備えよ。俺も、新学期とは・・・

上司が部下にやりがちな“あの行為”がハラスメントになるかを弁護士に聞く本企画。

中編となる今回のテーマは「SNS」だ。

新入社員100人の本音を探るべく「Q4.上司からSNSで友達申請が来たらどうする?」と質問したところ、半数以上が上司からの友達申請は許可しないと回答。

では、そもそもSNSで友達申請すること自体アリなの? ナシなの? 企業法務や労働事件を手掛ける弁護士の寺田正主さんに聞いてみよう。

>「あとはやっておくよ」はパワハラ? 日常業務に潜むキケンな発言を弁護士がジャッジを読む。

部下に友達申請はアリ? SNSに潜むハラスメントの危険を弁護...の画像はこちら >>

弁護士・寺田正主さん
石川・寺田綜合法律事務所所属。大手アパレル会社勤務を経て明治学院大学法科大学院に進学し、平成20年に司法試験に合格。
現在は第一東京弁護士会に所属し、企業法務全般および使用者側労働事件、家事事件を多く手掛ける。ズバッと言い切る語り口のおかげか、『実録!犯罪列島』シリーズ(TBS系)を中心にテレビ出演も多数。

――先日のアンケートでは、半数以上の若者が上司からの友達申請はスルーするという結果が出ました。

寺田 まあ、大前提として今は仕事関係の人とはプライベートを共有しないというのが常識ですからね。かつては正月に部下が一家揃って上司の家に新年の挨拶に行く、みたいな慣習もありましたが……今では冠婚葬祭のとき以外、上司と部下の家族が会う機会もほとんどない。時代の流れからもSNSは完全にプライベートなものとして、会社の人とは共有しないっていう若者も多いと思います。

――プライベートにうっかり踏み込んだらアウト……ってわけですね。そうならないためにも、また具体的な事象でジャッジしていただきましょう。では、


①SNSの友達申請はアリ? ナシ?

寺田 これはキッパリ言い切れませんが、基本的には「友達申請」はしないのがベスト。もちろん申請したからと言ってすぐさまハラスメントになるわけではありません。ただなるべく危険は避けて通るべき。

何度も言いますがSNSは個人的なもの。上司とつながることで会社にプライベートが筒抜けになってしまう。

上司は仕事を円滑に進めるために多少部下のプライバシーも知っておく必要がありますが、SNSでのプライバシーまで共有する必要は全くありませんからね。

――気をつけます(汗)。

寺田 それに万が一、上司から「友達申請したから承認しておいて」と言われたとします。部下の立場から見て、強制されていると感じたらハラスメントになる可能性もあります。そういう事態を避けるという意味でも、SNSでは極力つながらないほうがいいでしょう。

部下に友達申請はアリ? SNSに潜むハラスメントの危険を弁護士に直撃

――では、部下からの友達申請によってSNSでつながった場合、上司はどんなことに気をつけるべきなんでしょう。


②部下の投稿内容に触れちゃダメ?

寺田 直ちにハラスメントではありませんが……投稿内容に触れるのは極力やめるべきでしょう。一度、部下の立場に立って考えてみてください。例えば、上司からしたら世間話のつもりで「昨日、飲みに行ったんだね」と声をかけたとします。

ですが、言われたほうからすれば「次の日仕事があるのに遅くまで遊んでいるなんて……」と責められている気分になるかもしれません。パワハラと誤解されかねませんからね。


③部下の投稿にコメントするのはダメ?

寺田 これも絶対「ダメ」ではありませんけど……頻繁にコメントすれば、部下が行動を監視されていると感じることもありますし、そもそもコメントが来ること自体が干渉と捉えられる可能性だってあります。それにコメント内容によってはセクシャルな意図があると誤解されることもありますからね。


④では、部下の顔写真を載せるのは?

寺田 これはハラスメントよりも、まずプライバシー侵害になる可能性があります。たとえ悪気はなかったとしても、今はウェブで簡単に画像検索ができる時代。

この機能を使えば同じ人が写っている写真を探すこともできる。そうなれば当然ストーカーなど悪意を持った人にとっては個人を特定する手がかりになってしまいます。上司が良かれと思って仲の良い部下との写真をアップすることで、その部下を危険に晒すこともある、と自覚すべきです。

――恐ろしい時代ですね。

最近では勝手にSNSに写真を載せることをフォトハラ(=フォトハラスメント)と呼ぶらしいですが。

寺田 その言葉は初めて聞きましたね(笑)。勝手に写真を載せるのはもちろんダメですが……とはいえ、部下としては上司から「写真載せていい?」とお願いされたら、よほどのことがなければOKせざるを得ない。上司はそのことまで考慮する必要があるということでしょう。

部下に友達申請はアリ? SNSに潜むハラスメントの危険を弁護士に直撃

――常に部下の気持ちになって考えることが大事ですね。ほかにもSNS上で起こりがちなハラスメントってありますか?

寺田 上司から部下に自分勝手なSNSルールを強要するケースが考えられますね。特定の相手に返信(メンション)するとき「@~~」とつけますが、そのままだと呼び捨てになるから目上の人に対しては「さん」をつけろとか。実は僕もプライベートでそういう人に出くわしたことがあるんですよね。

――SNSマイルールオッサン、どの社会にもいるんですね。まあ、自分もそうならぬよう気をつけましょうってことか。

寺田 SNSはこれまで生きてきた文化の違いが表面化しやすいツール。立場の強い上司が自分勝手なルールを部下に押し付けることは、ハラスメントの原因にもなります。余計なトラブルを招かぬよう、親しい部下ともSNSの世界では“他人行儀”なくらいのほうが上手くいくかもしれませんね。

――勉強になります!

 

連載「備えよ。俺も、新学期」
Q1.上司にしたい芸能人は?、Q2.仕事で憧れる上司はどんな人?、Q3.どんなときに上司を頼りたい?、Q4.上司からSNSで友達申請が来たらどうする?

ピカピカの新入社員が入社してくる4月。我々は彼らと上手く付き合うためにどんな備えをしておくべきか。大人も新学期を迎える今、知っておきたい新入社員と向き合うための豆知識。上に戻る

岡本卓大=写真 小山田滝音=文