民主主義が嫌悪と恐怖に脅かされる現代を、哲学で乗り越えよ

       
<アメリカで注目の思想家マーサ・ヌスバウムが、恐れを読み解く哲学で提言する「嫌悪の時代」を生き抜く流儀>

イギリスのビアトリス王女、モデルのカーリー・クロス、実業家のデービッド・ロックフェラーJr.、ロバート・F・ケネディの娘ケリー・ケネディ──多くの著名人が昨年12月、ニューヨーク公共図書館に集った。

華やかなイベントの正体は第3回バーグルエン賞授賞式。その主役であり、「社会的・技術的・政治的・文化的・経済的変化によって急速に変容する世界において方向性や知恵を見いだす力となり、自己理解を促進させた思想家」に授与される同賞を受けたのは、エレガントな「哲学界のロックスター」、マーサ・ヌスバウムだった。

シカゴ大学の法学・倫理学教授である71歳のヌスバウムは正義、および正義の私的・政治的な影響に情熱的な関心を寄せる。とはいえ目を向けるのは理論にとどまらない。哲学を用いて、対話における表現をよりよいものにすることが彼女の使命だ。新著の『恐怖の君主制』では、怒りや嫌悪、嫉妬という感情は古代以来、人々の分断に利用されてきたという視点から現在の政治的危機を考察する。

学者は象牙の塔の住人で政治論争を遠ざけるという批判を、ヌスバウムは受け入れない。哲学の祖である先人らを模範とするからだろう。「古代の偉大な思想家は政治問題と距離を置かなかった。(古代ローマの哲学者)セネカはローマ皇帝ネロの指南役であり、悪行をさせまいとした。政治の現実から逃れる道はなかった」

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