アイドルライターが見た『ザ・ノンフィクション 中年純情物語~地下アイドルに恋して~』

アイドルライターが見た『ザ・ノンフィクション 中年純情物語~地下アイドルに恋して~』

――7月5日に放送された『ザ・ノンフィクション 中年純情物語~地下アイドルに恋して~』(フジテレビ系)。放送では、地下アイドルヲタクの中年男性を主人公に、卒業を決意した地下アイドルのリアル、それに対するファンの心情などが沈痛に描かれていた。本稿では、アイドル運営にも携わったことがある現・アイドルライターが自身の経験も混ぜながら、番組をレビューする。

 アイドルの卒業。その多くが10代から20代で構成される現在のアイドルは、"卒業"の二文字が付きまといます。家庭の事情、進路として学業を優先するという選択、慢性的な傷病など、理由はさまざまです。今年に入ってからもすでに多くのアイドルが卒業や活動休止を発表し、多くのファンがその悲しみを乗り越えてきました。あるいは、その途中かもしれません。

 そんな避けられない卒業を、ファンとの距離が近い"地下アイドル"の場合はどうなのかを描いたドキュメンタリー番組が7月5日に放映されました。『ザ・ノンフィクション 中年純情物語~地下アイドルに恋して~』(フジテレビ系)です。

 舞台は秋葉原。AKIBAドラッグ&カフェ(通称アキドラ)で定期公演を行う「カタモミ女子」という地下アイドルと、そのファンである53歳の独身男性「きよちゃん」の物語は、一年前に始まりました。「カタモミ女子」。相当なアイドル通でも、なかなかこのグループを知らないのではないでしょうか。番組の説明にもあったようにファン数は100人に満たず、メンバーの小泉りりあさんは一年前、ファン数が"ゼロ"でした。元々人前で何かを表現するのが苦手だったという彼女は、それではいけないとアイドルを始めたものの、自分を変えることが出来ず、またファンも獲得することができません。当然の流れでもうアイドルを辞めようと思います。

 そんなある日、一筋の光のように差し込んだのが、きよちゃんの一言「あなたのファンになります」だったのです。この言葉ひとつで、りりあさんの心に"火がつきました"。応援してくれる人がいるなら続けよう、一番にならなくても前に出ようと。

「カタモミ女子」。グループ名からも察することができるように、普段は同名の店舗で、肩を揉むというサービスを提供する女の子たちです。肩をもむアイドル。店内の半個室のブースで、好きなメンバーと2人きりで過ごして一時間6995円。これを高いと思うか安いと思うかは人それぞれでしょう。CD1枚購入して数秒の握手やハイタッチというアイドルグループもあります。それに比べれば、はるかに安いと思うのかもしれません。もちろん時間延長をすれば追加料金が必要になるシステムで、一回に数万円を払う客もいるようです。

 営業時間以外の店舗が歌やダンスの練習場所になります。通常、メジャーなアイドルはレッスン場を自前で持っているか、ダンススクールなどのスタジオで行いますが、地下アイドルはそうはいきません。カタモミ女子は店舗という場所があるだけ、恵まれているのかも知れません。

 さて、ここまで見ていくと、アイドルが本業なのか、肩もみが本業なのかわかりません。メンバー自体も、現状に不満を覚えます。カタモミ女子のメンバーのひとり、南玲奈さんも「みんな好きで肩もんでないと思います」と言い切り、同じくメンバーの間宮一子さんも「カタモミ女子という名前で馬鹿にされる。ここで頑張ってても、報われないし先がないと思う」と発言。「時間がもったいない」とこぼす次第。

 ここで"悪役"の登場です。カタモミ女子のプロデューサー兼店長の時田雄磨氏29歳。愛称「とっきー」。彼は、メンバーを評して一言「アイドルの卵であって、アイドルじゃないよな、まだ」と切り捨てます。

「アイドルの運営は商売になるのか?」という疑問は、多くの方が持つでしょう。これだけ多くのアイドルグループが乱立し、市場が限られた状態でファンの取り合いをしているわけですから、正直難しいと答えるのが無難かと思います。かつてアイドルの所属事務所で働いた経験からすると、利益率の高いグッズを売るか、カタモミ女子のように店舗型のサービス業を兼業するぐらいしか思いつきません。実際、「一緒に呑めるアイドル」を謳うグループや、寿司店で働きながらアイドル活動を続けるグループが存在するように、ライブの興業収入やCDなどの売上単体で稼ぐことが出来るのは、ごく限られたケースと言えるかも知れません。

 カタモミ女子の場合、時田氏が「物販大事、物販命ですよ」と言い切るように、店舗運営に加えて利益率の高い商品をライブ会場で売りまくります。メンバーの握手が付く自費出版のCDを1枚3000円で、原価30円程度のブロマイドを300円で販売するなどで十分な利益を上げている様が画面に映し出されます。番組内でチェキの原価は触れられていませんが、市販価格でも一枚50円程度です。これをメンバー1名と撮ると500円。全員と一緒に撮る「ハーレムチェキ(全チェキともいう)」の場合、500円×メンバー数という価格で販売するので、ボロ儲けと批判されても仕方がないでしょう。ちなみに私が勤めていた事務所ではメンバー全員と撮っても1000円でしたので良心的な価格設定だったのかもしれません。それでも値切ろうとする新規ヲタクの方が現れた時には、驚きました。

 地下アイドルのメンバーにとって、このチェキは大事な収入源であるのも、また事実です。メジャーアイドルでは考えられませんが、一枚あたり数百円の取り分だけがアイドルの収入というケースもあります。また、ライブチケットの指名予約も枚数に応じてアイドル本人がシェアを受け取るというケースがありますが、カタモミ女子の場合、会場から支払われるライブの出演料がないということが番組内でも紹介されていました。かなりシビアな生活を強いられているのが地下アイドルの現状なのかも知れません。私自身、アイドルさんが控え室でバイトの時給について語っているのを聞いたことがあります。それは病院で、お爺さんお婆さんが病状について語るかのように日常の風景でした。その点では、週4日勤務で月給20万円というカタモミ女子のりりあさんは恵まれているとも言えます。

 しかし、彼女たちは「何のために上京して、何のためにここにいるんだろう?」という疑問を行動に移します。ある日突然、店が臨時休業。理由はカタモミ女子のメンバー8人の内、6人が辞めると言い出したからです。もちろん時田プロデューサー個人への不満もあるでしょう。しかし、前述の間宮さんの言葉「ここで頑張ってても、報われないし先がない」というところが一番の理由なんだと思います。

 歌って踊る華やかなアイドルを目指して来たのに、現実は違う。それを受け入れられない。肩もみなんて「時間の無駄」と思うのも無理はないでしょう。

 辞めるという事実は、すぐにファンに知らされません。私の居た事務所でも同じでした。20代半ばになったメンバーがソロで活動したいと言い始めた時、アイドルではなく声優の活動を中心にしたいと脱退を申し出た時、その事実はひた隠しにされ、"卒業"までの長い準備が始まりました。もちろんメンバー本人も辛かったでしょうが、スタッフとしても純粋に応援してくれるファンの方たちに嘘をついているようで後ろめたさがあったのも事実です。

 メンバーが辞めてもグループは続きます。カタモミ女子の場合、一度にメンバーの75パーセントが辞めるという極端な例ですが、オリジナルメンバーが一人しか残らなかった「ライムベリー」や、新メンバーが入ると同時に旧メンバーが脱退した「TAKENOKO」など、ドラスティックなメンバーの入れ替わりが発生するケースも珍しくありません。今回、カタモミ女子のプロデューサーが取った策は残留メンバーに新メンバーを加えた3人を別ユニットとしてライブに出させ、ファンの反応を見ることでした。「カタモミ女子のコピーじゃん」と怒りを露わにするファンがいる一方で、好きなメンバーであるりりあさんのいないユニットさえ一生懸命に応援するきよちゃん。どちらが正しいとか、どちらが賢明とかそういう問題ではなく、裏のからくりを知って見ると悲しさが増すばかりです。

 ここで、きよちゃんと、りりあさんの触れ合う姿を思い起こすと、さらに泣けてきます。

 53歳の誕生日を、お店で大好きなりりあさんと過ごすきよちゃん。誕生日のお祝いにと、りりあさんは手作りのお弁当を持って。きよちゃんは当然時間も延長して2万円近くの支払いをします。でもそこには、お金に代えがたい時間がゆっくりと流れるのです。「今まで生きて来た中で、人との触れ合いが今一番楽しい」と静かに語るきよちゃんに迷いはありません。

 実際、彼がりりあさんと一緒にいる時間は、お店にいる時とライブ会場で過ごす僅かな時間でしかありません。それをきよちゃんは「すごくいい距離感」と言い、「会って、お話して、肩もんでもらって」「そこから先には進めない」ということもわかった上で、応援し続けます。りりあさんの支えになる。それ以上それ以下でもない。53歳にして純情な恋心。

 そんなきよちゃんをどう思うかを聞かれたりりあさんは、「心配。たくさん出勤したら、たくさん会いに来てくれちゃう。うれしいけど心配。たくさん話して距離が近い分、いろんなことを知っちゃう」と答えます。そんなプラトニックな関係にも、無情な終わりが告げられます。

 いつも通り始まるアキドラでのライブ。何も知らずに、いつも通りの応援。歌い切った後のお知らせでメンバー6人が次のワンマンライブで卒業することを知るファン。もちろん、その中に、きよちゃんも。やり場のない怒りをプロデューサーにぶつけるしかないと掴みかかるファンもいます。「痛いのと痛いのどっちがいい?」と。チェキの撮影でも笑えるはずもなく「何にも言えないですね。何時かはこういうのが来るなとは思いましたけどね」と力なく呟くだけの人も。

 無情にもワンマンライブの日はすぐにやってきます。ラストだから、しっかり応援しなきゃいけないと、カラオケボックスに集まってMIX(応援のコール)の練習をするファンたち。そして最後のライブ。淡々と、でもファンの気持ちは熱く、時は過ぎます。

 そしてラストシーンは、意外にも河川敷のゴルフ練習場で黙々と球を打つ、きよちゃんの姿でした。元々、ボクシングや盆栽など趣味を持っているところも、彼が立ち直れる要素なのかも知れません。カタモミ女子との日々を「夢のような世界」だったと語った後、「大丈夫です」とポツリと口にしてタオルで両目をぬぐう姿。

 私がアイドルヲタとなる前、当時勤めていた会社でメジャーリーグ大好きなスポーツマニアの上司に、こう尋ねたことがあります。「アイドルのファンって気持ち悪いですよね?」と。

 答えは当然、「YES」だと思っていたところ、彼は答えました。

「野球もファンもアイドルファンも変わらないんじゃないの? 弱くても愛着のあるチームを応援したり、下手でも一生懸命プレーをする高校球児見て感動したり、頼まれもしないのに遠くの球場まで応援に駆けつけたり、同じでしょ?」と。

 その後、私が何も言えなかったのは、完全に否定されたことの悔しさではなく、馬鹿にした発言をした自分が恥ずかしかったからです。
 
「応援することで、彼女たちがちょっとでも上にいけたら、それでいいんです」。きよちゃんの言葉をもう一度反芻してみたくなりました。
(文/矢口明)

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