連載小説「眠らない女神たち」 第一話 『チョコレートの魔法』(前編)

連載小説「眠らない女神たち」 第一話 『チョコレートの魔法』(前編)
       


しゃがんでウォーターサーバーからマイボトルにお湯を注ぐ。まだ昼前だというのに私は酷く疲れていた。七分目まで注がれたお湯にティーバッグを放り込み、蓋をする。よっこいしょ、と立ち上がると、視界の端に入り込んだ明るい栗毛。心臓が跳ねた。悪い意味で。

「お待たせしました」

私はその栗毛の持ち主に愛想笑いを浮かべながら、ウォーターサーバーの前を開ける。見慣れた眉間のしわが今日はより一層深く見える。ナチュラルに見えて隙のないアイラインが私は苦手でたまらない。

アイラインだけじゃない。緩くカールした髪も腕まくりしたシャツもタイトなスカートも本当に苦手だ。欲しいと思っていたリバティ柄のマグカップも苦手になった。彼女の、畑中美月の存在そのものが私は苦手なのだ。

マイボトルをデスクに置いて、ひっそりとため息をつく。水川千陽と自分の名前が書かれたカードーキー兼名札が、胸の前でぽんぽんと揺れる。私にはそれが酷く疎ましいものに見えて、ギュッと胸に押し当てた。

この名札を捨ててしまえたら、美月と二度と会わずに済む。けれどそれをしないのは、美月のせいで仕事を辞めるのが癪に障るからだと私は分かっている。美月に負けた気がする。私は一見価値のない対抗心が、私自身を水川千陽たらしめていると知っている。

美月は私と同い年で、同じチームで働いている。繋がりといえばそれだけだった。例えクラスメイトであったとしても、会話はおろか挨拶さえ満足に交わさないほどタイプが違う。

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2016年3月8日のライフスタイル記事

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