俺のクルマと、アイツのクルマ
男にとって車は名刺代わり。だから、いい車に乗っている人に男は憧れる。
じゃあ“いい車”のいいって何だ? その実態を探るため「俺よりセンスいいよ、アイツ」という車好きを数珠つなぎに紹介してもらう企画。■10人目■
大鍛冶和由さん(43歳)
「ミニ好きは冴羽 獠ゆずり」な男の、父から受け継いだミニ・ク...の画像はこちら >>
アメリカをルーツに100年以上続くワークウェアブランド、カーハートのカジュアルウェアラインである「カーハート WIP」を日本で展開するワーク イン プログレス代表取締役。現在は都内で妻と愛犬と暮らしている。■ミニ・クラブマン・エステート■
「ミニ好きは冴羽 獠ゆずり」な男の、父から受け継いだミニ・クラブマン
ミニが1969年にMk-IIIというモデルへ以降する際に、新たに追加されたのがクラブマン・シリーズ。フロントマスクがミニとは異なるのが大きな特徴で、ミニ同様3ドアのハッチバック(クラブマン・サルーン)のほか、大鍛冶さんの愛車であるクラブマン・エステートがある。それ以前にあったミニのカントリーマン/トラベラーを受け継ぐワゴンモデルだ。--{1/4}--

気持ちのメンテナンスをするための道具

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全長3.5mにも満たないクラブマン・エステート。見た目通り、スピードはたいして出ない。しかしほかの車と比べて低い位置に座るため、実は体感速度は見た目以上に速く、やはりミニシリーズ特有の“ゴーカートフィーリング”だ。

大鍛冶さんは、「うるさいし、ガソリンがあまり入っていないと、コーナーを曲がる際にガッてケツを振ることもあるんですよ」と笑う。

思い立ったら、たとえ夜中であろうと、ひとりでよく深夜の高速道路を自宅から横浜や千葉まで走るという大鍛冶さん。自分にとって車で走ることは、ストレスを洗い流すためのいちばん手近な方法だという。

といっても、そのドライブは速度を求めるのではなく、“車に合わせた走り”を車と向き合いながら追い求める。
「多分その車にとって心地いいエンジンの回し方や走らせ方があって、マフラーからの排気音や振動でそれを感じとりながら、自分の呼吸とハマるポイントを探すんです」。

特に古い車にはそうした「ここ!」というツボがあるという。そうやって飛ばして帰ってきて「あースッキリしたって(笑)。で、ぐっすり寝る」。それが昔からずっとやっている、彼の心のメンテナンス法だ。



さらに最近は、トイプードルの愛犬ココちゃんも癒やしを与えてくれる。小さな愛車と小さな愛犬が、大きな仕事をする大鍛冶さんの心の支えとなっている。

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ミニ好きは、父と冴羽 獠ゆずり

車好きの父親の愛車に囲まれて育った大鍛冶さん。実はこのクラブマン・エステートも18歳のある日、父が所有しているのを知って、初めて見たときにひと目惚れ。それから約10年後、27歳の頃に父から譲り受けた。

そして小さい頃から好きだった「アニメの『シティーハンター』に憧れて」赤いボディに白いルーフのミニ・クーパーも手に入れた。

かといってミニだけが好きというわけではない。車好きの父親のそばで育った男の子が車好きになるのは必然で、「今はゲレンデ ヴァーゲンもあるし、アウディのS8も乗っていたことがあります。

あとはスマートのロードスター、シボレー、ベンツ……」と、車遍歴を聞き出すと小一時間はかかりそうなくらいだ。



車もファッションも「いろんなカルチャーが好きですね。カーハートは元々アメリカで、今の仕事柄もちろんアメリカ車も好きだけれど、それにこだわることはありません。自分がいいな、と思う車に気が向くままに乗ってます」。

これまでには新しい車も乗ったが、基本的には古い車が、国籍を問わず好き。「古い車のほうが走ってると、なんとなく今日はコイツ、調子がいいなとか悪いなとかわかりやすくていいいんですよ」。

ギアの入れ方ひとつ、アクセルの踏み込み加減も、相棒の調子を見定めながら、車も自分も気持ちいい「ここ!」というツボを追求する作業が、大鍛冶さんにとっての走る喜びなのだ。

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大事なのは、“らしさ”や“味”がちゃんとあること

大鍛冶さんが代表取締役を務める「カーハート WIP」は、ご存知の通りアメリカをルーツに持つブランド。商品はどれもどこか武骨で、昔からずっと変わらない味わいを持つことが魅力。

「昔からあるペインターパンツにしろ、コートにしろ、今ではほかのブランドでも作られるアイテムですが、カーハートは100年くらい前から作ってきたものです。時代とともに、少しずつアップデートしていますが、現代化し過ぎないというか、オリジナリティを残しながら進化するブランドなんです」。



それはどこか、大鍛冶さんの車選びにも通じる気がする。

昔からほかの何ものにも似ないオリジナリティがある。空気抵抗をなくして燃費を稼ぐという今どきの車のフォルムにはない、武骨さがある。ヴィンテージだから価値があるのではなく、長い歴史の中で培われてきた味が、それを手にする人を楽しませる。

車もどんどん新しくなって、電気自動車だ、自動ブレーキだと最先端機能が搭載されるのが当たり前になってきているけれど、その分いざ修理をしようとすると専用の機械が必要になる。



「その点ボクが乗っているような車って、今の車と比べたら遙かに構造が単純で、だからどこへ修理に持っていっても『どれ、どこが調子悪いの? あー、はいはい、なるほど』って。『この車種は久しぶりだなあ』なんてうれしそうに修理をしてくれます」。

確かに古い車って壊れますからね。「いや、言うほど壊れませんよ。人だって歳を取ったらいろいろ悪くなるじゃないですか。だいたい、そろそろかな、と思っている所が壊れるから困ることはあまりないです。妻とのドライブ中の故障は、さすがに怒られましたけどね(笑)」。

次に乗りたい車は決まっているのかとたずねると、車種は決めていないが常にアンテナは張っているという。
「車を買いたいタイミングで、その時のアンテナにビビッとくるものがなくて断念することも多いんですが、友人から『好きそうな車が出てたよ』なんて連絡をもらう場合もたいてい、僕からすると程度が良すぎる。例え年季の入っている車でも、古い車なら内装までオリジナルのものがいい。できる限りオリジナルに近い状態のものを『さあ。どう乗ろうか』と考えるのが好きなんです」。



ヴィンテージだからって無駄に高いものは手にしない。自分が欲しいと思ったら創意工夫で乗り越える。

そうやって大切に走ることで車との会話を楽しむ。ドライブの行き先も気の向くまま。当日にテレビやネットで見つけた「美味しい食事ができるところ」を行き先に定め、愛車で走る。そんな行為自体が楽しく、大鍛冶さんにとっての癒やしなのだ。

カーハート WIPは、我々のようなど真ん中世代はもちろん、10代などの若い世代にも人気のブランド。その理由はもしかしたら、大鍛冶さんのクラブマン・エステートと同じように、世代を超えても変わらない唯一無二の“味わい”なのかもしれない。

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