シーズン2は伊兼源太郎氏による渾身(こんしん)の続編小説『ブラックリスト 警視庁監察ファイル』『残響 警視庁監察ファイル』(実業之日本社文庫刊)の2作を原作に、前作よりもスケールアップしたエンターテインメント作品として制作。物語の始まりは、ジンイチに届いた一通の密告書。特殊詐欺捜査を担う捜査二課の情報漏洩(ろうえい)疑惑の解明のため、松岡演じる佐良正輝をはじめ、能馬(仲村トオル)、皆口(泉里香)、須賀(池田鉄洋)、毛利(浜中文一)、原西(マキタスポーツ)ら、ジンイチのメンバーが組織を挙げて奔走する。
■「刑務所のようなドラマ」精神面にもハードな今作に出演を決めた理由
シーズン2の報せの際は「また大変な時間が始まる」とコメントを残していた。「なんせシーズン1が今までやったドラマで一番大変だった。体力的にも無理だろうなと思っていました」。その“大変”の意味はアクションや体力面のことではないという。
「心苦しいんです。重くて辛くて…。(シーズン2の)終わってクランクアップでも今まで経験したなかで1番目か2番目に大変だったと伝えました。監督が引っ張ってくださったのでお任せしつつ、スタッフもプロフェッショナルな方ばかり。
その大きな苦労は「なんせ1回も笑わないんだもん(笑)」というシリアス展開と佐良というキャラクターに現れる。だが松岡は屈託ない笑顔で「『このドラマがクランクアップしたらおいしいお酒を飲もう』と思って演じました。行ったこともないけどある意味、刑務所のようなドラマ。懲役だよ、懲役」と笑い飛ばした。
それでも、出演を決めた理由は「すごく難しいけど、求められているということ以上でも以下でもない。求められているのであれば役者みょうりに尽きる」とプロフェッショナルの顔がのぞく。
「僕はわかりやすくシンプルなドラマをどう着色していくかにこだわるタイプの俳優なので、今作のような絶対、ほどけないであろう糸をどうやって一つ一つほどいていくか…の芝居を経験していなかった」と、作品の題材もチャレンジングであるが、松岡の役者人生にとってそれは初めてのことだった。それが受け入れられ続編が望まれたことも意外だったという。
「そのなかでシーズン2のお話をいただき、できるのであれば…いつまでできるのかわからない自分が、やらないで後悔するよりやって後悔した方がいいなと思いました。シーズン2やっぱりやらない方がよかったと言われたら仕方ない。やらないでいて『やってほしかった』と言われるくらいならやった方がいい。
「社会派ドラマ」に興味がなかったそうだがこの機会に観るようにもなった。「自分が観ないものに対して興味を持たないのは当たり前だから、手を出してこなかったし求められてこなかったけど経験すると、なにかそれなりに一個は掴(つか)む。その掴んだ一個のヒントを頼りに今回もシーズン2を演じたのかな。なのでシーズン2の方が輪郭はしっかりしました」と役者として大きな経験にもなった。
とはいえ「作品と自分の精神状態は分けてやっていける人間だけどこの作品に至っては持っていかれるんです。地縛霊みたいな作品だから乗っかってくる…。終わってからすぐにお祓(はら)いに行ったもん、赤羽の居酒屋に行ってプシュッとね。呑むお祓いだよ(笑)」と終始、明るいがそのとてつもない苦労も垣間見せていた。
■“正義”は人によって捉え方が違うもの「解決しない限りは正義感なんて持っちゃいけない」
シーズン1のインタビューでは「基本、人は信じない」と語っていた松岡。「俺は取材の時はその日の気分だからね(笑)なんなら2時間後は違うことを言っているかも…。でも基本、あまり人は信じないね。
さらに今作でも問いかけている“正義”について深堀すると「俺は基本、無駄な正義感はかざさない。正義がもしあるなら解決しない限りは正義感なんて持っちゃいけない。正義感というのは結果論。しっかり解決して、ああ、正義だったんだな、というもの。正義というものは見方によって違うし、自分の見ているものがすべてではない。ネットや画面で見ているものがすべてじゃないし、こっちから見ているものとは違うんじゃないかと思うこともある」とあくまで主観に左右されるものであると解く。
「なので僕は昔から正義と悪なら“悪”が好きです。ウルトラマンに対しても(敵を倒すために)『家を壊さないで!ローンどうするの?』って思っていたからね(笑)正義というものはこれが悪だ、と決まってこその正義。世の中、正義と悪どっちなんだって話になるけど、その人達が信じているものが正義になるだろうし、難しいよね」。
今作はまさに“正義”と“悪”が表裏一体の世界が描かれる。登場人物も揺らぐし、視聴者も翻弄される。そんななかで松岡が演じるのは「警察という正義がひとつあって、それを信じて一般の方々は生活をしているけど、実はそうではないところがある。警察の警察と言われる“ジンイチ”は、そのそうではないところを取り締まっていかなければいけない部署の人間たち」だ。
「人を信じることができない台本なので全体的にずっと自分も疑心暗鬼。『そうなんだ』『違うのか』『なんなんだ』の繰り返し。正義とはなんなのか、1+1が2とは限らない、ちゃんと答えのある作品ではないのかもしれない。人ぞれぞれの捉えた方によって違うのかもしれません」。正義とはなにか、の問いと同じく、今作はそう簡単に“答えが出ない”、人によって“答えが違う”からこそ、面白さがあるのかもしれない。
「食わず嫌いと言ったらおかしいけど『おいしい!』と言うまで時間がかかる食べ物のよう。ハマったら美味しさがわかる…山菜みたいな作品です(笑)。若い頃はまったく興味もなかったけど今ならなるほど、こういうものがあるのか、おもしろいな…と思うことができる」とその言葉には、苦労も多い分、確かな作品への愛着も感じさせる。
佐良が笑顔をみせるシーンはない。だからこそ「最後の最後までない。それが面白い。ある意味突き抜けていて、ある意味、筋が通っています。こういうものは避けて通ると思うし非常にこういう題材を扱うのは勇気がいる。人によっては『なんだこれ』となるかもしれない。でもWOWOWではこれができる。『このセリフを口に出して言えるんだ」って。すごいよね」と自信もにじんでいた。