寒い季節になると、つい手が伸びる中華まん。コンビニ各社がホットケーキまんやチーズタッカルビまんなど、話題性のある“変わり種”で競争をくり広げる中、デイリーヤマザキはあえて王道の「肉まん」で勝負をしている。
中でも通常の1.7倍サイズの『大肉饅』は、食パンブランド「ダブルソフト」の技術を応用した、ふわふわ食感の生地が特徴。新商品ながら、中華まん売上全体の3割を超えるヒット作に成長している。多様化が進む市場で、なぜ今“正統”で勝負するのか。同社担当者に話を聞いた。

■“王道の肉まん”で真っ向勝負、通常の肉まんの1.7倍サイズの『大肉饅』がヒット

 今や中華まんは、“変わり種戦国時代”に突入している。コンビニ各社が8月頃から新味を発売し始め、期間限定で話題性の高いさまざまな商品を展開している。

 ファミリーマートは、モッツアレラとゴーダの2種のチーズを配合した「旨辛チーズタッカルビまん」を8月19日より発売。セブンイレブンは、北海道産ポテトにひき肉を合わせた「じゃがまるくん(ポテト&ミート)」9月23日より、皮付きかぼちゃを使用した季節限定仕様の「かぼちゃハロウィンまん(パンプキン&ミート)」を10月14日より順次発売スタート。さらに、ローソンは京都の老舗茶屋「森半」が監修を務めた、宇治抹茶の旨味を活かしたスイーツ系中華まん「森半監修 抹茶ショコラまん」を8月26日より発売している。

 これらの中華まんは、「チーズがのびる」「奇をてらった見た目をしている」など、SNSを通じて食体験が広く共有されていく点が大きな特徴だ。ハロウィンなどの期間限定や味の強い商品が多く、「一度食べれば満足」という嗜好性であるともいえる。また、有名店や人気キャラクターなどとのコラボにより、若年層の“話題消費”にもつながっている。


 しかし、デイリーヤマザキは、こうした動きとは全くの“逆方向”へと振っている。「王道・肉まん」で勝負をして、市場を伸ばしている数少ない存在だ。

「肉まんは、コンビニの中華まんのなかでも期待して買っていただける商品。新商品のワクワクとはまた別で、間違いのない安心感や定番のおいしさ、これを買っておけば失敗しない“期待”を背負っていると考えています。5年ほど前までは、デイリーヤマザキでも月1で新味を出していたのですが、その中でも当たりはずれがありました。ずっと続けていくなかで“定番を鍛える”ことにこそ勝ち筋があると考えました。他社さんふまえコンビニの流れとは逆行している部分もあるかもしれませんが、当社の独自的な取り組みとして推し進めています」(デイリーヤマザキ事業統括本部商品本部 田中匠氏)

■「結局、寒い日には“肉まん”に戻る」 “正統派”の肉まんにこだわる理由

 ここ数年、コンビニの戦略は 「新味の連発」 に向かっていたと考えられる。しかし、そんな流れに対し、消費者はやや“疲れ”を感じて始めているとも感じ取れる部分がある。「結局、寒い日には“肉まん”に戻る」という考えから、同社では定番商品をとことん突き詰める、さらに肉まんの内容量を限界まで増量するという方向性で『大肉饅』を考案した。

 「大肉饅は1.7倍の増量がテーマになっていますが、当社のオリジナル商品でも“大盛り”や“増量”というキーワードで展開していた商品の売上が伸び続けていたんです。例えば『大盛りランチパック』。中身がたっぷりで満足感がある点が支持されている一番の理由だと感じているので、中華まんも満足感を出すために大きくしてみようと思い立ちました。
それで、蒸し器に入るギリギリのサイズを検討したところ、1.7倍の重量になりました」(山崎製パン株式会社・門屋裕子氏、以下同)

 店内でパン生地の発酵や成形を行うなど、デイリーヤマザキはベーカリーマインドが強い。「パンの技術で中華まんを作る」という独自性もあるため、同社の中華まんに使用されている生地には、食パン『ダブルソフト』の新技術が転用。ふわふわの生地が特長となっている。

「24年1月にリニューアルを行った『ダブルソフト』の新技術を使用することで、さらにふわふわでおいしい生地に仕上がるのではないかと考えました。生地の配合を改良し、保水性を高めているため、ふわふわでもちっとした中華まんの生地を作ることができます」(門屋氏)

 試作を何度も重ね、同社の研究所による分析を進めながら中華まんの生地配合を決定。具材に関しても工夫を施し、ごろっとした肉の具材感が感じられるように豚肉を使用している。

「野菜は旨みやジューシー感、そして食感が楽しめるように、生たまねぎやたけのこなどの食材を選んでいます。今年の肉まんは、より醤油の味をシャープに感じられる商品に仕上げています」(田中氏)

 結果として、昨年のデイリーヤマザキの中華まん売上のうち、肉まん+大肉饅で75%の売上を構成。実質、全売上の4分の3は“正統派”で成立するという結果となった。

「これまで『肉まん』の販売構成比は50%ちょっとでしたが、2商品で売上の4分の3を占めるというのは予想以上でした。『肉まん』の売上を落とさずに、『大肉饅』でさらに中華まんカテゴリを伸長させることができました。当初は男性の購入がほとんどだろうと予想していましたが、『大肉饅』と飲み物だけでランチになるという女性の購入も多く見られます。
食シーンにあわせて『肉まん』と『大肉饅』を使い分けていただいている点が、この数字につながっていると考えています」(門屋氏)

■コンビニでもチルドタイプの中華まんを常備、「即食以外の需要も満たす」

 “正統派”の肉まんが再び評価されている背景には、ユーザーの“帰ってくる味”を確保しているという点がある。コンビニで新しい商品や斬新な商品を仕掛けると、ロスが増えたり失敗をしたりする確率も高くなる。目先の新商品にばかりに注目し、主力の肉まんが置かれていないという状況も起こり得るという。

「当社では原則として、『ロスは主力商品や売れ筋商品から出すように』と言われています。まさに『肉まん』や『大肉饅』は店の顔になる商品。だからこそ、注力していく必要があります」(門屋氏)

 夏が長期化したことで、室内外の温度差が顕著となった今夏。ランチタイムには“温かいものを食べたい”と、中華まんを選ぶビジネスパーソンも多く見られた。中華まんは“おやつ”から“満足感ある食事”に変化する転換期にあるのかもしれない。田中氏は「肉まんと大肉饅で、それぞれの需要を満たしたい」と話す。

「蒸し器で温めているもの以外にも、チルドタイプの中華まんを用意しているのは当社ならではだと思います。即食以外の需要を満たすことも念頭に置いて、中華まんを買うならデイリーに行こうと言っていただけるような商品開発を目指していきたいです」(田中氏)

 門屋氏は「原材料高騰の中で、価格に関しても据え置きではない、「お客様が納得できる品質」を一番に考えたい」と話す。

「物価高で、ランチ代に金額を割けないタイミングもあると思います。
そういう時に、1個で満足できる『おいしさ』と『満足感』を追求した商品は、たとえ多少価格が高くなったとしても、その価格以上の価値を感じていただければ、お客様が商品を手に取り、リピートしてもらえると手応えを感じています。

『肉まん』や『大肉饅』のような主力定番アイテムへのこだわりはもちろん、エリア特性に合わせた商品やインバウンド需要に対応した商品など、新商品への挑戦もあわせて商品開発を続けていきたいと考えています」(門屋氏)
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