それはピエール・ガスリーの12周目のピットイン時のことだった。見事なまでにスムーズなタイヤ交換を終えたピットクルーは互いをハイファイブで称え合った。さらには、その1周後にピットインしたマックス・フェルスタッペンのピットストップタイムも1.96秒だったというから、この日のレッドブルのピットクルーの仕事ぶりは見事としか言いようがない。
ピットストップ時の給油作業が廃止されてから、ピットストップタイムの短縮に各チームは心血を注ぐようになる。それまで4秒台が基本だったピットストップが、2011年には3.4秒(メルセデス)、2012年には2.32秒(マクラーレン)、2013年には2.05秒(レッドブル)となり、2016年には DHL Fastest Pitstop Awardの公式記録として初めて2秒の壁が破られた。
マシンを止めてから、タイヤを瞬時に外して入れ替え(しかも4本をだ)、作業を完了し、ピットから送り出す、その一連の作業を終えるのが1.91秒とは信じがたい。マシンの進化に伴い、ピット作業も進化しながらもより複雑になり、ホイールナットも扱いづらくなっていることだろう。だがピットでの作業時間短縮は、この日のフェルスタッペンが同じタイミングでピットインしたルクレールをピットレーン出口でかわすことができたように、ライバルとのタイム差を埋めることに直結する。今回の新記録樹立はひとえに日夜ピットストップ・プラクティスに励むピットクルーたちの努力の賜物に違いない。