PUNK日本酒●「俺たちが飲みたい日本酒は違うんだよね」と名乗りを上げた若手醸造家たち。不要なルールは無視して、とにかく美味いこと最優先。
日本酒業界で話題の新星「WAKAZE」をご存知だろうか?
そのスタイリッシュなボトルデザインと斬新な味わいは従来の日本酒の概念を覆すほどのインパクトがあり、最近では日本酒を「世界酒」にすべくフランスに“殴り込み”をかけた、まさにPUNKな男たちなのだ。
WAKAZEの醸造責任者で杜氏の今井翔也さん(31歳)に日本酒造りにかける想いを聞いた。
NEXT PAGE /「お茶」を使った2種のナチュラル「SAKE」の正体
──最近、WAKAZEのスタイリッシュなボトルを見かける機会が増えてきましたが、種類もかなり豊富ですよね?
今井 ありがとうございます。WAKAZEの酒造りの本拠地は山形にあるんですが、昨年7月に、レストランを併設した三軒茶屋醸造所をオープンして、三軒茶屋では新しい酒を意欲的に造っています。昨年は年間で30を超える新しいレシピの酒を仕込みました。レストランでお客さんの反応を見ながら、高速で試行錯誤しています。
──30ですか!? 新たなレシピというのは、例えば?
今井 昨年、副原料として花・柑橘・茶葉を取り入れたお酒を開発しました。これらを米と一緒に発酵させるので、法的には「日本酒」ではなく、「その他の醸造酒」扱いになります。クラフトビールなどでボタニカルを取り入れる動きはありましたが、日本酒ではうちが世界で初めてです。
──お茶も入っているなんて斬新ですね。
今井 お茶は世界中でさまざまな種類があるので、素材としての面白さも感じましたね。
──わ、ワイングラスで飲むんですか?
今井 ワイングラスのほうが見た目を楽しんでいただけるだけでなく、香りも楽しんでもらえますからね。さぁ、どうぞどうぞ。
──(ゴクリ)ん!? 日本酒とは思えない複雑な香りがします!
今井 「オリエンタル」は、南国をイメージしました。山形の米、そして台湾から取り寄せたジャスミンティーやハイビスカス、レッドローズペタル、オレンジピール、コリアンダーシードが入っていて、華やかな香りが特徴です。お茶由来のちょっとした渋みが味を引き締めてくれました。一気にWAKAZEの看板商品になりましたね。
「チャイ」は、インドの紅茶をベースに、しょうが、シナモン、カルダモン、クローブ、ピンクペッパーの5種類のスパイスを使用し、まさにマサラチャイをイメージして造りました。フルーティな酸味を出す酵母を使い、果実感とスパイスがうまく合うようにしています。
──すごい工夫ですね。
今井 麹も「白麹」というレモンのような爽やかな酸味を出すものを使っていて、白麹酛(しろこうじもと)という製法で造っています。これは国内でも珍しいナチュラルな製法のひとつですね。できるだけ自然由来のものでお酒を造ることにこだわっています。
NEXT PAGE /ナチュラルでサステイナブルな製法とアート性の高いボトルデザイン
──自然製法にこだわっているんですね。
今井 日本酒には表示義務のない添加物があります。例えば酸類とかミネラル、酵素剤などですね。特に現代では、安定生産のために人工乳酸を入れる製法が主流です。でもそれは、料理で例えると化学調味料に頼っているという見方もあるのです。
──表示されない添加物ですか……。
今井 一流の料理人が素材から丁寧に出汁をとるように、WAKAZEのお酒も余計なものは入っていません。三軒茶屋で造っているWAKAZEのお酒は、すべて地域の湧き水を使って仕込んでいます。特に、水のなかにいる微生物の力を借りて造る「生酛」や「水酛」と呼ばれる製法では、水が変わればそこにいる生き物も変わるし、そうすると同じお酒を造ろうとしても、全然違うお酒ができて面白いんですよね。
──水でそんなに変わるんですね。
今井 誰でも造れる酒やどこでも造れる酒では、僕たちが造る意味はない。お酒造りも工業化が進んで、添加物を使って安定して造れるようになりました。一概に悪いこととは思いませんが、そこに甘んじていると、日本酒はただ酔っ払うためだけの飲み物になってしまう。今はもう、次の日本酒の時代を作る流れがきていると思っています。
──原料のお米にもこだわりがあるのでしょうか?
今井 三軒茶屋ではどぶろくを造っているのですが、酒米でどぶろくを造ると、あっさりしすぎて美味しくないんですね。食べても美味しい米のほうが酒も美味しくなるので、「つや姫」という食用の米を積極的に使っています。米の力を引き出して、ボタニカルみたいな副原料を高いバランスで調和させることで新しいお酒ができると思っています。
──米らしさを大事にされている、と。
今井 米を磨いて磨いて、個性をなくして「きれい」なお酒を造るのが、ここ100年くらいの日本酒造りでした。「精米歩合」と言って、米を削いで磨くのですが、磨くほどに雑味のない上品な日本酒ができるんです。ある意味で贅沢だからこそ値段も張るのですが、ここ最近は逆方向に進んできています。
米を磨くことは、農家さんが一生懸命作った米を削って捨てるということだし、逆に言えば、磨いた米なら誰だって美味しいお酒は造れるんですよ。
──ところでWAKAZEは、今までの日本酒にはなかったボトルデザインも特徴的ですが。
今井 お客さんが手に取りやすく、テーブルの上を華やかに盛り上げてくれるようなデザインを心がけています。「オリエンタル」は原料のボタニカル素材をモチーフとして取り入れています。それが輪になって「調和」を表しているのがポイントですね。「チャイ」は、インドのイメージなのでタージ・マハルやゾウを描いていて、お酒の席でちょっとした話題にもなるはずです。
NEXT PAGE /日本酒を「世界酒」へ。酒蔵の末っ子が抱く使命感
──新しい酒造りのモチベーションはどこからくるんですか?
今井 もともと実家が、群馬にある「聖酒造」という酒蔵なんです。酒蔵の家に生まれた身として、いま日本酒が飲まれなくなっている状況は歯がゆい。日本酒業界全体に、何か僕ができることはないかと学生時代から考えてきてました。でも、残念ながら日本酒業界はまだまだ国内で小さくまとまっている状況なので、それを打破するためにも、僕はWAKAZEで日本酒を「世界酒」にすることを目指そうと考えました。
──今は海外でも日本酒は人気が出てきていますしね。
今井 日本酒が「世界酒」になるには、日本から世界に輸出するだけではなく、世界各地で日本酒が作られて、“地酒”になっていくことが大切。現地の人のアイデンティティがこもった日本酒が世界各地で造られてほしいと思っています。
──世界各地でワインが作られているように?
今井 そうですね。ブルゴーニュワイン、カリフォルニアワイン、グルジアワインのように、日本酒も世界中で、その土地ごとのお酒として広がってほしい。ただ、海外で造られたお酒は厳密には「日本酒」とは呼べないので、私たちは「SAKE」と呼んでいます。
海外でSAKEが広まるには、SAKEの造り手の数が増えないといけない。だから僕たちはフランスでSAKE造りに挑むことにしました。自分たちがロールモデルとなって、世界中の人に「もしかしたら自分たちもSAKEが造れるかもしれない」と思ってほしいんです。
酒造りの舞台はフランスへ! 硬水で醸すフランスの「SAKE」とは
──それは壮大な計画ですね。
今井 すでにパリに自社の酒蔵をつくって、SAKE造りに挑戦しています。パリは食の都だし、フランスはワイン大国でもある。きっと評価も厳しいでしょう。
日本と同じものを造るんだったら輸出と変わらないので、パリでしか造れないものにトライしたい。素材はフランス産の米を使用して、水は現地の硬水で仕込み、酵母は地元のワイン酵母を使う。そのあたりも徹底してチャレンジしたいですね。
軟水と硬水ではモノがまったく違いますし、難易度はかなり高いと思いますが、完成したあかつきには、ぜひパリにSAKEを飲みにきてくださいね!
株式会社WAKAZE●2016年設立、「日本酒を世界酒に」をビジョンに活動するスタートアップ企業。「委託醸造」という形で自社の商品を開発・販売し、「ワイン樽を活用して熟成させた日本酒《オルビア》」や植物やスパイスを入れて風味づけをした新感覚の酒「ボタニカルSAKE《フォニア》」など革新的な酒を世に送り出してきた。2018年7月には「その他醸造酒」の製造免許を取得し、東京・三軒茶屋にて自社どぶろく醸造所と併設飲食店をオープン、新時代の「SAKE」の開発と発信を行なっている。
www.wakaze.jp
横尾有紀=取材・文