みんな大好き、ゴアテックス。だけどその実、詳しいところはよく知らなかったりする。
その真価を最新ウェアとともに見ていく本企画。まずはそのテクノロジーの原点についてお話ししよう。
ゴアテックス素材の「始まりと歴史」
「カーハート WIP」のジャケット
風をシャットアウトしつつ、通気性は確保する、3層構造の「ゴアテックス インフィニアム ウィンドストッパー ファブリック」。カモフラ柄のポリエステルシェルでミリタリーテイストを強めたプルオーバージャケット、大きめで着たいところ。
その成り立ちを紐解く前に、多くの人が勘違いしがちな部分に触れておくと、ゴアテックスというのはテクノロジーの呼称であって、特定の生地や素材を示したものではない。表地はナイロンやポリエステルがポピュラーだが、コットンやウールの場合もあるのだ。
いわゆる「ゴアテックス ファブリクス」と呼ばれるのは、そうした素材の表地と裏地に「ゴアテックス メンブレン」という特殊なフィルムを圧着したものを指す。
ではこのメンブレン、何からできているのかというと、なんと石なのだ。
蛍石と呼ばれるこの鉱物はフッ素樹脂の原料として知られ、ゴアテックス素材を開発したゴア社の創業者、ビル・ゴアは、フッ素樹脂の合成ポリマー(PTFE)を初めて発見した米国の科学メーカー、デュポン社でキャリアを積んだ人物だった。
独立したビルは1958年、妻のヴィーヴとともにゴア社を立ち上げ、彼らの息子ボブ・ゴアが’69年に先のPTFEを延伸加工してフィルム状にする技術を確立。それによって水を通さず湿気だけ通すという多孔質構造のメンブレンが出来上がり、’76年、今はなきアウトドアブランドのアーリーウィンタースによって衣服の素材として初採用された。
以降、この画期的なテクノロジーは急速に普及していくワケだが、シーンの多様化に伴い、軽さが重要視されたり、強度が求められたりとニーズにも幅が出てきた。我々が日頃目にする「ゴアテックス ○○」というバリエーションは、いずれもそうした背景から誕生したものだ。
通常、衣服に用いる「ゴアテックス ファブリクス」は表地、メンブレン、裏地の3層(レイヤー)で構成されるが、裏地を省くことで透湿性と軽量さに特化した2層構造のケースもある。
ただ、後者は汗をかいた肌に張り付きやすいなどのデメリットもあるため、着心地や軽さと防水・透湿機能のバランスを取るために生まれたのが、メンブレンの裏側に特殊なコーティングを施した、2層構造の「ゴアテックス パックライト プラス プロダクトテクノロジー」だ。
そして現在、ゴアテックス製品が都市生活でも浸透し、防水性だけでなく透湿・防風・保温性などの快適さも求められたため、それに応える形で2018年秋には防水性以外の技術を包括した新しいプロダクトシリーズ、「ゴアテックス インフィニアム」がお披露目された。
こうして、ゴアテックス ブランドは人々の暮らしや行動様式の変化に伴い、今も変化と進化を続けている。その高い技術力と歴史の重み、妥協のない姿勢こそが、今日の信頼を築いたと言えるのだ。
山本雄生=写真 松平浩市=スタイリング 今野 壘=文