※本稿は、水田孝信『高速取引』(星海社新書)の一部を再編集したものです。
■なぜお金でモノが買えるのか
お金の歴史をひもとくと、1971年に米国がドルと金の兌換を停止するまで、お金とモノは完全に分離したものではありませんでした。このときまで米国が行っていた金本位制は、ドルと金を交換することができるわけですから、お金は金というモノの交換券や預かり証だとも考えられ、ある意味モノとも言えます。
お金とモノが完全に分離したのはごく最近であり、時代を遡れば遡るほど、その区別はあいまいなものとなります。
古代では多くの場合、お金を作ろうと思って作ったわけではありませんでした。モノを交換するうちに、欲しいモノを手に入れるためには誰もが欲しがるモノを交換用に持っていた方が便利だと気付き、それがそのままお金になる場合が多かったのです。
つまり、自分にとっては特に必要があるわけではないが、多くの人が欲しがりそうなモノを交換用に蓄えておくのです。それをみんなが便利だと思い始めるとそのモノはお金として流通し始めます。
古代では先に紹介した石貨の他にも貝殻や木の実、稲束、手斧などもお金として使われました。つまり、お金とは自然発生的なのです。そして、多くの人が便利だと思ったモノがお金になるのです。
■お金そのものには価値はない
収容所には食料、煙草、衣服といったものが赤十字から配給されていましたが、これらを囚われていた人たちの間で物々交換するうちに、葉巻が交換時に渡すモノとして便利だとみんなが感じ、お金のようになっていったようです。
現代のお金には、金本位制の時代のようなモノとしての裏付けは全くありません。お金とは交換用に用意されたものでしかなく、それそのものには価値はないのです。他の人がお金を使った交換に応じてくれる、それだけがお金の価値なのです。
お金(貨幣)の研究の世界第一人者である岩井克人東京大学名誉教授は、
「『貨幣とはだれもが貨幣として受け取るからだれにとっても貨幣なのである』ということになります。さらに、この文章を受け身に直すと、『貨幣とは貨幣として受け取られるから貨幣なのである』ということです。
思い切って縮めてしまうと、以下になります。
『貨幣とは貨幣であるから貨幣である。』これは、『自己循環論法』です。」
と述べています(『岩井克人「欲望の貨幣論」を語る』(東洋経済新報社))。
まさにお金は交換のための道具であり、交換に使えるからこそ価値があり、交換に使えないと思われれば無価値となるのです。
■お金でも有価証券でもない
お金と新技術との関係という観点でここではビットコインを取り上げてみます。
ビットコインはかつて、“仮想通貨”とよばれていました。物理的な実物を持たない、電子空間上に存在するお金であるという意味です。しかし、金融庁はお金と勘違いしないようにと、“暗号資産”というよび方に変えさせました。
お金ではなくモノであり、さらに株式などの有価証券でもないとはっきりさせるためであり、税法上もモノの売買であると扱いがはっきりしました。
しかし、ビットコインの実体はただのデータにすぎず、モノとの交換ができること以外には価値がないという意味では、完全にお金であると言えます。すでに詳しく述べましたが、お金とはモノとの交換に使えるもので、「お金を渡した相手もそれをお金と信じていて、さらに他の人との交換に使えると確信しているから交換に応じてくれる」からこそ価値があるものです。
つまり、お金がお金であるためには、みんながそれをお金と思っていることが必要です。お金はモノとの交換に使えなくなった途端、全く価値がなくなります。そういう性質を持っています。
■ビットコインを全面禁止にした意外な国
では、一体、各国政府がお金と認めていないデータにどのような価値があるのでしょうか? それは、政府の規制に関わらず交換に使えるという価値です。つまり、政府の規制をすり抜けて使えることです。
武器や違法なモノの売買が行えるダークウェブ(表からは見えない裏のインターネット)での闇市場では、ほとんど共通通貨として機能しています。
さらには、国家ぐるみで敵国の個人を脅迫したり、ビットコインの取引所をサイバー攻撃したりしてビットコインを盗んでいるのです。このような闇市場で使えるという価値が、ビットコインの価値を支えているのです。
しかし、ビットコインはただの悪であるかと言えばそうとも言いきれません。だからこそ先進各国では全面禁止にはしていないのです。そして、意外にもいち早く全面禁止に乗り出したのは中国でした。中国は厳しい資本規制を敷いています。
■国民の海外移住も阻止してしまう結果に
これは新興国によくある、外国からの過剰な投資の流入と、その後の急激な投資の引き上げを防ぐためです。中国は実際、この厳しい資本規制のおかげで1990年代後半に起きたアジア通貨危機に巻き込まれずにすんでいます。しかし厳しすぎる資本規制は、自由を求める国民の海外移住も阻止しています。その資本規制を逃れるためにビットコインが使えるのです。
さて、ビットコインはなぜ規制を回避できるのでしょうか? その理由は管理者が不在でも成り立つ仕組みにあります。
このような管理者が、誰が誰にいくら渡したかを記録することによってお金の移動が可能になっています。この記録を台帳とよびます。ビットコインでは、この台帳を管理者に集中させるのではなく、分散させてビットコイン保有者みんなで保有しています。
これを分散台帳とよびます。分散台帳を改ざんして不正にビットコインを奪い取る人が出てこないように、ブロックチェーンとよばれる技術が用いられています。このブロックチェーンが画期的な技術であると言われていて、暗号資産以外にもさまざまな分野で応用が検討されています。
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水田 孝信(みずた・たかのぶ)
スパークス・アセット・マネジメント上席研究員、工学博士
2025年現在、人工知能学会金融情報学研究会で専門委員を務める。主な研究テーマは人工市場シミュレーションを用いた金融市場の規制・制度の分析。AIと高速取引が市場に与える影響に関するレポートを多数執筆している。
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(スパークス・アセット・マネジメント上席研究員、工学博士 水田 孝信)

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