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――まずは4人の歴代名人を破って初優勝を果たした第38回大会から、3回戦の大山康晴十五世名人との一戦を挙げていただきました。大山十五世名人はタイトル獲得80期、NHK杯戦でも8回の優勝実績を持つ昭和の大名人です。
大山先生には『将棋世界』誌の企画、王将戦の予選と2局教わっての3局目でした。前2局ではどんなに攻めても、軽くいなされてしまうという印象でした。
――観戦記の1ページ目には和服で貫禄たっぷりの大山十五世名人と、鋭い視線を飛ばす羽生さんの写真が載っています。当時18歳の羽生五段にアドバイスするとしたら、何を言ってあげますか?
特にありませんが、あえて言うなら、ひたすらまっすぐに進め、でしょうか。
――将棋は前述の王将戦と同じく大山十五世名人の中飛車。羽生五段は果敢に急戦を仕掛け、見事に大名人を倒します。
まったく歯が立たないのではと思っていたので、勝ち切れたのは望外でした。
――観戦記の結び、大山十五世名人の駒が升目に入らず乱れていたという描写が印象的です。書かれたのは2008年に亡くなった共同通信社の名物記者、田辺忠幸さんですね。
田辺さんには数多く観戦記を書いていただきました。棋王戦の創設に寄与された方です。運動部にいらっしゃったので、相撲をはじめとするスポーツ全般や、趣味のアルゼンチンタンゴの話をよく聞かせてもらったのを覚えています。