米国株やオルカン(オール・カントリー:全世界株式)が話題になる中、「日本株の魅力」はどこにあるのか。これから期待できる国内の産業や投資テーマはあるのか。
上村氏は、日本株の中でも成長性や将来性を期待されている「成長株(グロース株)」が専門のファンドマネージャー。日本の成長株担当チームのリーダーを務める。同氏にとって日本株の魅力は何なのか。率直に聞いてみた。
日本株の持つ魅力「情報の優位性」とは
外国株と比べて、日本株の魅力はどこにありますか? こんな質問を投げかけると、上村氏は「大きく2つの魅力があります」と力強く答えた。
「1つ目は上場企業の業種が幅広いことです。これだけたくさんの業種に満遍なく上場企業が存在するのは、先進国でもアメリカと日本だけでしょう。ヨーロッパではここまでカバーできていません。だからこそ、例えば生成AIなどの『これから成長しそうなテーマ』を見つけたとき、関連する企業・銘柄を国内で探すことができます。また、さまざまな業種に投資先を分散できるのでリスク回避もしやすいでしょう。国内にいると気づきにくいのですが、投資環境という意味で本当に日本は恵まれていると思います」
そしてもう1つ、日本株の魅力として「海外投資家が情報を入手しにくい点」を挙げる。
米アマゾン本社で確かめた新サービスの動向
上村氏は、さまざまな投資信託の運用を指揮するファンドマネージャー。そんな同氏の強みは「徹底したリサーチ」にあるという。決算説明会への参加や企業に直接赴いての1on1ミーティング、工場の視察など、リサーチの内容は多岐にわたる。多いときは年間700件以上になるとのこと。専門は日本株だが、海外でのリサーチも行う。「なぜなら新しい技術やトレンドは海外で生まれることが多いからです」。
こうした活動が実を結んだ例として、米アマゾン本社に出向いたエピソードを口にする。2009年8月のことだ。EC事業でトップの座に就いた同社は、新たなビジネスとして「AWS(アマゾン ウェブ サービス)」というクラウドサービスを始めていた。
今では広く普及しているが、当時AWSはまだ注目されていなかったという。
「この頃、マイクロソフトもクラウドサービスの提供開始を表明しており、いずれ競合になるかもしれないという予測がありました。しかし現地でリサーチすると、2社のクラウドサービスは概念が少し異なり、両サービスとも日系企業にとってビジネスチャンスが大きいと感じたのです。現在の状況を見ると、その考えは間違っていなかったと思います」
ちなみに、当時のアマゾン本社は病院の跡地を利用していたとのこと。入ってみると、改装せずに病院時代の設備をそのまま活用している場所も多かったという。「その光景から、この会社がいかに厳しいコスト意識を持っているか分かりました。こういったことを知れるのもリサーチの良さです」。
生成AIは注目、ただし第1ラウンドは終わった
そんな上村氏に聞きたいのは、これからの日本株について。注目している産業や投資テーマはあるのだろうか。
「生成AIのトレンドはこれからも続くと考えています。ただし盛り上がりの“第1ラウンド”は終わったでしょう。今は次のラウンドへの移行時期ではないでしょうか。
2024年8月に入って乱高下しているものの、日経平均株価は2023年から上昇を続けてきた。その要因の一つとして「生成AIという大きなイノベーションが起きた点が大きい」と上村氏は見解を述べる。
前提として、日本市場には追い風となる要素がいくつか揃っていたという。ウォーレン・バフェットが日本企業に注目したほか、東証市場改革により海外投資家が日本に目を向けた。同時に、自社株買いを進める日本企業が増えていることを評価する海外投資家の声も多く聞かれたようだ。新しいNISAも始まり、個人投資家の参加も盛んになった。
「こうした好条件が揃う中で、産業革命に匹敵するといわれる生成AIのイノベーションが起きました。日本はAIに不可欠な半導体の関連産業が強い国です。これが株価を大きく押し上げたといえます」
ただし、前述の通り第1ラウンドは終わったとのこと。「2023年から上昇してきた銘柄には一服感が出ています」。これからは、まだ恩恵を受けていなかった「実は半導体に関連する銘柄」に移行していくと考えている。
例えば生成AIが盛り上がったことで、これまでは半導体製造装置の関連銘柄が注目されてきた。
「製造装置が行き渡ると、続いて実際の半導体製造に必要な“半導体材料”の需要が高まります。さらにその後、製造装置が稼働し続けると、装置の消耗品や部品交換のニーズが高まるでしょう。こうした産業は注視が必要です」
あるいは、生成AIが普及するとデータ通信の拠点となるデータセンターの設置や、データを送受信する光ファイバーや海底ケーブルなども重要に。生成AIが普及する道筋を時間軸でイメージしながら、「次は何が必要になるのか」を考えていくことが大切だという。
伸びる銘柄を見つけるため、普段から見てほしい「変化」
最後に、投資初心者でもできる銘柄の発掘方法やコツはあるのだろうか。上村氏は、日常生活や街中を歩いて気づく“変化”が「銘柄発掘の大きなヒント」になるという。
過去には、街を歩く中で「監視カメラが設置された中古マンション」が増えていることに気づき、その監視カメラの製造企業を調べたと話す。すると、新築マンションは大手電機メーカーのカメラが強いものの、中古マンションはある企業の独壇場だと分かって投資したという。
「自分の趣味に関する分野なら変化を見つけやすいでしょう。
身の回りの変化を見つけ、投資に活かす。それは「日本株でこそやりやすいでしょう」と笑顔を見せる。
なお、これらは銘柄発掘の“初級編”。しばらく経験を積んだら、次はもう少し見る対象を広くして投資のチャンスをうかがうのが理想だという。例として、米国大統領選挙の結果次第では米中関係がさらに悪化する可能性も。すると「2国間の貿易が減り、日本からの調達比率を高める部品や材料が出てくるかもしれません」。こうした視点が大切だという。
上村氏は「個別株やETF、最近はアクティブETFも始まるなど、日本にはさまざまな金融商品があります。一人一人が自分に合う投資方法を見つけてほしいですね」と話す。
「知名度が低くても良い企業は日本にたくさんあります。その企業を支援する意味でも投資は大切ですし、それにより業績が伸びて株価も上がればさらに良いサイクルになるでしょう」
日本株への投資は、この国の企業を後押しすることにもつながる。国内の成長株を見続けてきたファンドマネージャーは、そんな思いを胸に市場と向き合っている。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2024年9月現在の情報です