※本稿は、橘玲、樺山美夏『しんどい世の中でどうすれば幸せになれますか?』(文響社)の一部を再編集したものです。
■「衰退途上国」と揶揄される国家
人類史上未曾有(みぞう)の超高齢社会となった日本は近年「衰退途上国」と揶揄(やゆ)されています。
政府の予算の6割は年金・健康保険などの社会保障費と、過去の借金である国債の利払いで、税収の不足を補うために30兆円ちかくも新規国債を発行しています。高齢化はさらに20年続き、現役世代の負担はますます重くなっていくでしょう。
これだけを見れば、「希望はどこにあるのか」と思うのも当然です。しかし視点を変えると、日本社会の別の側面が見えてきます。
■少ししかいない若者の価値はこれから高くなる
需要と供給の法則では、たくさんあるものは価値が低く、少ししかないものは価値が高くなります。
少子高齢化とは、子どもの数が減って、高齢者ばかりが増えていくことです。日本経済は人手不足で苦しんでいますから、少ししかいない若者の価値はこれからますます高くなるでしょう。
日本ではずっと、男は会社というイエに滅私奉公し、女は専業主婦として子育てに専念するのが当然とされてきました。
とはいえ、新卒でたまたま入った会社の仕事が自分にとって“適職”である可能性は、宝くじに当たるようなものでしょう。こうして、40代を過ぎると多くのサラリーマンが会社にしがみつくしかなくなり、仕事が苦役になってしまうのです。
■社員の5人に4人が出世したくない日本の異常性
日本人が目を背けている「不都合な真実」とは、OECD(経済協力開発機構)をはじめとするあらゆる国際調査で、日本のサラリーマンは世界でいちばん仕事が嫌いで、会社を憎んでいるという結果が繰り返し出ていることです。
さらに、18カ国・地域を対象に「管理職になりたい割合」を調べたところ、日本は19.8%でダントツの最下位でした。平均は58.6%、最高はインドの90.5%でベトナム、フィリピン、中国とつづきます。韓国は61.7%、アメリカは54.5%、ドイツは45.1%日本の上の17位はオーストラリアで、それでも38%(パーソル総研2022年)。
社員の5人に4人が出世したくない日本の会社は異常です。
■転職を繰り返しながらキャリアアップできる社会への転換
しかし日本人の働き方は、いま大きく変わりつつあります。どの会社も優秀な若手は喉から手が出るほど欲しいので、20代はもちろん30代半ばまでならいくらでも転職できるようになりました。
JTC(ジャパニーズ・トラディショナル・カンパニー)ですら、若手社員を引き留めるために、新卒の初任給を引き上げ、年功序列を崩して責任ある仕事をさせなくてはならなくなったといいます。
いまの若者たちは、転職を繰り返しながらキャリアアップしていくグローバルスタンダードの働き方を当たり前に思っているかもしれませんが、昭和の時代はもちろん、20年前、あるいは10年前ですら考えられなかったことが起きているのです。
だとしたら、「高齢者に押しつぶされる」未来をいたずらに怯(おび)えるのではなく、自分の労働市場での価値がどんどん上がっていることを好機ととらえて、さまざまなことにチャレンジしたらいいのではないでしょうか。これまでのサラリーマンには、そんな機会すらなかったのですから。
■「幸福」の3つの土台
私は「幸福」の土台を「金融資本」「人的資本」「社会資本」の3つで考えています。金融資本はお金、人的資本は働いてお金を稼ぐちから、社会資本は家族や恋人、友だちなどとのつながりです。
お金はないよりあったほうがいいのは間違いありませんが、たくさんあるからといって、そのぶんだけ幸福になれるわけではありません(個人資産50兆円のイーロン・マスクはあまり幸福そうに見えません)。
人的資本は金融資本の源泉で、現代社会では、ひとは仕事によって自己実現するので、きわめて重要です。どれほどお金があっても、まったく働いていなければ、SNSでリア充アピールをしてもたくさんの「いいね」をもらうことはできないでしょう。
私たちは数百万年前の旧石器時代から、共同体のなかの親密な人間関係によって幸せを感じるように進化してきました。さまざまな研究から、孤独は憂鬱(ゆううつ)を引き起こすだけでなく、健康にも悪影響を及ぼすことがわかっています。とはいえその一方で、悩みの多くは家族や恋人とのこじれた関係なのですが。
■幸福な人生への「最大の障害」とは
幸福な人生を手に入れるための最大の障害は、人的資本と社会資本の両立が難しいことです。
「1日24時間(睡眠や食事などを除けば、自由に使えるのは1日10時間程度)」というきびしい制限があるため、仕事にすべての時間資源を投じると、家族や恋人と過ごす時間がなくなってしまいます。
だからこそ大事なのは、人生の資源には制約があり、「なにかを手に入れるためには、なにかをあきらめなくてはならない」現実を受け入れることです。
もちろんこれは簡単にできることではなく、若いあなたがいきなり到達する必要はありません。
■世の中の仕組みを読み解こう
努力すれば報われる。願えば叶う。明けない夜はない……。
世の中には、一見、正しいように見える成功者たちの美辞麗句があふれています。もちろん、こうした言葉に救われた人もいるでしょうし、実際に経験した人にとってはまぎれもない事実かもしれません。
でもこれらの言葉が本当だとしたら、なぜこんなにも格差が広がったのでしょうか。なぜ自己責任論を押し付け合い、SNSで罵詈雑言を浴びせ合うような生きづらい世の中になってしまったのでしょうか。
真面目にがんばって生きていても幸せになれない自分の人生に不満や怒りをため込むより、誰も教えてくれなかった問題の原因を直視したほうが、解決策を考えることができます。
いまの世の中がどのような仕組みで成り立っているのか? 自分をこの複雑な競争社会のなかで最適化できる行動は何なのか? そうした根本原理を知ることができれば、ささやかでも幸せな生き方を選択することが日本ではまだ可能なのです。
■ゆたかで平和な国に生まれた幸運
人生には運や不運があります。
それでも自分にとっての幸福とはなにかの目標を決め、それに向けて人生を設計できれば、平均的な日本人よりもよい人生を送ることはそれほど難しくないでしょう。
そんなの平凡だと思うかもしれませんが、発展途上国を含む世界の80億人からすれば、これは上位数パーセントの幸福な人生なのです。
私たち日本人にとって最大の幸運とは、いろいろな問題があったとしても、ゆたかで平和な国にたまたま生まれた、ということなのですから。
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橘 玲(たちばな・あきら)
作家
1959年生まれ。早稲田大学卒業。2002年、国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。同年、「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部を超えるベストセラーに。05年の『永遠の旅行者』が第19回山本周五郎賞候補に。『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞受賞。著書に『「読まなくてもいい本」の読書案内』(ちくま文庫)、『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』(文春新書)、『スピリチュアルズ 「わたし」の謎』(幻冬舎文庫)、『DD(どっちもどっち)論 「解決できない問題」には理由がある』(集英社)など多数。
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(作家 橘 玲)

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