9月下旬、米ロサンゼルス・ビバリーヒルズにあるフォーシーズンズ・ホテル(Four Seasons Hotel Los Angeles at Beverly Hills)の最上階(16階)の部屋で、映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(通称「ジョーカー2」)で主演を務めたホアキン・フェニックスのインタビューが行われた。
ホアキンは「素敵な眺めですね。
彼が言うとおり、今から5年前に公開された映画『ジョーカー』(2019年)は、世界興行収入1500億円という空前の大ヒットを記録し、公開当時のR指定映画史上1位の記録を打ち立てた。ホアキンは、主人公のアーサー・フレック/ジョーカー役でアカデミー賞主演男優賞を受賞。キャリア4度目のノミネートで初めてオスカー像を獲得した。
『ジョーカー』では、コメディアンを夢見る、笑いのある人生は素晴らしいと信じ、都会の片隅でピエロメイクの大道芸人をしながらドン底から抜け出そうともがく孤独だが純粋で心優しい男が、悪のカリスマ“ジョーカー”へと変貌を遂げるまでが描かれた。それから2年後の世界を描いたのが本作「ジョーカー2」だ。ホアキンが引き続きアーサー/ジョーカーを演じ、新たに登場する謎の女性リーをレディー・ガガが演じる。
■夢から生まれたアイデアがガガとの共演に発展
前作よりも音楽の果たす役割が大きくなっており、ガガのみならず、ホアキンの歌も聴きどころとなっている。言い出しっぺはホアキンになるらしい。
「僕は夢の内容をはっきり覚えています。
トッド・フィリップス監督は、前作『ジョーカー』の撮影中から続編をつくるアイデアがあったことを明かしている。ただ、キャリアで一度も続編に出たことがなかったホアキンが再び出てくれるかどうか、そこが気がかりだったらしい。ホアキンから夢の話を聞かされたフィリップス監督が、「それをやろう!」と食いつき、「やったー!」と喜び勇んだ姿が目に浮かぶ。
「ジョーカー2」の脚本を初めて読んだときの印象をホアキンはこう語った。
「印象に残ったのは、1作目の『ジョーカー』をしっかりと尊重していた点だと思います。それは、多くの人々の心に深く響いた重要な部分です。
ホアキンを興奮させた、音楽の要素。彼はジョニー・キャッシュの伝記映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005年)でも歌ったことがあったが、今回の相手は世界の歌姫レデイー・ガガだ。
「『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でリース・ウィザースプーンと共演したときは、どちらも俳優で、プロの歌手ではなかったんです。なので、その時は『2人とも同じように頑張っている』と感じていました。今回の映画では、過去50年で最も優れたアーティストの一人、ステファニー(レディー・ガガ)と一緒に仕事をしています。だから当然、プレッシャーを感じました。彼女の前で歌わなければならないと思うと、正直、居心地が悪かったです。
しかも、ガガは「私たちはライブで歌うべきだ」と主張。本作の歌唱シーンは後からレコーディングした歌をあてるのではなく、ライブ収録されている。
「僕は、『簡単に言わないで』と言いました。でも、練習を重ねるうちに、僕もライブで歌うしかないと気づきました」
本作でホアキンは、“上手に”歌う必要はなかったからだ。
「ファンタジーの中でさえ、完璧であってはいけないということがわかったんです。歌って踊るというのは、本当に暗示的なことです。彼の人生はあまりに分裂していて、不完全で、それこそが、彼がこれまで知っているすべてです。彼は完璧なファンタジーの作り方を知らないんです。
なので、ステファニーが歌やダンスを崩していく方法を見つけようとしていたことの方が印象的でした。キャラクターに最も忠実なことをしたいのであって、『最も良く聞こえる』ことをしたいわけではないからです。
■ホアキンは「ジョーカー2」をどう見たか
ガガが演じたリーは、前作の恐怖のショータイムを見て、社会を混乱に陥れたジョーカーのファンになった。ジョーカーの言動をほめたたえる彼女の存在は、アーサーにとっても大きなものになっていく。ホアキンは「ダークなところから始めて、やがて別のものへと成長していくようなものにしたいと思ったんです。僕たちは、そういうことを音楽でやったんです」と、本作における音楽の役割の重要さを話していた。
「第81回ベネチア国際映画祭」で世界初上映されてから世界中でさまざまな感想や考察が飛び交い、まさに賛否が真っ二つに分かれている「ジョーカー2」。ホアキンは「つくり出したものを世に送り出し、人々がそれをどう解釈するかは、本当に重要で不可欠なことです」と、自身の見解を述べ始めた。
「(前作では)『話を聞いてもらいたい』という気持ちに共感した人がいたと思います。ジョーカーは、多くの人々が感じている、自分たちの心配ごとやさまざまな感情、願望が聞き入れてもらえず、尊重されないことへの不満の象徴のような存在になりました。叫びたいと感じている人はたくさんいると思います。前作のジョーカーは、まさに今、爆発したばかりの人でした。
僕には今4歳の息子がいます。彼は気持ちを十分に伝えられるほど言葉を持っていないし、理解できるほど脳も発達していないので、何かに不満があるとすぐに感情を爆発させます。
アーサーはそこから成長していません。ある意味、彼は子どものままです。子どもと同じように爆発して、落ち着けばそれで終わりです。自分がしたことを振り返ったり、それに向き合ったりすることは、彼にとってとても困難なことでした。
『ジョーカー2』でやっていることの一部は、大人の僕たちが衝動に屈したとき、どうなるか。その余波の検証です。アーサーは暴力的な衝動に屈しました。さらに僕たちは、彼の新しい姿を見ることになります。それは、ロマンスや愛、あるいはどんな種類の温かさも経験したことがなかった男が、初めて自分がそのような経験をしていると信じ始める姿です。
インタビュー時間が終了し、別れ際にもホアキンは「次はおそらく16階には来られないから、楽しんでくださいね。こんなことは二度とないですから」と言って、皆を笑わせた。
ホアキンは「素敵な眺めですね。
僕たちが今最上階にいるから、1作目が成功したということがわかるんです。僕は、フォーシーズンズ・ホテルのこの階にはこれまで来たことがなかったんです。これまで一度も…」と、初めての眺めに感慨もひとしおの様子だった。
彼が言うとおり、今から5年前に公開された映画『ジョーカー』(2019年)は、世界興行収入1500億円という空前の大ヒットを記録し、公開当時のR指定映画史上1位の記録を打ち立てた。ホアキンは、主人公のアーサー・フレック/ジョーカー役でアカデミー賞主演男優賞を受賞。キャリア4度目のノミネートで初めてオスカー像を獲得した。
『ジョーカー』では、コメディアンを夢見る、笑いのある人生は素晴らしいと信じ、都会の片隅でピエロメイクの大道芸人をしながらドン底から抜け出そうともがく孤独だが純粋で心優しい男が、悪のカリスマ“ジョーカー”へと変貌を遂げるまでが描かれた。それから2年後の世界を描いたのが本作「ジョーカー2」だ。ホアキンが引き続きアーサー/ジョーカーを演じ、新たに登場する謎の女性リーをレディー・ガガが演じる。
■夢から生まれたアイデアがガガとの共演に発展
前作よりも音楽の果たす役割が大きくなっており、ガガのみならず、ホアキンの歌も聴きどころとなっている。言い出しっぺはホアキンになるらしい。
「僕は夢の内容をはっきり覚えています。
その夢は、僕がジョーカーとしてパフォーマンスをしているものでした。ジョーカーはワンマンショーをやっていて、自分の人生や女の子との関係について話していました。ジョークを言って、歌を歌っていたんです。それでトッド(・フィリップス監督)に電話して、こんな夢を見たんだと言いました。なぜなら、僕たちはそれで何かやるべきだと思ったからです。そしたら彼は、『それをやろう!』『やったー!』といった感じで、すぐに僕に曲を送り始めました。それから、しばらく僕たちはその話はしなかったのですが、その間に彼は『ジョーカー2』の脚本を作り上げていました」
トッド・フィリップス監督は、前作『ジョーカー』の撮影中から続編をつくるアイデアがあったことを明かしている。ただ、キャリアで一度も続編に出たことがなかったホアキンが再び出てくれるかどうか、そこが気がかりだったらしい。ホアキンから夢の話を聞かされたフィリップス監督が、「それをやろう!」と食いつき、「やったー!」と喜び勇んだ姿が目に浮かぶ。
「ジョーカー2」の脚本を初めて読んだときの印象をホアキンはこう語った。
「印象に残ったのは、1作目の『ジョーカー』をしっかりと尊重していた点だと思います。それは、多くの人々の心に深く響いた重要な部分です。
そして、アーサーの旅を大切に描いている点も素晴らしかったです。前作の出来事がアーサーにどのような影響を与えたのかを見続けることは、とても重要なことだと感じました。さらに、今回の『ジョーカー2』では新しい要素も加わっています。その一つが、ロマンスです。ロマンスの一部として音楽があります。1作目と同じ世界にいながらも、新しい要素が加わったことに、非常に興奮し、気に入りました」
ホアキンを興奮させた、音楽の要素。彼はジョニー・キャッシュの伝記映画『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005年)でも歌ったことがあったが、今回の相手は世界の歌姫レデイー・ガガだ。
「『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』でリース・ウィザースプーンと共演したときは、どちらも俳優で、プロの歌手ではなかったんです。なので、その時は『2人とも同じように頑張っている』と感じていました。今回の映画では、過去50年で最も優れたアーティストの一人、ステファニー(レディー・ガガ)と一緒に仕事をしています。だから当然、プレッシャーを感じました。彼女の前で歌わなければならないと思うと、正直、居心地が悪かったです。
でも、彼女はとても温かく、協力的で、思いやりのある人だとすぐにわかりました。僕たちは、本当に素晴らしいパートナーシップを築けたんです。『一緒にいて、僕を導いてくれる人がいる』と感じられたことで、おおいに安心できました」
しかも、ガガは「私たちはライブで歌うべきだ」と主張。本作の歌唱シーンは後からレコーディングした歌をあてるのではなく、ライブ収録されている。
「僕は、『簡単に言わないで』と言いました。でも、練習を重ねるうちに、僕もライブで歌うしかないと気づきました」
本作でホアキンは、“上手に”歌う必要はなかったからだ。
「ファンタジーの中でさえ、完璧であってはいけないということがわかったんです。歌って踊るというのは、本当に暗示的なことです。彼の人生はあまりに分裂していて、不完全で、それこそが、彼がこれまで知っているすべてです。彼は完璧なファンタジーの作り方を知らないんです。
なので、ステファニーが歌やダンスを崩していく方法を見つけようとしていたことの方が印象的でした。キャラクターに最も忠実なことをしたいのであって、『最も良く聞こえる』ことをしたいわけではないからです。
キャリア全体を通じて、完璧に歌って、パフォーマンスしてきた彼女にとって、それはとても大きな挑戦だったと思います」
■ホアキンは「ジョーカー2」をどう見たか
ガガが演じたリーは、前作の恐怖のショータイムを見て、社会を混乱に陥れたジョーカーのファンになった。ジョーカーの言動をほめたたえる彼女の存在は、アーサーにとっても大きなものになっていく。ホアキンは「ダークなところから始めて、やがて別のものへと成長していくようなものにしたいと思ったんです。僕たちは、そういうことを音楽でやったんです」と、本作における音楽の役割の重要さを話していた。
「第81回ベネチア国際映画祭」で世界初上映されてから世界中でさまざまな感想や考察が飛び交い、まさに賛否が真っ二つに分かれている「ジョーカー2」。ホアキンは「つくり出したものを世に送り出し、人々がそれをどう解釈するかは、本当に重要で不可欠なことです」と、自身の見解を述べ始めた。
「(前作では)『話を聞いてもらいたい』という気持ちに共感した人がいたと思います。ジョーカーは、多くの人々が感じている、自分たちの心配ごとやさまざまな感情、願望が聞き入れてもらえず、尊重されないことへの不満の象徴のような存在になりました。叫びたいと感じている人はたくさんいると思います。前作のジョーカーは、まさに今、爆発したばかりの人でした。
僕には今4歳の息子がいます。彼は気持ちを十分に伝えられるほど言葉を持っていないし、理解できるほど脳も発達していないので、何かに不満があるとすぐに感情を爆発させます。
泣いたり叫んだりする。それは、素晴らしいこともあります。彼は子どもだから、そうやって自分を表現する必要があるんです。
アーサーはそこから成長していません。ある意味、彼は子どものままです。子どもと同じように爆発して、落ち着けばそれで終わりです。自分がしたことを振り返ったり、それに向き合ったりすることは、彼にとってとても困難なことでした。
『ジョーカー2』でやっていることの一部は、大人の僕たちが衝動に屈したとき、どうなるか。その余波の検証です。アーサーは暴力的な衝動に屈しました。さらに僕たちは、彼の新しい姿を見ることになります。それは、ロマンスや愛、あるいはどんな種類の温かさも経験したことがなかった男が、初めて自分がそのような経験をしていると信じ始める姿です。
それで、初めて彼は自分自身を見直すことになります。『僕は、誰かの、何かの象徴にはなりたくない』と思っています。面白いのは、彼がただシンプルな人生を望んでいたことです(笑)」
インタビュー時間が終了し、別れ際にもホアキンは「次はおそらく16階には来られないから、楽しんでくださいね。こんなことは二度とないですから」と言って、皆を笑わせた。
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