成長するにつれて遊ぶことはなくなったものの、それでも手放さないように頼むことは忘れず、店舗が2度移転した際にも、ブレーキが固着したまま無理やり牽引してまで運んでもらうなどして所有し続けた。
フロントとサイドのルーフレールはそのままで、モノコック構造のボディに影響を与えないオープンボディ化がなされている。
大人になり、実際に所有権が徹也さんに移ることになるが、それまでも実質的に徹也さんのスバル360だったと言っても過言ではないだろう。
長年動かないオモチャであったスバル360のレストアが行われたのは2007年のこと。いつも来ていたスバルマニアの郵便配達員が「触らせてくれ」と言うのでクルマを預けてみたところ、キャブレターの清掃をしてくれてエンジンが復活。
そこから溝辺さんも本格的にレストアを開始し、ボディや足回りなどを修復。オリジナル部品を保ったままフルレストアを行った。
当時のままの姿でよみがえったようなスバル360を前に、溝辺さんは「これほど長く所有しているオーナーで、自分ほど若い人はまずいないでしょう。
ステアリングの樹脂部分に割れが見られるが、60年経過したクルマとしてはきれいな状態といえる。
通常のスバル360であればメーターが何周かしていたり、エンジン交換で初期化されていてもおかしくないが、この個体は正真正銘の1周目、走行距離は5万4500㎞である。
リヤシートは簡単に倒れ、荷台になる。四角いカバーの部分は、サービスホールになっている。
幼少期の溝辺さんの遊び道具だったことを示す、フロントのルーフ内側に貼られた「紫電改のタカ」の転写シール。
このスバル360コンバーチブル以外にも、グランドグロリアや初代クラウンなど、数十台の旧車を所有する溝辺さん。しかし一番長い付き合いであるスバルへの思い入れは強い。「マニアの人にスバル360の標本、と呼ばれるような姿でレストアできたので、これからもオリジナル状態を維持していきます」
ノスタルジックヒーロー vol.195 2019年10月号掲載(記事中の内容はすべて掲載時のものです)