優れたシンガーソングライターが次々に登場した70年代前半にあって、外せないアルバムは多々あるが、キャロル・キングの『つづれ織り』、ジョニ・ミッチェルの『ブルー』、ニール・ヤングの『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』と『ハーヴェスト』、トム・ウェイツの『クロージング・タイム』などと並んで、時代がいかに変わろうと決して色褪せない傑作がジェームス・テイラーの『スイート・ベイビー・ジェイムス』と『マッド・スライド・スリム』だ。今回は日本のフォークソングがニューミュージックへとシフトするきっかけともなった記念碑的作品で、彼の代表作でもある『マッド・スライド・スリム』を紹介する。

バッファロー・スプリングフィールドのシンガーソングライター性

スティーブ・スティルス、リッチー・フューレイ、ニール・ヤングといったアメリカンロック界の大物たちが在籍したバッファロー・スプリングフィールドは、ボブ・ディランがフォークからロックへ転向したことに影響を受けて1966年に結成されたグループであった。ディランは真の意味でシンガーソングライター(自作自演歌手)であったが、ジャンルとしての“シンガーソングライター”サウンドとは微妙に違い、グループであったにもかかわらず、どちらかと言えばバッファロー・スプリングフィールドのほうが、より“シンガーソングライター”的な要素を持っていた。

それまでの多くのロックグループが、1人か2人のカリスマとそれを支えるバックメンといったスタイルをとっていたのに比べて、バッファローは自作自演歌手たちを集めたような変則的なロックグループだと言える。彼らのアルバムは、まるでシンガーソングライターのコンピを聴いているかのようなサウンドであった。しかし、60年代末のこの時点では、まだシンガーソングライター・サウンドは輪郭のはっきりしないぼんやりとしたイメージに過ぎなかった。