俳優の池松壮亮主演で、平野啓一郎氏の長編小説映画化した『本心』が11月8日に公開されることが発表された。監督は、昨年度の各映画賞を総なめにした『月』(2023年)の石井裕也
この石井組に、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、田中泯、綾野剛、妻夫木聡、田中裕子ら、名前を聞いただけで見たくなる俳優陣が集結した。

 原作は、1999年、『日蝕』で第120回芥川賞を受賞した小説家・平野氏が、『マチネの終わりに』『ある男』に続き、2021年に発表した長編小説。AIや仮想空間、日々著しく進化するテクノロジーが日本のみならず世界中を席巻し、生活様式が目まぐるしく変貌していく時代を彷徨う人間の【心】と【本質】を描いた革新的なヒューマンミステリー。

 「大事な話があるの」――そう言い残して急逝した母が、実は“自由死”を選んでいた。幸せそうに見えた母がなぜ自ら死を望んでいたのか…。どうしても母の本心が知りたい息子の朔也は、最先端のAI企業に「母を作ってほしい」と依頼する。
テクノロジーは、人の心を再現できるのか。ただ、母の本当の心を知りたかっただけなのに、朔也は自分の心や尊厳さえも見失っていく。

 平野氏の原作を読んだ池松が、全幅の信頼を寄せる石井監督に「今やるべき作品」と企画を持ち込んだ。石井監督作品へはこれまで『ぼくたちの家族』や『アジアの天使』など映画、ドラマを合わせ8作品に出演しており、9作目のタッグとなる。撮影は2023年7月に行われ、俳優歴24年にして「気の抜けない脚本だった。こんなに集中した夏は初めて」と語っている。


 本作では、石井監督が、技術が発展し続けるデジタル化社会の功罪を鋭く描写。今と地続きにある少し先の将来、“自由死”を望んだ母の“本心”を知ろうとすることをきっかけに、進化する時代の迷子になった青年を通し、我々が得たもの・失ったものを一つひとつすくい取り、真摯(しんし)な問いを突き付ける。

 今年のカンヌ国際映画祭で話題をさらった『ぼくのお日さま』(9月13日公開)や『シン・仮面ライダー』ほか、精力的に活動する池松は、本作で時代に置いてけぼりにされた青年・石川朔也を、あえて地に足の着かない不安定な演技で見事に体現した。

 池松演じる朔也の母・秋子役には数多くの名作映画に出演してきた田中裕子がふんし、生身/VF(ヴァーチャル・フィギュア)という未知の“2役”に挑戦。石井組初参加となる彼女が圧倒的な存在感を見せつける。

 そして、Netflixシリーズ『今際の国のアリス』、Amazon Original映画『ナックルガール』で本格アクションを披露し、映画『先生の白い嘘』(7月5日公開)にも出演する三吉彩花が、秋子の素顔を知るキーパーソンであり、過去の傷を抱えるミステリアスな女性・三好を好演。
彼女が朔也の人生に与える影響とは…。

 さらに、朔也の幼なじみの岸谷を『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(23年)で主演を務めた水上恒司、最新AIのVFの開発を行う技術者の野崎将人役に妻夫木聡、ある出来事をきっかけに朔也に興味を抱くアバターデザイナーのイフィー役に仲野太賀、VFの中尾役に綾野剛、リアル(現実)のアバター(分身)として依頼主の代わりに行動する仕事を始めた朔也の依頼人・若松役に田中泯と、それぞれ重要な役どころを担う。

■脚本・監督:石井裕也のコメント

 平野啓一郎さんの傑作小説を映画化できて本当に光栄に思います。これからさらに普及していくAIやテクノロジーに対して少しでも不安に思っている方々に捧げる映画です。これから確実に到来する複雑な世界の中で、登場人物たちは地に足をつけられず、ひたすらに迷子になっていきます。
それは明日の僕たちの姿です。あるいは、もしかしたら僕たちはもうとっくに迷子になっているのかもしれません。素晴らしいキャストとスタッフと共に人が生きる喜びをシンプルに祝福するためにこの映画を作りました。不思議で面白い極上の迷子を是非劇場でご堪能ください。

■主演:池松壮亮(石川朔也役)のコメント

 本心というあまりに素晴らしい原作を映画化させてくださった平野啓一郎さんに心から感謝しています。この難しい題材にありったけの力を注いでチームを導いてくれた石井裕也監督に心から感謝しています。
最高峰のキャスト、最高峰のスタッフが結集し、私たちのこれまでについて、すぐそこまでやってきているこれからについて、2023年猛暑の夏、夢中に懸命に取り組みました。

 本心を巡る旅路は、人間の本質を見つめ、人間の哀しみを見つめ、欲望と、愛と、存在そのものを追求するような果てしないものでした。

 自分にとって、生涯忘れられない作品となりました。たくさんの観客の皆さまとこの映画を共有できることを心から願っています。

■原作:平野啓一郎のコメント

 『マチネの終わりに』、『ある男』に続き、『本心』が映画化されることとなり、私は期待に胸を膨らせました。しかも、驚くほど豪華なキャスト! とは言え、本作の映像化の困難は容易に想像がつきました。
2040年代の日本と、その世界を生きる人々は、果たしてどのように描かれるのか?登場人物たちの人生を通じての思想的な問いかけは?脚本の段階で相談を受けましたが、私は、原作のプロットを窮屈になぞろうとするのではない、石井裕也監督による映画的な再構築を受け容れました。試写会では固唾を飲んで見守りました。小説の映画化に於いて、原作と映画は、一種、共同的なライバル関係にあるのだということを、私は強く感じました。一つの新しい世界が誕生しました。そして私は、それを実現した監督、俳優を初めとする映画制作者たちに敬服しました。