12月3日、4日から、デビュー記念日である12月6日にかけて、倖田來未が特別ライヴイベント『KODA KUMI 20TH→21ST ANNIVERSARY EVENT』を開催した。さらには12月6日には、オールタイムベストアルバム『BEST~2000-2020~』もリリース。
ということで、今週は倖田來未のアルバム作品からピックアップ。筆者は彼女に対して漠然としたイメージした持っていなかったのだが、デビューから20年、そのほとんどを最前線で活躍してきた歌姫だけあって、この『Black Cherry』だけでもひと筋縄ではいかない作品であることを確認できた。

“エロかっこいい”でブレイク

倖田來未と言えば、やっぱり“エロかっこいい”でしょう! …と意気込んで書き出してはみたものの、最近こちらから積極的に彼女の情報を入手したことがなかったので、今現在その辺はどうなっているんだろうと若干不安になってググってみた。すると──。どうやら、もはや“エロカッコいい”は倖田來未だけの代名詞ではないことを理解させられた。倖田來未関連のページもヒットするにはヒットするのだけれど、それほど多くはない。
それよりも、“エロカッコいい”とするコスチュームを販売している会社や個人が上位に上がってくる。まぁ、それはそれで、その中身はこちらから見て完全にエロというページも少なくなかったのだが、それはともかくとして、倖田來未関連のページよりも多かったことは事実ではある。あと、“どうしたらエロカッコよくなれるか?”といった指南するページがあったり、“エロカッコいい”映画を紹介するページがあったり、男性を指して“エロカッコいい”と言っている記事も見つけたりと、“エロカッコいい”が多岐に渡っていることも分かって、それもちょっと面白かった。わりと一般的な言葉になっているようだ。ちなみに倖田來未と“エロカッコいい”を紐づけていたページのほとんどがスポーツ新聞の記事であって、読者層の中心が中高年男性であることを考えれば止むを得ないところだろうと思ったが、筆者自身の思考もそれと同様であるというのは情けないやら何やらではあったことも自戒を込めて記しておく。

倖田來未がブレイクした2004年頃には彼女の枕詞として“エロカッコいい”が盛んに用いられていたと思うし、彼女自身も率先して言っていたような記憶は確かにある。
Wikipediaにもこうある。[2004年5月26日、11thシングル「LOVE & HONEY」をリリース。このシングルが、久々のトップ10入りのヒットを記録した。このシングルに収録された、本人も友情出演した映画『キューティーハニー』の主題歌でもあるアニメ「キューティーハニー」主題歌のカバー曲は、彼女の出世曲となった。「エロかっこいい」と形容される独自のスタイルを確立した]([]はWikipediaから引用)。そこからおおよそ20年。
倖田來未周辺から発信された“エロカッコいい”は彼女の元を離れ、類似する事象に当てはまる言葉として派生したと言える。

この“エロカッコいい”という形容。2004年頃にも“これはどういう意味なのだろう?”と思っていた節があったのだが、今となってみると、前述したさまざまな検索結果ページからしても、ほぼ“セクシー”と同義と言っていいようではある。ただ、“セクシー”はかなり漠然としている上、単に性的な魅力を指す言葉として機能することもあり、場合によってはその中身が性の対象というか、エロスのみと見られることもあったように思う。それは今もそうで、“セクシー●●●”とか“セクシー△△△”などがそれに当たるだろう。そう考えると、そうした下品なものと完全に区別し、自らの音楽性やエンターテインメントのスタイルをより具現化するためにも、“エロカッコいい”というキャッチは必要だったし、実に的確な言葉のチョイスだったのでは…と思う。
また、自らのスタイルを大衆に広げることにおいては、必要不可欠、なくてはならない惹句だったとも言えるのではなかろうか。今回、『Black Cherry』を聴いて、そこに気づいたところではある。今さらながら…ではあるし、若い読者にしてみれば“何それ?”という若干お門違いな考察と見られる向きもあろうが、以下、『Black Cherry』から倖田來未の“エロカッコいい”とは何であったのかを考えてみたい。

意外にも歌詞は“エロ”成分が少なめ

正直に白状すると、倖田來未をアルバム一枚分聴くのはこれが初。シングルにしてもこれまで自発的に聴いたことはなかったと思う。そこは予め告白しておく。
その上で、想像していた以上に(と言うべきか、以下…と言うべきか)本作の歌詞には“エロ”成分が少ないと、率直に感じたところだ。後述することになると思うが、“カッコ良い”は結構ある。だが、“エロ”はほとんどないと言ってもいいんじゃないかというくらいない。1:9か、0.5:9.5程度だと思う。それっぽいのはM2「Get Up & Move!!」、M6「Puppy」、M9「JUICY」辺りだが、M2は具体性に乏しいし、M6はタイトル通り犬の話だろうから、直接的にエロスを感じさせるのはM9で、それにしても驚くほどの内容でもない。中年オヤジとしてはM15「ミルクティー」に期待(?)したが、どうもシーナ&ロケッツ「レモンティー」とは勝手が違っていた。
“エロ”成分が少なめな代りに…と言っては何だが、細やかな機微を描いた歌詞が多い。別れ歌も少なくない。例えば、この辺──。

《信じたかったんだ/あなたが王子様だと/どれだけ 愛で確かめあったのに/悲しみの海で溺れそうな想い 今は/あたしは おとぎ話の/人魚姫 Tired》《当ての無いあたしは/ユラユラ 人魚のように/行き先決まらないまま どうすればいい?/約束したじゃない!??/Happy endじゃないの?もう/あたしは 結ばれない/人魚姫 Tired》(M3「人魚姫」)。

《君のすべてを/誰よりも そう/こんなに想っているのに/また今日も一人/目が覚めたなら/叶わない夢 知りながら/君に溺れてく》《今も捨てられない/君の ライターや タバコのかけら/また時間が たてば すねながら 君が/帰って くる様な 気がして》(M4「夢のうた」)。

《夜になるとほんと/切なさが ぎゅっと/どうしようもなくて》《一番近くにいたはずだったのにね/もういない》《あなたが これから/守ってゆく あの子へ/ふたりで これから/キャンドルライトを/灯していてね》(M10「Candle Light」)。

《寂しいと想う夜に/雪となり 空から舞い降り/君のこと包み込む/今すぐ抱きしめるから/忘れないで/ふたり過ごした時間を…》《守るべきものを/やっと見つけたのに/近くにいるのに守れない/夢と現実 交差する》(M13「運命」)。

エロくないばかりか、M4などはストレートにカッコ良いと言えない様子も描いている。もっとも、M7「恋のつぼみ」、M11「Cherry Girl」、M12「I'll be there」など、それらの対極とも言うべきアグレッシブな姿勢を綴ったラブソングもあるので、明暗のバランスがどちらかに偏っているわけではないのだが、いずれにしてもエロくはない。そこは意外だった。ある意味で全方位的と言えるかもしれない歌詞世界は、はっきり言えば、ちょっと拍子抜けだったかもしれない。しかしながら、それを“女性らしい”と言ってしまうのはこの令和の世においてはご法度なのだろうが、その柔らかな描写を発見できて良かったとも思う。多分、“エロかっこいい”の“エロ”≒“エロス”は中年オヤジが想像するようなものではなく、性愛寄りのラブと言った認識でいいのかもしれない。そこにはリビドーがなくはないけれど、『Black Cherry』においてはそれが前面に出てはいないのは間違いないし、彼女側もそういう認識だったであろう。

R&Bとロックのカッコ良さ

もっとも、『Black Cherry』でのサウンドの傾向からすると、リビドーも含んだ性愛を意識していた節もなくはない。というのも、その辺は説明するまでもないことかもしれないが、本作は(というよりも倖田來未というアーティストのスタイルなのかもしれないが)コンテポラリーR&B要素も強い。M1「INTRODUCTION」~M2「Get Up & Move!!」、M8「WON'T BE LONG ~Black Cherry Version~」、M9「JUICY」辺りのダンスチューンがそうだし、バラードにしても、M4「夢のうた」やM10「Candle Light」にその面影がある。本場のコンテポラリーR&Bのリリックにはセクシャルな要素も多いと聞く。メロディアスに歌い上げるミッドチューンであってもその歌詞がしょうもない下ネタ…なんてこともあるという。

日本より先に全米でデビューし、ブレイク前まではテレビ出演よりもクラブ中心で活動していたというプロフィールからすると、本場のR&Bをやろうという意識は強かったのだろうし、そうなるとそこにエロスは必要条件である。勢い“エロカッコいい”となったとしても納得…というか、分からなくもないとは思う。それほどにサウンドはシャープでカッコ良い。コンテポラリーR&B、とりわけ米国の女性シンガーに詳しくない自分のようなものでも本場っぽく感じる。『Black Cherry』は半可通の自分でも“2000年代のR&Bサウンドはこんな感じだったんだろうなぁ”と思わせるに十分な作り──当時の先端スタイルであったのは間違いないと思う。ちなみに、M5「月と太陽」はR&B色は薄い印象ではあるけれども、オートチューンを駆使しているのがポイント。当時の日本でケロケロヴォイスを取り入れるのが結構、早かったことも分かる。

カッコ良いのはR&Bだけではない。『Black Cherry』ではカッコ良いロックサウンドを聴くこともできる。まず印象的なのはM3「人魚姫」。M1~M2から一転、深めのディレイがかかったエレキギターが聴こえてきて、世界観が一変するのが面白い。いわゆるラウドロックに分類していいだろうか。間奏で暴れているギターソロもいいし、フィルがいかにもパワー系のドラムもシャープでいい。はすっぱな印象の歌い方は若干意外な気もするが、これはこれで楽曲に合っている。ロックサウンドはM11「Cherry Girl」も同様。ダンスチューンという趣きが強めではあるものの、重めのエレキギターにロックスピリットが垣間見れる。こちらもまたいなせな歌い方がなかなか堂に入っていて、かなりいい感じだ。R&Bにしてもロックにしても、スタイリッシュな彼女の凛とした佇まいでパフォーマンスされたことを考えると、エロスはともかく、シンガーとしてかっこ良かったことは疑うまでもなかろう。

この『Black Cherry』のジャケットに写る彼女はシックな印象ではありのだが、最近の作品でも倖田來未はかなり露出度の高い出で立ちではあるので、ビジュアル面ではエロスを感じさせるところは否定できないと思う。そんなところで、“エロカッコいい”という形容が出来上がったのだろうし、それで概ね間違いないとも思う。こうして本作を検証したところにおいては、エロは要らなかったのかなとも思うが、何も知らない状態では──筆者自身が今も“倖田來未と言えば、やっぱり“エロかっこいい”でしょう!”となったことを考えると、ファン以外に向けたイメージ戦略としては正しかったようだし、それは大成功したと言える。結局、自分はまんまと彼女らの術中にハマっていたことを知ったのであった。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Black Cherry』

2006年発表作品

<収録曲>
1.INTRODUCTION
2.Get Up & Move!!
3.人魚姫
4.夢のうた
5.月と太陽
6.Puppy
7.恋のつぼみ
8.WON'T BE LONG ~Black Cherry Version~
9.JUICY
10.Candle Light
11.Cherry Girl
12.I'll be there
13.運命
14.With your smile
15.ミルクティー