前編の続き

エンタメ企業を成功に導いてきた男の、医療界での新たな挑戦【後...の画像はこちら >>

名だたるエンタメ企業の第一線を走ってきた水上真さん(50歳)。彼がこれまでの経営経験を活かせる場として、次に選んだのは医療業界だった。

「テレビの仕事をするなか、数年前から医療番組の需要の高まりを感じるようになったんです。皆が興味を持つような切り口で医療ものを展開できないかなと、業界自体に注目していました」。

この頃、知人の病院長から、ちょうど医療商品開発から介護施設までワンストップでこなす会社の経営に入ってほしいという相談を受ける。さらに、大学病院で働く医師であり、妻・真美子さんの開業話もあり、医師本人や関係者からも経営の依頼があった。もはや流れは完全にできていた。

「勤務医と開業医って同じ医師なのに性質が違う。前者は診療に専念しやすいですが、後者は結局、事業運営なんです。新規開業は事業の立ち上げであり、とても大変だと実感しています。開業するには診療と経営の両軸がセットであり、サービスとして結果を残すためには医療の知識だけでは足りません。診療は診療のプロがやるものですが、経営はマネジメントのプロがやってこそだと思います」。

これはエンタメやメディア業界で水上さんが行なってきたことと同じ。いいコンテンツを、いい手法で届ける、ということ。

アスキー系企業で培った「ハード面」、そしてオリコンや日本コロムビアなどで得た「ソフト面」。どちらかが欠けてもいいサービスは生まれない。こうして進化形のクリニック、園調布耳鼻咽喉科医院は誕生することになる。


独自のマーケティングで生まれた、変則的な開院時間

エンタメ企業を成功に導いてきた男の、医療界での新たな挑戦【後編】

このクリニックには至るところに水上さんのマネジメント力が発揮されている。

とくに特徴的なのは、前編でも触れた開院時間だ。かなり変則的で、月曜日と金曜日は7~8時、19~20時と午前・午後で1時間ずつ。水曜日は7時から20時まで、木曜日は午前9時から18時半まで昼休みを挟んでそれぞれ全日営業する。そして、日曜日は10時~17時まで終日開院。火曜・土曜日は休診。そのすべてが、水上さんのマーケティングによって決定されている。

「他のクリニックの動向やどんな人が利用しているのか、夜の時間帯にはどのエリアの患者さんが来院しやすいか。実際に自分の目で見て調査して、営業時間帯を決めました」。

自宅から一番近いという理由だけで病院を決める時代は終わりを迎えつつある。

ネットで検索して、評判も調べたうえでクリニックを決定する人も少なくない。

「すでに日本最大級の検索サイトなどでは閲覧数では東京エリアで1位になっていたりもします」。

さらに人事も徹底している。看護師や受付スタッフも厳選し、大学病院にいた耳鼻咽喉科のスペシャリストを雇う反面、自分の専門だけやっていればいいという方針ではない。細かい連携ができるように受付も診療補助も横断的にできるようなゼネラリストに育てている。

マーケティングで病院がここまで変わるのか、そう感じるほどの徹底ぶりだ。


クリニック経営は挑戦でありながら、集大成

エンタメ業界やメディア業界で長く経営に携わったからこそ、医療業界に踏み込むほどに、そのマーケティング力や経営力は生かせると水上さんは気がついた。

「依頼されてやるからには、これまでの集大成として経営経験を活かして、結果を出さなきゃいけない、と思いました」。

経営の経験値を蓄えているからこそ50代に入ってもチャレンジできる。事実、結果も目に見える形で出始めている。

「ビジネスのベースは基本的に一緒で、そこに知識や体験が肉付けされていくと思っています。大事なのは圧倒的に他の人より努力すること。

そして最後はやっぱり勝ちたいという執念を持つことですね。それが自分にムチを打ってくれる。“必達事項”をどこに定め、具体的にどうすべきかを常に考えて行動すればいいんです」。

水上さんは、努力して当たり前と語る。それで、実を結ぶとは限らない。運や時代の流れもあるし、努力が必ず報われるわけではないからだ。

「それでも結果を出そうとする。その努力と経営経験、知恵と発想力、スピードがポイントだと常に考えています」。

そんな水上さんに現在の“必達事項”を聞いた。

「クリニックとしては皆様のお陰でいいスタートが切れたので、患者さん一人ひとりにこれまで通り本気で接していく。その積み重ねで評判が広がって、来年には関東有数の耳鼻咽喉科にしたいですね」。

エンタメ業界の変革に携わった水上さん、今度は医療業界でも好発進をしている。

まだまだ彼の挑戦への熱は冷めそうにない。

藤野ゆり(清談社)=取材・文 澤田聖司=撮影

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