年収1500万円ある世帯は“新富裕層(インカムリッチ)”と呼ばれる。一般の会社員でも新富裕層を目指せるのか。
ファイナンシャル・プランナーの伊藤亮太氏は「夫婦ともに年収が500万円あれば、工夫次第で新富裕層の仲間入りを果たせる」という――。
■新富裕層は全体の2.4%
“新富裕層”と聞いてピンと来る方はどれぐらいいるだろうか? 以前から言われる“富裕層”は「純金融資産が1億円以上」といった、資産額に基づくものである。しかし新富裕層は、資産額ではなく世帯年収に注目したものであり、博報堂「新富裕層“インカムリッチ”生活者調査」レポートでは、「世帯年収1500万円以上」をインカムリッチと呼んでいる。
博報堂のレポートによれば、インカムリッチの割合は全体の2.4%。最も多いのは上場企業の会社員となっている。商社、金融、不動産会社などで勤務している方々が該当するのかもしれない。
そんなインカムリッチにあこがれる世帯はどうすれば新富裕層に近づけるのか。本稿で、新富裕層を目指すための考え方や投資などによる年収かさ上げ方法を検討していきたいと思う。できるかどうかは最終的には努力、根気がモノをいうことになるだろう。
例えば、年収500万円の会社員が1人で1500万円を目指す。これが相当難しいことは誰でもわかるだろう。企業の役員などに出世すれば別であるが、一般会社員には相当難しいハードルである。

であれば、今では当たり前になっている共働き世帯として年収をかさ上げし、1500万円に近づけていくことが最も近道である。仮に夫婦ともに年収500万円であれば、世帯年収は1000万円となり、残り500万円増を目指せばよい。実際に、インカムリッチの大多数はパワーカップルであるため、共働きを前提として考えるのが良いかもしれない。
■転職や副業も視野に、年収を増やす努力を
厚生労働省「令和7年 民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」によれば、賃上げ要求による平均妥結額は1万8629円で、前年(1万7415円)に比べ1214円増加している。交渉前の平均賃金に対する賃上げ率は5.52%とのこと。
賃上げと昇給により、年収を増やすことができれば、これも新富裕層へと近づく手段になる。毎年年収が数十万円増えるというのは難しそうにも見えるものの、昨今の物価上昇を考慮すれば十分あり得るともいえる。2人で年50万円増やせれば、10年間で年500万円増やせることになる。そう簡単にはいかないかもしれないが、これが実現できれば世帯年収1500万円も可能になってくる。
年収が増えない。その場合には転職を検討することも有効かもしれない。転職で必ずしも有利となるとは限らないものの、世帯年収を増やせるよう転職探しの努力もしてみよう。
また、今では当たり前になりつつある副業も検討できる。
なお先ほど「年収500万円の会社員が1人で1500万円を目指すのは相当難しい」と言及したが、筆者の顧客の中には、副業が本業の年収を上回り、独身でも年収1500万円以上となったケースもちらほら見受けられる。副業OKが前提となるものの、新しい道を探すことも新富裕層となる手段に十分なりえるだろう。
■新富裕層をマネて「お金に働いてもらう」
次に考えたいのが、お金に働いてもらうという視点である。つまり、自身で稼ぐだけではなく、投資などによりお金が入ってくる窓口を複数作るのだ。博報堂富裕層マーケティングラボ「新富裕層調査2025」によると、世帯年収が高くなればなるほど、株式や投資信託のアクティブファンド、不動産投資信託(J-REIT)、暗号資産(仮想通貨)への投資を行う人の割合が増加している。
さらにいえば、世帯年収が5000万円以上になると、FX、社債、先物・オプション、プライベートエクイティ(PE)といった、リスクの高い金融資産にも投資する人の割合が増加している。収入があるからこそリスクをとれるという点はあるものの、積極的に増やすという視点を持ち、幅広い投資を行っているようである。
また、金・銀・プラチナといった現物資産への投資も行う人も多くなっている。貴金属はインカム(利子)は生まない。しかし、世界情勢が不安定な場合などに価格が上がりやすいほか、各国中央銀行が金を買い増ししているといった状況を踏まえ、価格は下がらないとみる新富裕層は多いのかもしれない。現物が手元にあるのも、いざという時に安心できる点だろう。

投資できる資金がないとこうした幅広い資産運用は難しいかもしれないが、まずは株式、アクティブファンド、J-REITなどによる分散投資を手掛けることは誰でもできるはずである。新富裕層のマネをしながら、同じように資産を増やしていく手段を身に付けることも新富裕層になる近道といえるだろう。
■年収1500万円になれるシミュレーション
なお、NISAの積立投資枠を利用してアクティブファンドやJ-REITなどに年間120万円の投資を行い、15年間、年利率4%で毎年運用できたとしよう(ここでは単純化のために毎月10万円の積立投資ではなく年120万円の投資で試算する)。2人で行えば年間で240万円。世帯年収が1000万円ぐらいあれば不可能ではない投資額である。
15年間根気よく年240万円の投資を行い続けることで、投資額3600万円に対し、4805万円ほどの投資結果が見込める。仮に4805万円を、その後も年4%で運用する場合、年間で192万円ほどの収益を得ることができる計算だ。また、もし年5%で運用できれば、15年後には年間で255万円ほどの収益を得ることができ、5178万円ほどの資産が出来上がることになる。
このように、働いて収入を増やす、もしくは資産運用で収入を増やすことで、世帯年収1500万円に近づける可能性は高まるだろう。
■支出カットも忘れずに
もう一つ忘れてはならないのが、支出面である。年収が多くても、支出が多ければ資産は増やせない。フローだけではなくストックも重視する必要がある。
ストックが貯まらないと資産運用で増やすことも難しい。複数の手段を活用して年収を押し上げるだけでは意味がないのである。
一般的に、役職が高まり年収が増えると、それなりに支出も多くなることだろう。また、年収が高くなればなるほど、税金の負担もぐっと増えることになる。
しかし、上場株式や投資信託による収益には20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)しか税金はかからない。働いて稼ぐ場合の所得税が5%~45%、住民税が10%であることを考慮すると、投資によって収益を増やすことは、富裕層にとって税金面から合理的な行動といえる。
また、ご存じの通り、NISAでの運用益は非課税である。税金の負担がない点は非常に大きなメリットだ。仮に、高配当の株式に投資し、配当金を得た場合にもNISA口座の成長投資枠で運用を行っていれば非課税で受け取ることが可能である。そのため、積立投資枠だけではなく、成長投資枠も駆使し、高配当銘柄に投資し配当金の果実を受け取っていくという方法もストックを増やす手段となりうる。
■時間をかけることが案外近道になる
支出を抑える、税金面での負担を抑える。支出面では、サブスクのような毎月一定額かかるもので必要のないものやここは我慢してお金を貯めようと感じられるものは辞めるといった勇気もあってほしい。

こうしたことも意識しながらフローを増やし、最終的にはストックも増やしていく。こうすることで、新富裕層への仲間入りができる可能性を高めていってはどうだろうか。時間はかかるかもしれないが、一歩一歩進めていくことで新富裕層になれるよう目指していこう。

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伊藤 亮太(いとう・りょうた)

ファイナンシャル・プランナー

慶應義塾大学大学院修了。CFP資格、DCアドバイザー資格取得。証券会社勤務、投資顧問会社設立を経て、2007年スキラージャパン設立、取締役。約100銘柄の株を保持、50人以上の投資家に取材。

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(ファイナンシャル・プランナー 伊藤 亮太)
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