿勢や癖を意識してチェックし、改善してゆくことが予防につながります。
定期的に運動する
普段から首回し(頭まわし)、肩回しなどの運動を、仕事の合間などにする習慣を持ちましょう。
太極拳やヨガといった、ゆったりとした動きの運動もおすすめします。
ストレスを発散する
現代社会において、ストレスを受けずに生きることは難しいですから、自分なりのストレス発散方法を見つけておいて、ストレスが溜まったな、と感じたときに実践できるようにしておきましょう。
ぎっくり首に逆効果な対処
ぎっくり首になったきに、気をつけたいことが2つあります。
・揉んではいけません!
痛みがある部分を揉みほぐすのは厳禁です。
炎症を起こしていますから、余計に酷くなります。
また、無理にストレッチなどをするのもやめましょう。
・温めてはいけません!
炎症を起こして熱を持っているときに温めてはいけません。
ただし、炎症が落ち着ついてきてから温めるのは、筋肉をほぐすという意味で効果的です。
このように、首は大変デリケートな性質を持っています。
ぎっくり首になったときは、軽くみないで、初期段階での適切な対処・治療が大切です。
また、いったん治っても、悪い姿勢を直していないなど、原因が取り除かれていないのであれば、同じことの繰り返しになります。
今回ご説明したいくつかの原因に心当たりのある方は、改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。
<執筆者プロフィール>
南部 洋子(なんぶ・ようこ)
助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での経験後、とらうべ社を設立。タッチケアシニアトレーナー
<監修者プロフィール>
株式会社 とらうべ
医師・助産師・保健師・看護師・管理栄養士・心理学者・精神保健福祉士など専門家により、医療・健康に関連する情報について、信頼性の確認・検証サービスを提供