黒字なのに早期退職や希望退職を募集する企業が増えている。東京商工リサーチがまとめた2025年1月~9月30日までに「早期・希望退職募集」をした上場企業は34社にのぼった。
背景には大幅な産業構造の転換が起き始めていることがあると見られる。自動車がガソリンエンジン車からEV車へとシフトすることで、雇用の裾野が広がっている自動車関連業界の構造を根底から揺るがしているなど、これまで「雇用の受け皿」と見られていた業種・職種で将来的な人材余剰が見込まれている。産業構造の変化を先取りする形で人員整理に着手する企業が増えていると考えられる。
だが、それ以上に大きいのは、AI(人工知能)の進化と普及に伴う「ホワイトカラー」の削減だ。日本経済新聞は東京商工リサーチの8月までの集計を引用する形で、「2025年の早期退職1万人突破 はや前年超え、管理職年代の削減目立つ」という記事を掲載している。その原因を「人工知能(AI)時代を見据え、海外で先行する構造改革の動きが日本でも広がってきた」としている。
どういうことか。
■海外企業で進む「AIに置き換え可能な業務」の削減
米国など海外企業の間では、AIの普及を背景に「AIに置き換え可能な業務」の削減が起きている。日経の記事は、米チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスの調査として、1~7月のテック企業の人員削減が8万9251人と前年同期より36%増えたことを伝えている。
AIの台頭によりソフトウエア開発の分野で22~25歳の雇用が22年後半のピーク時から25年7月までに約20%減ったという、米スタンフォード大学デジタル経済研究所教授らの試算もある。プログラミングのコードを書く作業などはAIの得意とするところで、AIに代替されていると見られる。また、顧客からの問い合わせに応じるカスタマーサービスのオペレーターなどもAIに代替されている。電話での問い合わせへの対応がAI音声などに代わっていることは、日本でも体験するようになっている。
■何より不要になっている「旧来型の管理職」
そして何より不要になっているのが業務管理だけを行っている旧来型の管理職だ。米フォード・モーターのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)が発している「今後数年でホワイトカラー職の半数がAIに置き換わる」という警告は、衝撃をもって受け取られている。
日本の伝統的な企業の多くが、ヒラ社員→係長→課長→部長→本部長→取締役→社長といった複数の階層を持つ軍隊型の組織になっている。管理職は実際にはオペレーションにはタッチせず、部下から報告をまとめて上司の管理職に報告して指示を仰ぐ、いわゆる旧来型の「管理業務」だけを行っている。
大企業の一部は、係長や課長を廃止して「チームリーダー」などに名前を変えてプレーイングマネジャー化することを目指したりしているが、なかなか「管理」から抜け出せない。欧米企業では2000年前後のIT化の進展と共に、「フラットな組織」への転換を遂げたところもある。
日本でもこうした動きを捉えて、「文鎮型組織」などがもてはやされた時期もある。
■ホワイトカラーを吸収するエッセンシャルワーカー
そこにAIがやってきた、というわけだ。インターネットの普及とIT化によって、遠隔会議などが当たり前に可能になり、会議のための会議などが消滅していった。会議に備えて会議資料を作るのが仕事だった中間管理職の役割は一気にAIに取って代わられつつある。日本ではこうした動きはまだまだ始まったばかりだが、一部の企業はこうした時代の流れを見つめて管理職業務の効率化に着手しているのだろう。それが管理職層の希望退職増加につながっているというわけだ。
IGPIグループ会長で日本共創プラットフォーム(JPIX)代表取締役会長の冨山和彦氏は2024年に『ホワイトカラー消滅 私たちは働き方をどう変えるべきか』(NHK出版新書)を上梓、いち早くホワイトカラーの消滅を予想した。
一方で冨山氏は職にあぶれたホワイトカラーを十分に吸収する雇用機会が日本にはあると指摘している。「エッセンシャルワーカー」だという。観光業やホスピタリティーなど、現場・現業での人手不足は深刻で、こうした「現場」の生産性を劇的に上げて高賃金化することが重要だと説いている。これまでホワイトカラーより格下と見られがちだった「ブルーカラー」人材を強化することこそ、今後一段と重要になるというのだ。
■職業訓練校の入学者数が増える米国
実際、ホワイトカラーからブルーカラーへという変化が米国で始まっている。
日本経済新聞が10月24日に興味深い記事を掲載した。「AI席巻の米国、ブルーカラーを選ぶ若者たち」と題する記事で、米国での就職戦線での異変を伝えている。
記事によると、全米で学生情報を集約しているナショナル・スチューデント・クリアリングハウスの調査では、「2025年春は配管工や大工などの技術を習得する職業訓練校の入学者数が前年から12%増えた」のだという。「伸びは大学入学者の4%増を大きく上回る」としている。
大学を卒業することが将来の安定的な雇用や豊かな生活を保証してきた時代が終わり、「AIによって自動化されにくい仕事」である現業の仕事を目指す人が増え始めているというわけだ。医療関連の職業訓練校入学者が大きく増えているだけではなく、空調設備保守や電気工や配管工といった建設技術を学ぶ訓練校の入学者も2ケタの伸びを示しているという。
米国の国内景気は堅調で、失業率は大きく下げて4%台で推移しているものの、大卒前後の「20~24歳」の失業率は上昇傾向にあって9%を超えているという。大学を卒業したホワイトカラーの就職環境は、米国では目に見えて悪化しているというわけだ。
こうした傾向は今後、間違いなく日本にもやってくる。大企業の一部はそれを先取りした動きを演じているということなのだろう。
■ホワイトカラーを育ててきた日本の大学
だが、日本の場合、大きなネックがある。
2024年度の4年制大学への進学率は59.1%と過去最高を記録した。
もちろん、現場のブルーカラーの低賃金化が進んだことで、日本人の若者の多くが現場のプロになる道を忌避してきたという背景がある。一方で、航空機製造や造船などでの日本の「現場力」の低下も深刻な問題になっている。
管理だけしている管理職の消滅は、日本の現場力の復活につながっていくのか。そのための高等教育のあり方はどう変化していくのか。まさに将来の日本の国の形を決めていく分岐点に立たされている。
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磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。
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(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

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