三重県出身、東京大学卒業後に国内外の金融業界でキャリアを積んだ青木里沙さん。34歳で日本酒業界に異例の転身を遂げた。
■優等生が中学校で不登校になった理由
「ものすごく成績が良かったんです。ずっと一番だったんです。なんですけど、毎回こうテスト勉強をしていることにあんまり意味を見出せなかったんだと思います」
幼少期から物を作ることや音楽、読書が好きな子どもだったという青木里沙さん。
両親が塾を経営していて、勉強は「しなさいと言われたことは一度もなかった」が、本を読む延長に自然と学習がある環境で育ち、中高一貫の学校に進学した。
成績も優秀で学年トップの成績だったが、中学3年のとき不登校になり、そのまま学校を辞めてしまう。
「今思えばちょっとした反抗期なのかもしれない」と笑って振り返る青木さんだが、両親も無理に学校に通わせることなく、青木さんの行動を見守っていた。
青木さんはこの期間、グラフィックデザインを独学し、アルバイトをするなどして過ごした。ただ、「このままやっていても何にもならないな」という感覚が芽生えてきたという。
「学校に行くことって、ある種の社会に出るためのパスポートみたいなところもある」
こう感じた青木さんは、高校2年の年齢のときに大学入学資格検定(大検)の勉強を始め、翌年の受験で東京大学理科一類に現役合格する。
なぜ、東京大学に進んだのか…「一番大きい理由はあんまり知っている大学がなかったこと」と屈託のない笑顔で語る青木さん。都会への憧れも東大受験を後押しした。
■リーマン内定も…金融業界に進んだ理由
東大入学後、当初は建築を志したというが、「才能がない」と感じ、文転して経済学部へ。
大学3年のときにリーマン・ブラザーズから内定をもらうも、直後に倒産。当時、日本法人を引き受けていた野村證券への入社が決まった。
野村證券では投資銀行部門に配属され、上場企業の株式による資金調達を支援する仕事に励んだ。
「日経新聞に載るような仕事。動かす金額も大きいし、企業の大きいコーポレートアクションに関わっているっていうことはやりがいがあった」と当時を振り返る。
金融業界の仕事にやりがいを感じていた青木さん。結婚後に夫のシンガポール駐在に同行した際、友人とM&A会社を立ち上げ、現地で企業買収の仕事をする。
ただ、シンガポールに来る前に感じていたのが、酒の魅力だった。
「日本にいたころ、当時勤めていた会社の社長がお酒が好きで、ワインとか日本酒とか飲ませてくださった。すごくおいしくて。だけどあんまりその価値が分かっていなかったので、いいものなのにそれが分からないのはもったいないなと」
そこで、青木さんは、ワインエキスパートの資格を取得。そこから「仕事以外の時間はお酒のことを考えていた」と笑みをみせた。
転機となったのは、新型コロナウイルスだった。新型コロナ禍により日本に帰国を余儀なくされたとき、あらためて自分の進路を問い直した。
「これだけお酒のことが好きで、仕事以外の時間は全部お酒のこと考えているんだから、仕事の時間もお酒のことを考えたらすごいクオリティーが上がるのでは」
シンガポールにいた時に改めて日本の文化の良さを感じた青木さんは、日本酒業界への転身を決断した。
■160年の老舗酒蔵をM&Aで継ぐ 異例の決断
34歳のとき、上場を検討していた山形県の酒蔵の社長と出会った。自身の金融のキャリアも生かせると感じ、酒蔵の経営企画室長として入社する。
上場準備や組織整備、子会社の立ち上げなどを担ったが、会社の経営方針変更により退社した。その後、金融業界に戻る道もあったが、心に残っていたのは「やり残している」感覚だった。
「日本酒の蔵って外から見るとものすごく斜陽産業に見えるし、閉鎖的に見えると思うが、やっぱり中に入ると先進的なところはしっかり先進的だし。自分たちの商品があってお客さんにおいしいと言ってもらえるのはすごく幸せなことだし、本当に良い仕事だなと思った」
転職ではなく、自分で蔵を持つことを選んだ理由はシンプルだった。
「オーナー企業が多い業界なので、また転職してもまた方針変更で辞めることになるリスクがすごく高い。だったら自分でやったほうが一番安全だと思った」
ただ、現在の酒税法では、日本酒の製造免許が新規に取得できないため、蔵元になるには、既存の蔵を買うしかない。
十数件の候補を探し、最終的に縁があったのが新潟・長岡市で160年の歴史を持つ高橋酒造だった。
「売りに出ているということは経営状態はどこも悪い」と認めたうえで、価格・立地・敷地の広さ、そして何より「譲ってもらえるかどうか」を重視した。
前のオーナーに対しては何度も足を運び、自分の事業計画をプレゼンし、好きなお酒を持参して一緒に飲みながら情熱をもって思いを伝えた。
「ほかにも買い手がいたみたいなんですけど、そこまで熱意を持って自分でやりますというところはなかったみたいで、だからちゃんとやっていけそうだねということで譲っていただいた」
金融業界での華やかなキャリアを捨て、斜陽産業とも言われる日本酒の世界へ。
160年の歴史を持つ酒蔵をM&Aで承継するという異例の決断に至った青木さん。彼女が立ち上げた「葵酒造」の哲学と、縮小する市場で未来を切り拓く戦略とは…
(新潟ニュースNST編集部)

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