いま注目のサーフボードをリサーチすると、200cm台というキーワードが浮かんできた。
そのファンな乗り味に心酔しているというオーシャンズ世代のプロサーファーの2人に、大いに魅力を語ってもらった。
200cm台サーフボードで中年もビギナーもエンジョイサーフ!
まるっきりのビギナーや今夏20年ぶりというカムバック組から、どんな波でも乗りこなす玄人まで、あらゆるサーファーを満足させる200cm台のサーフボードが昨今人気を集めている。
通称「ミッドレングス」と呼ばれるこの長さのボードは、誰にでも乗りやすいうえに、いろんな波で楽しめてしまうという懐が深いやつなのだそうだ。
──ミッドレングスって、詳しくはどんなボードなのでしょうか?
市東 まず乗りやすい。長さとボリュームがしっかりあって、浮力が大きいから安定性が高い。サーフィンは波に乗るまでが大変なんだけれど、そのハードルがグッと下がります。
吉川 ひと昔前は、「ファンボード」という括りをされていたボードだよね。でもその呼び方って、昔からバリバリやっているサーファーが聞くとちょっとイヤな感じがする。
市東 初心者用のボードっていうイメージで(笑)。
──少し格好悪いイメージですか?
吉川 うん。ファンボードって言いづらいというか、言われたくないというか。例えば難しいショートボードに乗っていた人がファンボードをすすめられると、「俺はちょっといいかな……」ってショートボードで頑張りたくなっちゃう響きがある。
市東 ショートボードは乗り方がシビアで、波のパワーがあるところでずっとコントロールし続けないといけないから難しいんだよね。
吉川 そう。
──確かに何か格好いい響き(笑)。
吉川 でもネーミングがきっかけで、たくさんの人がサーフィンを楽しむ幅が広がったってことは大事。乗りやすいし聞こえもいいから、カムバックサーファーにも受け入れられやすくなったと思う。
──ロングボードはたくさん波に乗れそうなイメージがあるのですが。
吉川 ロングボードを簡単な乗りものだと思っている人が多いけれど、実はショートボードにおける波の乗り方、波の読み方以上にもっといろんなことを予測して、はじめて乗りこなせるもの。だからミッドレングスは、ロングボードをやっていていろんな技が難しいと感じている人にとっても、いいチョイスだよ。
市東 どっちからでもエントリーできるボードなんだよね。ロングボーダーがもう少しターンしたいってときに、逆にショートボーダーがもう少しクルージングしたいとなるとミッドレングスになる。
──そしてビギナーにもおすすめできると。
吉川 ゆくゆくどっちにも進めるからね。そのままミッドレングスしか乗らないっていう手もありだし。そういう幅の広さを持てるのはすごくいいことだよね。
市東 そう考えると、今のミッドレングスは昔のファンボードとまったく別ものだね。フィンのセッティングやシェイプも吟味してオーダーできるし、作りがしっかりしているから一生ものになり得る。昔のファンボードは3本フィンのショートボードをでっかくしたような感じで、とりあえずというものだったからさ。
ミッドレングスを車で例えるならクラウン。その心は?
──お持ちいただいたボードは、見た目からして格好いいですよね。
市東 見た目でいえば、樹脂を色付けしたレジンカラーが特徴かな。ファンボードではそういうカラーリングはなかった。同じ形のボードでも、明るい色にするか暗い色にするのかでまったくイメージが変わるから、そういうところでも楽しめるよね。
──ミッドレングスでは、どんな乗り方をすればいいんでしょう?
市東 大きなターンで波をつないで、グライドしながらラインを通すだけ。
吉川 波に合わせるという、ベーシックなサーフィン。基本に忠実なところを追求できる。そこからハイパフォーマンスに行くか、クラシックに行くか。それがショートボードとロングボードの区分けだと思う。
──サーフィンの真ん中から入っていって、楽しさを感じられる。
吉川 そう。基本を学びやすい。
市東 サーフィンがうまくなる要素が詰まってるよ。
──なんとなくわかってきました! で、もっとわかりやすく、ミッドレングスを車に例えると車種は何ですか?
市東 車に例えるなら、高級セダン……クラウンみたいな感じ。乗りやすい。
──優雅(笑)。
市東 免許取りたての人がマニュアルのスポーツカーを運転するって難しいじゃん。設定がシビアだし、運転の技量もいる。それがショートボード。サーフボードも一緒だよね。クラウンならゆったりとクルージングできる。
──ロングボードを例えるならば?
市東 バスに近いよね。そこまでいっちゃう。乗用車ではない。
──そう考えると、乗りやすいのは断然クラウンですね。
吉川 一般的な高級車だよね。
市東 乗り心地もマイルドで。
吉川 ちょっと家庭的な(笑)。
食わず嫌いは損する、最後の背中押し
──続いてサーフボードの足回り、おすすめのフィンのセッティングはありますか?
市東 俺は1本のシングルフィンかな。いちばんシンプルな、サーフィンの基本形だから。
──吉川さんはどんなフィンセッティングがいいと思いますか?
吉川 うーん、僕はいくつかフィンが付けられる仕様がおすすめかな。シングルで基本を学びたいときもあれば、ツインで遊びたいときもあるだろうし、トライにしてよりマニューバーを楽しんだりもできるし。いろいろな好みに対応できるから、マルチなフィンセッティングがいい。200cm台くらいのボードだと、ボード自体のストライクゾーンが大きいから、あまり合わないフィンセッティングがなくて万能性に長けているんだ。
──聞けば聞くほど、懐が深いボードなんですね。ミッドレングスって。
吉川 テールデザインとかはその人の好みで味付けできるし、ノーズの形とかもいろいろスタイルが出せるしね。そのあたりはプロポーションの問題で、シェイパーさんと話し合って自分の好きなようにアレンジして楽しむっていうのもありだと思う。
──では最後に、さらにミッドレングスのここがいい! というポイントは何でしょうか?
市東 シティサーファーにはいいよ。住宅事情もあるだろうから。ロングボードだと長すぎるでしょ。エレベーターにも入らないだろうし。ミッドレングスなら持ち運びも楽で、家に置いておいても邪魔にならない。
吉川 いざとなれば電車でも行けるしね(笑)。波が小さいときに、無理に頑張らなくても気持ち良く乗れるところがすごくいい。かたくなに「いや、まだまだショートで!」ってなると、いずれ苦しくなるから。頑張るところはそこじゃない。ぜひ一線越えてもらいたいな。
市東 とにかく楽しいもん! 乗ってみなって、サーフィン観が変わるから。目の前が開けちゃうよ。
ふたりが手本にするのはデヴォン・ハワード
「200cm台ボードを乗りこなすために、動画を観て参考にするべきサーファーは?」とたずねたところ、2人が口を揃えて名前を挙げたのが、カリフォルニア出身のプロサーファー、デヴォン・ハワード(45歳)。
その彼が、名門ブランドのチャネルアイランズと開発したモデルがこちらの「CIミッド」。小さい波はもちろん、サイズがある波でも威力を発揮するデザインで、スピードがついても操作しやすく、らくらくとターンができてしまう優れもの。
山本雄生=写真(人物) 鈴木泰之=写真(静物) 髙橋 淳、小山内 隆=文