今週はTM NETWORKの名盤をご紹介。アニメ『シティーハンター』の劇場版の新作が今秋に公開されることが決まり、併せてエンディングテーマは当然と言うか、当たり前というか、「Get Wild」となることも発表された。
そして6月14日、ニューアルバム『DEVOTION』もリリース。TM NETWORKは2024年4月21日にデビュー40周年を迎える。新作は40周年プロジェクトの第1弾と言う位置付けであり、少なくとも今後1年間はいろいろと我々を楽しませてくれる情報を発信し続けてくれそうだ。バンド史上初めてチャートトップ入り果たした『Self Control』で、そんな彼らの特徴を探ってみた。

小室哲哉が創るメロディーの特異性

こうしてTM NETWORK(以下、TM)の音源を耳にすると、小室哲哉が稀代のミュージシャンであることをまざまざと見せつけられるような気がする。TMに限らず、小室哲哉が創る楽曲の特徴はいろいろと挙げられる。
展開が激しいというのもそうだろうし、転調が多いというのもそれに当たるだろう。ただ、やっぱり個人的には、シンプルでありながらもキャッチーな主旋律を創り出すこと──これを彼の最大の特徴として推したい。言い方はかなり語弊があることを承知で言うと、音楽制作経験のない素人から見ても簡単なメロディーが多い。いや、少なくとも誰もがよく知るヒットチューンはそういうものだらけと言ってもいいかもしれない。音域も狭い。のちにTKサウンドと言われるものの走りとなったTRFの「EZ DO DANCE」(1993年)がその最たるものだろう。
この「EZ DO~」のサビは2音のみで構成されていることをご存知の方も多いのではなかろうか。Bメロの一部もそうで、それも鍵盤で言えば隣り合っている2つの音だという。

小室哲哉うんぬんはいったん脇に置いておいて、仮に自分がピアノに向い、その隣り合う白鍵に人差し指と中指を置いてランダムに鳴らして他者の聴いてもらうとする。そこで奇跡的にかつて聴いたことがない旋律が生まれてくることはゼロではないだろうが、九分九厘、面白くも何ともない旋律と思われるだろう。下手をすると、ただ単に五月蠅いだけに思われるかもしれない。少しだけ音楽的素養がある人なら、一定のリズムを持って2音を鳴らせば、少しは面白いと思ってもらえるメロディーが紡がれる可能性はある。
ただ、それをしつこく繰り返したら、飽きられること間違いないと思う。つまり、素人が小室哲哉と同じことをやったとして──いや、もしかするとプロがやったとしても、それが音楽として成立するかどうかは微妙と思われる。簡単なメロディーと言ったのはそういうことである。

『Self Control』収録曲にもそうした小室哲哉らしいメロディーを見出すことができる。本作の先行シングルとなったM4「Self Control (方舟に曳かれて)」が最も顕著だろう。「EZ DO~」のような隣り合う2音のみで構成…ということはないけれど、イントロ、サビの主旋律はほぼ3音で鳴らされている(サビ後半の音程が下がるところではもう1音増えているが、それにしても4音だろう)。
しかも、その幅もそれほど広くはない。Aメロ、Bメロでは、流石に…というべきか、音は増える(途中、転調もしてるっぽい)。だが、イントロから引き続き、Aメロまでは歌の背後でこの3音が鳴り続け、サビでは歌メロも同じメロディーを奏でると言った具合だ。それが1番だけでも、イントロで6回、Aメロで8回、そしてサビで8回繰り返される。乱暴に言えば、イントロで鳴らされるメロディーがひたすらリピートされる。そういう楽曲である。
そこだけで見たら、ループミュージックと言っていいのかもしれない。小室哲哉の源流にはテクノがあるわけで、TM楽曲がそうなるのも当然だろう。大きく分ければ、TM楽曲もダンスミュージックだ。ただ、言うまでもなく、ハウスやトランスなどとは決定的な違いがある。それは歌があるということである。馬鹿みたいな説明で申し訳ない。
だが、そういうことである。少ない音で構成されたメロディーのリフレインではあるものの、そのメロディーが同じ楽器で繰り返されるわけではない。DJがひとりでプレイするといったものではなく、演奏者がいて(TMのメンバーは3人だが、ギターやベース、ドラムなどのサポートメンバーもいる)、あくまでもロックであり、ポップスであるというのが決定的なポイントだ。8thシングルでもあったM5「All-Right All-Night (No Tears No Blood)」はもとより、M2「Maria Club (百億の夜とクレオパトラの孤独)」、M3「Don’t Let Me Cry (一千一秒物語)」、M8「Spanish Blue (遙か君を離れて)」など、アップチューンは、M4ほどではないにしろ、概ねこうしたメロディー構造を持っている。

シンガー・宇都宮隆の重要性

歌を含めて、そのバンドアンサンブルを見ていこう。お題は引き続き、M4だ。イントロはシンセ。例のメロディーがまず2回繰り返される。バックはベードラとリムショットのドラミング。軽快なメロディーを軽快に支えている。リフレイン3回目(5小節目)からはベースが入る。所謂8ビートでのダウンピッキングのように聴こえるが(シンセベースっぽくもあるが…?)、音階を下げていくフレーズで、全体のサウンドの厚みはもちろんのこと、楽曲自体に広がりを感じさせる。また、ここでは♪チャカチャーンとギターがほんのちょっと鳴るのも、ここから何か始まる予感を如何なく伝えていると思う。ちなみにここのギターは小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」のイントロを彷彿とさせるのだが、本作の参加ミュージシャンとして佐橋佳幸氏もクレジットされているので、氏の仕事かもしれない(たぶんそうだろう)。リフレイン5回目以降はそのギターが若干増えているものの、大袈裟な変化ではなく、比較的落ち着いた感じで歌が始まる。その歌はそれほど抑揚はなく、例のリフレインのテンポに合わせている感じ。…と言っても完全にユニゾンとなっているのではなく、リフレインの隙間を埋めるかのように音符は多い。歌詞も相俟って情報量が多いということもできるだろうか。

宇都宮隆のヴォーカリゼーションも見逃せない。Aメロは、ラップに近いというと乱暴かもしれないけれど、音階の抑揚よりもリズミカルさを前面に出したようなところがある。それが、Bメロになると転調したかのようにメロディアスに展開する。この辺りを指して小室楽曲が“展開が激しい”と言われる所以だろうが、宇都宮の歌声、ヴォーカルパフォーマンスは、その淡々としたAメロからBメロへ移り変わる歌の主旋律の段差といったものを感じさせない。Bメロを聴けば分かると思うが、決して癖のない没個性なタイプのヴォーカリストではないし、ましてや抑揚がないわけでない。何と言うか、楽曲を構成するパートのひとつに徹する、プロフェッショナルのヴォーカリストとしてのスタンスがうかがえるのである。楽器のアンサンブルの話に戻すと、Aメロ後半からBメロにかけては、エレキギターのカッティングが比較的多めに重なる程度で、そこまで聴こえなかった新たな楽器が奏でるメロディーが差し込まれることもない。楽器の派手なパフォーマンスはなく、Bメロへのメロディー展開こそが楽曲の肝である。それを一手に引き受けているだけでも、宇都宮のボーカルの重要性が分かろうというものだ。

サビは多くの方がご存知の通り、例のリフレインのメロディーが《Self Control》とそれに続く《今までのぼくは》などに分かれて構成されている。ここまで再三言ってきた、おそらく小室哲哉がシンセで奏でている主旋律を、単にヴォーカルへと渡されるだけでなく、木根尚登の声をサンプリングしたコーラス(?)と宇都宮の声で引き継がれる。改めて考えると、この構造は結構面白い。同じメロディーが、楽器から歌に変わるだけでも、それなりの面白さを感じられるところだが、それがラジオエフェクトのかかった声と生声に分かれている。イントロから耳にしている主旋律が再びサビで意外な形で聴こえてくるというのは、今となってはそれに慣れてしまったところはあるけれど、初めて聴いた時はかなり新鮮ではあっただろう。キャッチーなメロディーをリスナーにより印象づけることに大きく貢献したとも思われる。また、小室から木根、宇都宮に引き継がれるというのは実にバンド的でもある。

欠かせない木根尚登の存在感

シンプルなメロディーのリフレインという構造でありながらも、アンサンブル、アレンジの妙で、リスナーを飽きさせない工夫というか、リスナーをアゲる仕掛けが施されているのは、これもまたM4に限ったことではなく、当然の如く、他曲もそうだ。アルバム前半──最初に『Self Control』が発表された時はまだアナログ盤もCDと同時発売されており、LPで言えばA面は、このキャッチーなメロディーのリフレインを骨子とした曲が並んでいる。アルバムとしては景気が良い。この時期のTMは自らの音楽を“FUNKS”と言っていたそうだ(現在はTMファンの名称として使用されているそうな…)。“FUNKS”は[FUNK+PUNK+FANSを語源としている造語]ということだが、ダンスミュージックとロックの融合ということでは、確かに言い得て妙だとも思う([]はWikipediaからの引用)。独自の音楽性を発揮していることは端的に言い表している。

ただ、そうしたリフレインが後半=B面でもそのまま続いていくかと言うと、そうではないところが本作の優秀さであろう。単なるダンスミュージックだけにカテゴライズされないTMの矜持みたいなものも受け取れる。具体的に述べるなら、コンポーザーとしての木根尚登の存在感に尽きると思う。M7「Time Passed Me By (夜の芝生)」と、M9「Fool On The Planet (青く揺れる惑星に立って)」である。小室楽曲が再三言っているように、音域も狭い音符を数多く使わずにキャッチーなメロディーを創り出し、それをリピートすることだが、上記木根楽曲はそうではない。歌の主旋律に流れるようなメロディーアスがあると言っていい。“これはもうミドル~スローのバラードナンバーにするしかないでしょう!”と言わんばかりのメロディーラインを持っている。いずれの楽曲もサビでハーモニーを重ねることで、主旋律を立体的に聴かせているところも聴き逃せない。メロディーのレンジも広い。M9では、宇都宮はファルセットを聴かせている。この辺は小室楽曲では見られないところだ。

小室楽曲が先鋭的なのに対して、木根楽曲はスタンダードと言うこともできるだろうか。ロックやソウルへのオマージュも感じさせる。M7ではサイケなサウンドも聴こえてくるし、M9のタイトル(加えていうと、小室楽曲だがM3「Don’t Let Me Cry (一千一秒物語)」も同様)からはThe Beatlesへのリスペクトも垣間見えるところである。その辺の意識がどれほどメンバーにあったか分からないけれど、小室楽曲に木根楽曲が混ざることによって、アルバム自体がバラエティー豊かになり、バンドとしての奥深さを感じさせているのは間違いなかろう。小室哲哉が稀代のミュージシャンであることは疑うまでもないけれど、そこに木根尚登が加わってバンドの彩りを増し、歌を宇都宮隆が一手に引き受けることで、バラエティな中にも一本太い芯を通す。本作『Self Control』は、ザっと聴いただけでも、ロックバンド、TMの特徴をしっかりと示しているアルバムであることがよく分かる。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Self Control』

1987年発表作品

<収録曲>
1.Bang The Gong (Fanks Bang The Gongのテーマ)
2.Maria Club (百億の夜とクレオパトラの孤独)
3.Don't Let Me Cry (一千一秒物語)
4.Self Control (方舟に曳かれて)
5.All-Right All-Night (No Tears No Blood)
6.Fighting (君のファイティング)
7.Time Passed Me By (夜の芝生)
8.Spanish Blue (遙か君を離れて)
9.Fool On The Planet (青く揺れる惑星に立って)
10.Here, There & Everywhere (冬の神話)