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もはや私が紹介する必要もないくらい、読者の皆様はこの二人の雄姿を見続けてこられたであろう。
依田紀基九段はNHK杯を5回優勝。故坂田栄男九段の11回は別格であるが、大竹英雄九段、結城聡九段と並んで2位タイの堂々たる偉業である。
河野臨九段は今年も各棋戦で好調をキープ。ただ、NHK杯は優勝に縁がなく、14年に決勝進出したものの結城九段に阻まれた。
二人の過去16局のうち、作り碁となったのは12局。
うわさによると、最近は若手は星を、ベテランは小目を好むらしい。
■急所の一撃
依田は石音の高さを注目されがちだが、それはあくまでも表面上の出来事だ。
白14がバチンと打たれたとき、記者は驚いた。つい、1図の黒1と間を裂いていきたくなる。しかし、白2が返し技。黒3、5と受けざるをえず、白6まで白の形を整えるお手伝いとなってしまう。
河野も危険を察知して黒15と譲歩。ならば白も守りを固めるタイミングで、白22までしっかり受けた。
黒23と右辺を落ち着かせたところで大場に向かうかと思われたが、白24と黒21の一子をしっかり取り切る選択。早いタイミングで二線に石が向かうということは、根拠に関わる要点だということだろう。依田はさらに強力な狙いを秘めていた。
黒29は「打つところが分からなかった」と河野は局後に語る。
下辺は黒の勢力圏だから黒31と正面から受けた手は当然に見えるが、どうもこれがやり過ぎだったようだ。2図、黒1とかわしてしまうのがこの場合は正しい方向。白2と切られると黒は弱体化するが、ここは捨て石の発想で黒3などと大場に先行する。右下白が生きているので、黒は強く戦う場所ではない、という発想だ。
白40とアオり、サバきながら黒を攻め、白がペースをつかんだ。だが、河野も黒41、43と反撃に出る。解説の石田秀芳二十四世本因坊は「あの冷静な河野さんが」と驚いた。
※終局までの棋譜と観戦記はテキストに掲載しています。
※肩書はテキスト掲載当時のものです。
■『NHK囲碁講座』2020年2月号より