不動産を相続した時、何をどうすればいいのでしょうか。本連載では不動産相続の専門家・ともりまゆみ氏が、失敗事例をもとに相続のポイントを説明していきます。

● 遺産の分け方を決める「遺産分割協議書」 ●
 家族が亡くなり相続が発生すると、複数の書類手続きが発生します。かなり煩雑なので家族で手分けして行う方もいらっしゃいますが、内容を確認せず任せっきりにしてしまうことで起こるトラブルがあります。(文・ともり まゆみ)
概要・経緯
 相談者(長男)の父が亡くなり、実家は長男が引き継ぎ、そのほかにある複数の不動産は、長男・長女・次男で平等に分けることに。手続きは次男がするということで、母・長男・長女は内容をよく確認しないまま遺産分割協議書に署名・押印した。

 

どうなった?
 遺産分割協議書をよく確認してみると、資産価値のある不動産は次男へ、農地など使用用途が限られるものは長男や長女にという内容になっていた。しかし、署名・押印済みなので、撤回はできない。
どうすべきだった?
・相続時の書類は誰か一人に任せっきりにせず、相続人同士で内容と情報を共有する
・相続発生前に遺産を分ける内容が決っている場合は、遺言書の作成を行う
・内容が複雑で理解が難しい場合は、専門家の力を借りる

言われるがまま署名・押印
 相談者である長男は、父が亡くなったことで家業とともに実家も引き継ぐことになりました。父が所有する複数の不動産について、実家の土地建物は長男、その他はきょうだい3人で平等に分けるという話になっていました。手続きは次男がやってくれるとのことで、母と長男長女は言われるがままいくつかの書類に署名・押印をしました。
 それから半年が過ぎて落ち着いた頃、書類を改めて確認すると、法定相続人全員の署名・押印が済んだ遺産分割協議書の内容に不審な点があり、私の所に相談に来ました。
不平等な資産分割でも撤回できず
 「この書類はどういう内容ですか? 変更することはできますか?」と話す長男さんから、私は署名・押印済みの遺産分割協議書の写しを受け取り、内容を確認しました。
 不動産は賃貸物件や月決め駐車場などの収益物件、農地や公衆用道路など多岐にわたっていました。
しかし、遺産分割協議書には資産価値のある収益物件は次男へ、その他の農地など使用用途が限られる不動産は長男や長女へという、事前の取り決めとは異なる不平等な内容になっていました。
 その場で登記情報を取得し確認すると、すでに遺産分割協議書の内容通りに所有権移転登記(名義変更)がされていました。そのことを告げると長男さんは「まさか弟に裏切られるとは」と泣き崩れました。
 遺産分割協議書に署名・押印すると、その内容に同意したとみなされます。この遺産分割協議書をもとに預貯金や不動産の名義変更が行われますが、その後に勘違い等を理由に名義変更の撤回は原則できません。
やり直しかなわず次男と疎遠に
 しかし次男さんの同意があれば、遺産分割協議のやり直しとともに不動産の名義変更を行うことは可能です。いちるの望みをかけご家族での話し合いを勧めましたが、それはかなわなかったようで、次男家族は実家での法事にも参加しなくなりました。
 署名・押印の前に内容を確認しておけば、このような状況は避けられたはず。ご自身で理解が難しい場合は専門家の力を借りてください。このひと手間が家族の縁を守ることにつながります。
用語説明 「遺産分割協議書」
 遺言書のない相続の場合、相続人同士で遺産の分け方を取り決める必要があります。その内容をまとめたものを「遺産分割協議書」といい、相続人の全員の自筆による署名と実印による押印が必要になります。
この遺産分割協議書をもとに法務局で不動産の名義変更を行い、預貯金など他の遺産も分け合います。

[執筆者プロフィル]

 

友利真由美/(株)エレファントライフ・ともりまゆみ事務所代表。相続に特化した不動産専門ファイナンシャルプランナーとして各士業と連携し、もめない相続のためのカウンセリングを行う。
(株)エレファントライフ
https://www.elephant-life.info/
電話=098・988・8247
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「まさか弟に裏切られるとは」 遺産分割協議書に要注意! 相続人は署名・押印前に確認を【失敗から学ぶ おきなわ不動産相続(2)】
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