小林光一名誉棋聖が語る師匠・木谷實九段

小林光一(こばやし・こういち)名誉棋聖は、小学校を卒業してすぐ上京し、木谷實(きたに・みのる)九段門下の内弟子となる。当時、木谷九段の元には錚々(そうそう)たる顔ぶれが集っていたという。小林名誉九段が、木谷九段の囲碁に対する横溢せんばかりの愛情を示すエピソードを語った。

* * *

当時、木谷先生のお宅には、僕を含めて8人の内弟子がいました。その他、昼過ぎになると東京に自分の実家がある人も通ってくるといった具合で、加藤正夫さんや石田芳夫さんを筆頭に兄弟子たちは皆、強い人ばかり。ちなみに武宮正樹さんは、私のちょっと後から入ってきまして、もうプロになっていました。今から思うと、錚々(そうそう)たる顔ぶれでしたね。
そして木谷先生ですが、私が入門したとき、先生はもう体を悪くされておられました。ですから先生と“対局”という形で教えていただいたことはないのです。
先生はですね、碁を一局打とうとすると、弟子との対局はもちろん、九子を置かせたアマチュア相手の指導碁でも、それこそ一日がかりになってしまうんですよ。先生にとって碁盤というのは「真理を追求する場所」ですから「一手もおろそかにしてはいかん」という思いだったのでしょう。ですから、体調を崩されて以降に入門した私は残念ながら、先生に打っていただく機会はありませんでした。一度だけ「頭の体操」みたいな感じでお相手をさせていただいたことはありましたが、それは対局というようなものではなかったので…。
木谷先生は、本当にすごい人でした。碁そのものに対してはもちろんですが、囲碁界に対する愛情の深さが桁違いだったのです。体を悪くされたので、私が最後の弟子となるはずだったのですが、私の後にも続々と入ってきまして、十何人が入段しているのですから…。
ご自身の体調よりも囲碁界の将来を最優先したということで、こんなにすごい先生は、もう現れることはないでしょうね。
■『NHK囲碁講座』2014年4月号より

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