日本、タイ、韓国など、今、大注目のアジアBLドラマ。同じく注目を集める台湾BLドラマ「Be Loved in House 約・定~I Do」や「隔離が終わったら、会いませんか」「正負之間~Plus & Minus」などを手掛けたプロデューサー・アニタ・ソン(宋鎵琳)さんに、台湾BLドラマの変遷、ドラマ制作についてお話を伺いました。

タイBLドラマ『2gether』シリーズの世界的ヒットに端を発し、日本でもタイや台湾、韓国などなどアジア発のBLドラマが一大ブームを巻き起こしています。

日本でも『おっさんずラブ』や『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』を始めとするBLドラマの大ヒットに始まり、『美しい彼』や『みなと商事コインランドリー』などBLコミック原作ドラマが続々と制作されています。

まさに空前のBLドラマブームともいえる現在、中でもいち早く世界に向けてBLドラマを売り出していったのは実は台湾。

台湾BLドラマの金字塔ともいわれる『HIStory』シリーズや、日本でも人気の高い『We Best Love』シリーズの買付を担当し、
『Be Loved in House 約・定~I do』、
『隔離が終わったら、会いませんか?』、
『正負之間~Plus & Minus』と
3作品のBLドラマでプロデューサーを務めたアニタ・ソン(宋鎵琳)さんに、台湾BLドラマの変遷、ドラマ制作についてお話を伺いました。
日本語で制作側の思いが聞ける機会は超貴重! 各作品の制作秘話も……。
第1回「HIStoryの成功が台湾BLを変えた?」ドラマPD...の画像はこちら >>

アニタ・ソン(宋鎵琳)さんインタビュー

▲『正負之間~Plus & Minus』メインキャストの皆さんとアニタさん(写真中)。左からマット・リー(李見騰)、ハオ・シー(石承鎬)、マックス・リン(林上豪)、キレイ・チェン(鄭齊磊)
via www.instagram.com■アニタ・ソン(宋鎵琳)さん プロフィール

学生時代、リー・グオショウ(李國修)氏に師事し演出を専攻。その後日本に二度の留学を経験。
日本で就職し、『HIStory』シリーズや、日本でも人気の高い『We Best Love』シリーズの買付を担当。
『イタズラなKiss~Miss In Kiss』、『Life 線上の僕ら』など多くのドラマ制作にも携わる。
現・株式会社ビデオマーケットチーフプロデューサー。

初めてBLドラマに触れたのは『HIStory』だった

──初めてBLドラマを手掛けたのはどの作品だったんですか?

アニタ・ソン(以下、同) 2017年の『HIStory』シリーズ(※)の第一弾ですね。

※『HIStory』シリーズ……2022年現在、4シリーズ・8エピソードが公開されている台湾BLドラマシリーズ。
2017年公開の第1弾は「マイ・ヒーロー」「離れて、離さないで」「ボクの悪魔」の短編3話で構成。アーロン・ライ(賴東賢)はこの「マイ・ヒーロー」で主演し、「BLの天才」とも呼ばれている。

【DVD予告編】HIStoryシリーズ 『マイ・ヒーロー』『離れて、離さないで』『ボクの悪魔』

via www.youtube.com台湾でもヒットしましたが、日本語字幕の付いたYouTube動画の再生数がすごくて、これは日本でもニーズがあるんじゃないかということで、買付けしたんですよね。(日本では同年に劇場公開された)

私、BL全然知らなかったんですよ。腐女子でもないし、マンガも読んだことがない(笑)。
『HIStory』を劇場公開したときに客層を見て「女性のファンが多いんだな」と思ったぐらいで。

ただ、周りにBL好きな人が居て、BL作品を日本で配信したいって盛り上がっていたんです。
私の友人も、もともと日本のアイドルが好きだってことは知っていたんですが、家に行ったら本棚にはBLコミックがぎっしり(笑)。

私にBLの世界を教えてくれたのは、そういった周囲の人やファンの方たちです。
その後『HIStory2』(※2)を手掛けて、2018年にイベントを開催したんです。
(2018年DATV主催のHIStory2展。衣装展示やパネルの展示などが行われた)

※2 HIStory2……『是非~ボクと教授』『越界~君にアタック』の2作品で構成される。2018年公開。
第1回「HIStoryの成功が台湾BLを変えた?」ドラマPDに聞く台湾BLドラマ制作の裏側~アニタ・ソンさんインタビュー
第1回「HIStoryの成功が台湾BLを変えた?」ドラマPDに聞く台湾BLドラマ制作の裏側~アニタ・ソンさんインタビュー
そこでファンの方と直接触れ合うことで、もう情熱というか熱量の高さを実感しました。
だって皆衣装の縫い目まで細かく見てるんですよ(笑)。

──確かにファンとしては見ちゃいますね! もう隅から隅まで見たいですもん。

参加者の皆さんが「配信してくれてありがとう」って口々に声をかけてくださって。
熱量の高さもそうですが、こちらもすごくいいことをした気持ちになりましたね。

──確かに『HIStory』シリーズといえば、第4弾まで制作されるほどの人気シリーズです。日本で配信してくださってありがとうございます(笑)。では、現在のようにプロデューサーになったきっかけは?

もともと学生時代は演出を専攻していて、恩師の奥様(王 月さん)の関連で『流星花園』(※3)の現場にも参加させていただいたりして。

※3 神尾葉子氏のマンガ『花より男子』を原作とした台湾ドラマ。王 月氏は本作品で、主役・牧野つくしの母を演じていた。

2度めに日本に来日した時も、映像プロデュースを学んだんです。日本の映画も大好きなので、いつかは自分もやってみたいとずっと思っていました。
他にも『イタズラなKiss~Miss in Kiss』『Life 線上の僕ら』(※4)の制作にも一部関わりました。

※4 『イタズラなKiss~Miss in Kiss』……多田かおる氏の『イタズラなKiss』が原作の台湾ドラマ。
『Life 線上の僕ら』……常倉三矢氏の同名作品が原作のBLドラマ。『HIStory3 那一天 ~あの日』主演CPの特別出演も。
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コロナがなかったら、プロデューサーにはなっていなかった

第1回「HIStoryの成功が台湾BLを変えた?」ドラマPDに聞く台湾BLドラマ制作の裏側~アニタ・ソンさんインタビュー

2021年5月より日台同時配信された『Be Loved in House 約・定~I do』。横暴上司×ツンデレ部下のじれったくも胸キュンの恋模様が描かれる。
© 2021“Be Loved in House - I Do” Partners All Rights Reserved.──そこから最初の作品『Be Loved in House 約・定~I do』の制作につながるわけですか?

きっかけは、もうコロナですね。

日本はプラットフォーム間の競争が激しくて、コンテンツの調達だけでは厳しい側面があります。やはりオリジナルコンテンツを制作していかないとならない。

そんな中で、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、在宅勤務になったんですね。もともと台湾に帰る予定だったので、それを契機に少し早めに台湾に帰ったんです。そうしたら、日本に戻れなくなった。

でもまだ台湾ではそれほど行動制限が厳しくなかったので、ではBLドラマを作ろうと。

やはり『HIStory』シリーズの成功が大きかったんですよ。
BLドラマが商業的に成り立つということがあの作品で分かったからこそ、BLドラマの企画がすんなり通ったんですね。

『約・定』の企画はそこから始まって、プロデューサーをやりたいと手を上げました。
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    ▲『約・定』場面カットより
    © 2021“Be Loved in House - I Do” Partners All Rights Reserved.
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話は少し戻りますが『We Best Love』(以下、『WBL』)の買付も担当したんです。
『WBL』のプロデューサーももともとはプロモーション関連の別の仕事をしていたんですが、自分で資金を集めてプロデューサーとしてWBLを制作したんですね。
「私も作るから、あなたも」と彼女の姿を見て後押しされた部分もあります。

※5 『We Best Love 永遠の1位/2位の反撃』……2021年1月より日台同時配信されたBLドラマ。

台湾BL「We Best Love 永遠の1位」予告編(日本語字幕)

via www.youtube.com

オーディションも記者会見も最初は誰も来てくれなかった

──タイなどでは、BLドラマが新人俳優の登竜門的な位置づけにあるとされていますが、台湾ではどうですか?

台湾も同じですね。ただ『HIStory1』の時はオーディションに来てくれた俳優は少なかったとプロデューサーから聞きました(笑)。
記者会見も全然人が集まらなくて。やはり皆BLを知らなかったから。

それが『約・定』のオーディション時には、書類選考した上でもさらに50~60人くらいが参加してくれたんです。もう『HIStory』様々ですよね(笑)。

──それはすごい! 『約・定』では、アーロン・ライ(賴東賢)さんとハンク・ワン(王碩瀚)さんが主演の金石CPを演じられましたね。お二人もそのオーディションで選ばれたのでしょうか?

はい、アーロンとはそれまでは全く面識がなかったんですが、オーディションに参加してくれて。

──アーロンさんは『HIStory マイ・ヒーロー』でも主演されていますよね。

そうなんです。だから一度BLドラマで主演しているのに、どうしてまたオーディションに来てくれたんだろうって思ったんですよ。
でも彼に聞いたら「前作から4年経っているし、俳優として演じたい役があれば、もう一度主役をやりたいんだ」って。
もう感動しましたね。

──アーロンさんご自身は、別のインタビューで「オーディションでは自信がなかった」と。

そうなんですよ! 別に冷たくした覚えもないのに不思議です(笑)。
オーディション時にアーロンが登場した途端、その場のスタッフ全員「おおーーーっ!」って。
もちろん事前に彼が来るとは分かっていたわけですが、やはり圧倒的な存在感がありました。

それともう一つ、彼の場合は2019年に事故にあい、そこからまた回復してきたという経験がある。だからこの仕事を大事にしてくれるだろうと思いました。
主人公のジン・ユージェン(金予真)役を彼に決めた後で、脚本に傷跡のエピソードを追加しました。
第1回「HIStoryの成功が台湾BLを変えた?」ドラマPDに聞く台湾BLドラマ制作の裏側~アニタ・ソンさんインタビュー

▲『約・定』場面カットより。2019年に大きな交通事故にあい、身体に傷跡が残ってしまったアーロンさん。ドラマで描かれる金予真の傷跡は本人自身のもの。
© 2021“Be Loved in House - I Do” Partners All Rights Reserved.ハンクの場合も、出てきた瞬間にもう「えっ、こんな子が居たの!?」って思うくらいインパクトがあって。

──お二人ともすごくオーラが違ったんですね。大勢の方が参加されたオーディションでしたが、その中でこの二人に決めようと思われた理由はあるんですか?

彼らのケミストリー(相性の良さ)ですね。
二人で並んだ姿に自分の心が動くかどうかをまず見ます。

オーディションの時には、相性が良さそうだなと思った方たちに、実際触れる寸前くらいまで顔を近づけてもらって写真を撮るようにしています。写真を見て、この二人は合うな、いいな、と感じる方を選ぶんです。
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