「うちの本棚」、今回ご紹介するのは一条ゆかり幻の長篇『5(ファイブ)愛のルール』です。広告業界を舞台にしたドロドロの恋愛ドラマだったのですが、連載途中で打ち切りとなったもの。
『デザイナー』でどろどろの恋愛人間ドラマを描ききった一条が、次に取り上げたのが広告業界。広告代理店を舞台に、企業の裏側などを描いていく物語が、この『5(ファイブ)愛のルール』だった。はずなのだが、第一部終了のまま、単行本化されることもなく、幻の作品となり、連載をリアルタイムで読んでいたファンの間で伝説と化しながら、時折イラスト集などにカラーイラストが掲載されたり、作品リストにそのタイトルが記載されたりする以外、いったいどのような作品なのかわからなかった。ボクも知人から「『5(ファイブ)愛のルール』っていう作品があって、面白かったんだけど、単行本になってない」と、噂だけ聞かされていたので、いったいどんな作品なのだろうかと、悶々としていたひとりである。が、連載終了後28年を経過して、ついに文庫判で単行本化された。
連載打ち切りの理由は、ひと言で言って掲載誌である「りぼん」の対称読者と作品内容のギャップで、未完であることから単行本化を見送り封印されてしまったわけだが、読者の人気も高く、文庫本での初単行本化はちょっとした事件だと思ったのだが、28年という年月は長すぎたのか、世間的な話題にはならなかった印象がある。いや、もしかしたらひっそりと、文庫本で刊行してしまおうというのが作者の意図であったのかもしれない。 また、連載当時それほど知られていなかった広告業界を舞台にするということで、一条は協力者として、秋吉 薫という人物を迎えている。ちょっと聞き覚えのないこの人物、あとがきによると漫画原作者の牛 次郎氏の別名で、当時少年マンガの原作で知られていた牛をそのままクレジットするのは「りぼん」にはふさわしくないと判断した一条が、別名でのクレジットを要請したとのことである。
デザイン学校を卒業したばかりで、小さな広告会社に勤める麻保。
第一部終了という形で連載を終了しているわけだが、あとがきにもあるように一条自身は続きをすぐにでも描くつもりでいたためか、後を引く部分が多い。大まかな構想はあとがきで公開されているが、作品として完結させてほしかったというのはファンにはあるだろう。
『くうちゅう・しばい』は一条の日常を垣間見られる半ノンフィクションな作品で、少女漫画家のぼやきが伝わってくる。一条にかぎらず漫画家や作家には共通したものかもしれない。
初出:5(ファイブ)愛のルール/集英社「りぼん」1975年5月号~12月号、くうちゅう・しばい/集英社「りぼん」1980年9月大増刊号
書 名/5(ファイブ)愛のルール 著者名/一条ゆかり 出版元/集英社 判 型/文庫判 定 価/571円(税抜き) シリーズ名/集英社文庫(コミック版) 初版発行日/2003年8月13日 収録作品/5(ファイブ)愛のルール、くうちゅう・しばい、あとがき
(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/)