偏在対策が必要であることに異論はない。ただ「必要な医療が必要な人に届く」が大前提であるということを忘れてはならない。

 厚生労働省が検討を進める医師偏在対策を巡り、沖縄、福岡、徳島など13県が人口当たりの医師数が多い県の大学医学部の定員を削減する方針に反対意見を表明した。必要医師数の推計も再検証するよう求めた。
 いずれも人口10万人に対する医師数をベースに医療需要などで調整した厚労省の「医師偏在指標」で、医師が多い県に該当する。
 厚労省は年末までに「医師偏在解消に向けた総合対策」の策定を目指す。その骨子案で2025年度以降、医師多数県は医学部卒業後も地域に残って働くことを条件とする「臨時定員地域枠」を減らし、医師少数県に配分する方針を示した。
 全国の医師数は少しずつ増え22年末には前年比1・1%増の約34万人となった。
 一方、医師の地域偏在という問題は現在も残っている。厚労省は東京、大阪、京都と前述13県の計16都府県を医師多数県とし、埼玉、千葉、長野など16県を少数県とした。
 ただ、実際には多数県であっても、山間部や離島など地域によって医師不足が発生している。
 沖縄では9月時点で県立病院の小児科医が15人不足していることが明らかになった。
 診療科でも偏在が生じており、指標は必ずしも実態を反映していない。
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 人口減少が進む中、厚労省の推計では早ければ29年に全体の医師需給は均衡し、医師不足が解消するという。

 しかし、これは医師の労働時間を週60時間と仮定した場合である。
 外科や産婦人科医、救急医のなり手不足の背景に、休日出勤の多さや長時間労働が指摘されて久しい。
 働き方改革で今年4月からは勤務医にも残業規制が強化されており、改革を前提とした推計値を出すべきだ。
 医師数を巡っては1982年、医療費増加の懸念から政府が「抑制」を閣議決定した。
 だがその後、医師不足が社会問題となり2008年に「増員」へ転換した経緯がある。
 医師不足は地域の医療提供体制の在り方に関わる。実態に応じた慎重な議論が求められる。
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 新型コロナ禍では県内でも数年にわたって医療提供体制が逼(ひっ)迫(ぱく)。特に救急医療を提供する病院の影響が大きかった。
 コロナ禍後もこうした病院の医師不足は深刻だ。残業規制は進んだものの、宿直明けの日勤や実際には勤務しているのに「自己研さん」と扱われることなどが長時間労働の抜け穴になっているとの指摘もある。
 県内では来年1月にも琉球大学病院が移転。
28年度には「公立沖縄北部医療センター」が開院予定だ。
 安定した医療サービスの提供には医師の確保が欠かせない。実効性のある偏在是正策が急がれる。
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