いわゆる有名ブランドのことを、我々はどの程度知っているのだろう。その名前だけではなく、歴史とモノ作りの哲学を知ることによって、本当の意味で「ブランドの価値」を理解できるのかもしれない。

サーフィンをはじめとしたスポーツカルチャーをインスピレーションの源に、東海岸的な洗練された解釈の服を発信するサタデーズ ニューヨークシティ。サーフという言葉のコアなイメージをクリーンなものにガラリと変えてしまったブランドは、いったいどんな人たちが作っているのか。設立メンバーに話を聞く機会を得た。

サタデーズ ニューヨークシティとは?
2009年、NYのソーホー地区にショップをオープン。サーフに根ざした東海岸的でクリーンなファッションアイテムと、カフェを併設した独自のスタイルが支持される。

’12年に代官山店のローンチで初の海外進出を果たす。

衣料のほか、シューズやバッグ、革小物などを展開。’16年には米『GQ』誌のベスト・ニューメンズ・デザイナー賞を受賞。

現在はNYに2店舗、日本に5店舗、オーストラリアに2店舗を構えている。



「今までもこれからも“ナチュラル・ステップ”で!」

創業者に聞いた「サタデーズ ニューヨークシティ」という名前の...の画像はこちら >>

コリン:「僕らは休日にサーフィンやスケートボードを楽しむ仲間でした。出版とアパレルという異業種でしたが、趣味の時間をともに過ごすなかで“何か一緒にやろうよ”という気持ちが高まっていきました」。

モーガン:「ある日コリンの家で、ビール片手に“じゃあ、何しよう”って。

2007年頃のNYのサーフシーンは、僕らには少し物足りない感じがしたんです。いい波は立つけれど、西海岸のようなカルチャーがなかった」。

コリン:「そう。だから、何かカルチャーを感じられるクリエーションを手掛けよう、ということになったんです」。

NYのサーフ仲間だった2人に、今は脱退したジョシュ・ローゼンを加えた3人でブランドを発足。ブランドの骨格が決まるのに時間はかからなかった。

モーガン:「コリンが“サタデーズ”という名前のアイデアを出したら、全員が即賛成。次の日が日曜だっていう幸福感、わかるでしょ? “日曜日”はダメ。翌日の仕事を思うと憂鬱になる(笑)。この感覚をプロダクトに込めたかった。ブランド名と同時にコンセプトも自然に定まったといえますね」。

’09年、ソーホーの静かな通りに最初の店をオープン。

プリントTシャツを中心としたコレクションのほか、サーフギアや写真集などを並べるという、カルチャーに深くコミット(※1)したスタイルも画期的だった。

時代を先取りした東海岸的解釈のクリーンなサーフスタイルに、目の肥えたサーファーたちが注目。カフェを併設したラウンジ風ショップは、大きな話題となった。

モーガン:「NYに作った最初の店は、誰もが気軽に入れるようにしたかった。そのためには、カフェとバックヤードが不可欠。当時は、この店はカフェなの? 服屋なの?と、先入観にとらわれる人たちの批判もありました。

でも、常にオープンでありたいという僕らのフィロソフィーから、このスタイルを貫いたんです。今では服を買ってコーヒーを飲むなんて普通のこと。僕らの考え方が受け入れられたんだと思います」。

’12年には初の海外店舗となる代官山店がオープン。その後も神戸やオーストラリアのシドニーなど、世界に“サタデーズワールド”を広げていく。

コリン:「モノ作りの際に最も重視しているのが、バランスという言葉。

僕らがNYで仕事をしながらサーフィンするというのも、その一例です。大都会での仕事と自由な時間のバランスをうまく保っていきたい。相反するもの同士でバランスを取ったクリエーションこそ、格好いいと思うんです」。

モーガン:「その思いがブランドロゴの/(スラッシュ)に表れています。ただ今は忙しくて、プライベートのバランスを少し欠いていますが(笑)」。

コリン:「今後もショップを中心としたコミュニティに根ざした、人の輪をつなげるようなモノ作りを続けていきたい。最近のヘアグルーミングラインの発売や、エバーラストとのコラボなども、自然ななりゆきで進んだ企画。僕らがいいと感じたものを少しずつ、“ナチュラル・ステップ”で増やしていければいいですね」。

カルチャーに深くコミット(※1
編集職の経験があるコリンの主導で、ブランド独自の雑誌も刊行。またサーフだけでなく、スケートボードやボクシングなど、スポーツメーカーとのコラボレーションにも積極的に取り組んでいる。

鈴木泰之=写真 髙村将司=文