■約5年間車庫に置き去り、糞尿だらけで劣悪な環境の中生きていたコタロー
――動画では「涙が止まらなかった」とコメントされていますが、コタローくんと初めて会ったときのことを教えてください。
「知人が近所の家に挨拶まわりをしていたときに、コタローを発見したそうです。その方は、私が犬好きで保護犬を飼っていることを知っていたので、『人が住んでない家の車庫に、犬だけが繋がれている。周りは糞尿だらけで毛もズタボロ。どうにかならないか?』と私のいとこに連絡をくれたことが始まりでした。その日の夜、いとこから連絡をもらい、翌日の夕方見に行きました。見た瞬間、『なんでこんなことできるの?』と思いが溢れて、涙が止まりませんでした」
――コタローくんがいた場所はどのような環境だったのでしょうか?
「コタローは、敷地内の車庫の中に繋がれたまま過ごしていました。周りは糞尿だらけ、毛並みはバラバラ。飼い主家族は、4~5年前にコタローを車庫に繋いだまま出て行ったそうです。近所の方が、『6~7年前に引っ越してきたけど、来てからすぐこの子はこの状態だったよ』と教えてくださいました」
――飼い主さんが出ていかれてからコタローくんはどのように過ごしていたのでしょうか?
「置き去りになってからは、近所の方とその方の妹さんで1日2回ご飯と水をあげてくれていたそうです。
■出会いから2日後にお迎え「こんな状況でも人を待っていたんだと胸が痛くなりました」
――動画内のコタローくんの笑顔が印象的でした。過酷な環境のなかでも懸命に生きて、笑っているコタローくんの姿をみたとき、どんなご心境でしたか?
「1回目の訪問時は、呼びかけてもうずくまったまま顔だけこちらに向ける状態でした。何度も通わないとダメかなと、立ち上がって帰ろうとすると慌てて前に出てきたんです。そのとき、一緒に行っていた姪が手を差し出したので「噛まれるかも」と思ったのですが、噛むことはありませんでした。その日の夕方、噛まれてもいいように革のグローブを持って行くと、最初は警戒しているように吠えながら前に出てきましたが、触らせてくれて、喜んで笑顔も見せてくれました。和犬は、飼い主以外は触らせない子もいるくらいプライドも高く忠誠心も強いはずなのに、本当に愛情に飢えていたんだなと思いました。こんな状況でも、人を待っていたんだと胸が痛くなりました」
――2日後お家に連れて帰ったとのことですが、フィラリア陽性や心臓に成虫もいたということで、コタローくんをお迎えする上で覚悟も必要だったのではないでしょうか?
「2日後にお迎えに行くと決めた時点で、私自身が家で飼っていこうと決めていましたが、フィラリアにかかっているかもと嫌な予感は的中しました。一緒に保護しに行ってくれたいとこも、『里親探すのも難しいかもしれないね、フィラリアだったらずっと投薬していかないといけないし、もう7~8歳でなかなか人に懐くのに時間かかるかもしれない』と言っていました。
■家の中にいると過去を思い出し落ち込んでしまうことも「辛い目にあった日々よりも1日でも長く楽しく生きてほしい」
――現在のコタローくんの姿を拝見すると、毛並みも揃って元気そうな様子が伺えます。最初は、お散歩に行くのも大変だったそうですね。
「最初、散歩にも行ったことのなかったコタローは、道に降りるのもためらうほどでした。少し進んでは立ち止まり、途中で歩けなくなったときは抱っこして散歩していました。糞がたくさんある中で踏まないようにジャンプするように歩いていたので、その歩き方はなかなか抜けません。最初は、心臓に虫もいましたし、筋肉が全くなくて、体力的に長く歩けないのもあったと思います」
――噛み癖もあったのでしょうか?
「来たときから、男の人・黒系の少しヒラっとしたズボンを履いていると、激しめに足に噛んできました。これまで私も含め全員噛まれてしまいました。最近は、噛むことも減ってはきましたが、傘やほうきなどを見ると目の色が変わり、噛もうとしたり、威嚇したりということもあります。ご飯をあげてくれていた近所の方から、元飼い主の息子さんから叩かれたり、蹴られていたりしたと聞き、コタローを傷つけていた男の人が、いつも黒系のズボンを履いていたのだと思います」
――ずっと外にいたこれまでの環境から、家の中で過ごすのが難しいこともあるのでしょうか?
「この暑さなので、家の中で過ごす練習をしてほしくて、まずは玄関の中で過ごす練習をしているのですが、室内に入ると車庫に閉じ込められていたときのことを思い出すのか、途端に元気がなくなり、落ち込んでしまいます。少し前は、玄関の中に移動している際に、いとこの腕にかぶりつき、怪我をさせてしまいました。なので、コタローのペースで、少しの時間から練習できるようにしています。
――今後、コタローくんとどのように過ごしていきたいですか?
「今後コタローには、たくさん愛情を感じてもらって、今まで辛い目にあってきた日々よりも1日でも長く、楽しく生きてほしいです。人の手のぬくもりを、たくさん感じてほしいです。私が抱っこしても嫌がらず、降ろしても膝の上に乗ってこようとしたり、実は抱っこが好きなコタローです。あんなにひどい環境の中でも、人を信じることを諦めなかったコタローに感謝ですし、コタローのような子がいなくなることを心から願っています」