中国の「監視社会化」を考える(5)──道具的合理性が暴走するとき

<中国のなかでも新疆ウイグル自治区における監視は、社会の安定のためには人権も顧みない最も抑圧的なものだ。最新のテクノロジーを駆使して人物の特定や分類を行うなど、監視技術も進んでいる。政府によるこうした監視を監視する強い市民社会がなければ、先進国でも同じことは起こりうる>

       ◇◇◇

*第1回: 現代中国と「市民社会」
*第2回: テクノロジーが変える中国社会
*第3回: 「道具的合理性」に基づく統治をどう制御するか
*第4回: アルゴリズム的公共性と市民的公共性

第5回:道具的合理性が暴走するとき

「イプシロンは、自分がイプシロンでも気にならないのよね」レーニナは声に出して言った。

「そりゃそうだ。当然だろ。それ以外の自分を知らないんだから。もちろん僕らはイプシロンなんていやだけど、それはそういう風に条件づけられているからだよ。それに、もともと別の遺伝形質をもって生まれてきている」

「わたし、イプシロンじゃなくてよかった」レーニナはきっぱり言った。

「もし君がイプシロンだったら、条件付けのせいで、ベータやアルファじゃなくてよかったと思うはずだよ」

──オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』(大森望訳)より

日本でも、最近は中国の「監視社会化」への関心が高まっているようで、それをテーマにしたメディアの記事や新書なども目に付くようになってきました。それらの多くは、ジョージ・オーウェルが『1984年』で描いた、独裁者「ビッグブラザー」が至る所に設置された「テレスクリーン」を通じて人々の言動を監視するディストピア(オーウェル、2009)、あるいはドイツの政治学者、セバスチャン・ハイルマン氏が用いた「デジタル・レーニン主義」のような、中央政府に極度に情報が集中した、冷戦期におけるスターリニズムのイメージで捉えようとするもの(Heilmann, 2016) だといってよいでしょう。
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