■26歳で「売上高40億円+上場」を目標に
毎年、年始や年度の節目ごとに、僕は次に向かう場所についてポエムのようなものを書き連ねている。例えば、2020年1月にはこんなことを書いた。
貧乏をやめにしよう。
若く貧しくあることは革命家の必要条件だろうか?
力が欲しい。
僕はもっと遠くへ行ける。
2020年は、株式会社ZOZOがyutoriの株式の51%を取得し、資本業務提携をして節目となった年だ。ただ、その発表は7月で、先の言葉を書いた年初にその予定はまったくなかった。それが7月には株式を売却し、書いた通りにその年にたくさんのお金が入ってきたわけである。
そして、ZOZOグループに参画した直後に、僕はまた次の目的地を書いた。
2023年3月31日までに、売上高40億円、営業利益8億円を達成して上場する。
■「叶うのが当然」と振る舞うと、現実になる
実際の上場は2023年12月にずれ込んだが、その期は売上高が約40億円となり、これもほぼ書いた通りになった。
このように、自分が信じた物語を、信じるということすら必要がないぐらい当然のこととして行動すると、不思議とその通りの未来がやって来る。夢や目標をただ叶えたいと思うのではなく、叶うことを確定事実として振る舞っていると、それがやがてやって来るという感じなのだ。
これはこのときになって始まったことではない。Suchmosの「信じることが真実だ」という言葉と、『ザ・シークレット』に出会ってから、より意識的になった僕は、明治大学のアカペラサークル「スナッチ!」の卒業ライブを終えた2016年3月31日にも、こうツイートしている。
3年以内に起業します。
■人生は自分の思い通りにしかならない
これもそのまま書いた通りになった。音楽という大好きなストーリーを自ら捨てたとき、僕は「もう一度、なにか大きなチャンスがきっとまわってくるだろう」と心の奥底で信じていた。すると「古着女子」によってチャンスを摑むことができ、それが3年以内の起業へとつながっていった。
ちなみに、スナッチ!の卒業ライブのタイトルは、「The world is your oyster.(世界は君の思うがまま)」だったから、かなり強く意識していたはずだ。
いいことばかりじゃない。社会人1年目のときは、学生時代が充実していたので、「いったんつらくなるほど徹底的に働きたい」と考えていたら、思った以上に本当につらい経験がたくさんやって来た。
こうして、卒業ライブあたりから意識的に夢を確信し、yutoriを起業するに至ったときに、僕はより深く確信した。
人生は自分の思い通りにしかならないんだ。
そんな感覚のまま、いまの僕はずっと生きている。
「それって本当かな?」「そんなわけないじゃない」と思う人もいるだろう。でも僕は、本書を読んでいただいている人には、「夢は必ず叶う」と思ってほしい。感覚としては、「夢を持つ」というよりも、「夢が叶う運命なんだ」と確信している、といえば伝わるだろうか。
いずれにせよ、自分の思った通りに進んでいきたいのに、「そんなわけないじゃない」などと思っていたら、夢や目標は叶うわけがない。あなた自身が、「どんな自分の人生のストーリーを信じるか」にかかっている。
■ZOZOグループに参画、波乱の2020年
前述のように、2020年7月、yutoriはZOZOグループに参画した。株式会社ZOZOがyutoriの51%の株式を取得し、僕たちは子会社として引き続き49%の株式を保有して、数年以内の上場を目指すことにしたのだ。
2020年も波乱の年だった。年始に「貧乏をやめにしよう」と書いた矢先、2020年3月頃から新型コロナウイルス感染症が本格的に流行した。リアルイベントの禁止や外出自粛などの影響でファッション需要全体が落ち込むなか、アパレル業界では中国の工場が操業停止になるともいわれ、戦々恐々としていた。
僕自身はそれよりも少し早い時期、タクシーの運転手が感染したという報道を見たときに、「これはヤバい。リスクに備えなければ」と思ってすぐに行動した。
シリーズAラウンド(企業が、最初の重要なベンチャーキャピタル出資だけでなく、金融機関からの融資を受ける段階を指す名称。投資家に発行される優先株式を指すこともある)の資金調達に向けて動いていたときに、もともといい関係を築いていたZOZOの役員であった武藤貴宣さんに相談し、その縁もあって、取締役兼COOの廣瀬文慎さんや、取締役副社長兼CFOの栁澤孝旨さんも出てきてくださったので、資金調達の話を進めていくことにしたのだ。
■「主戦場」で購買が広がり、コロナ禍も安定
結果的には、コロナ禍においてはオンラインの購買が広がり、それはyutoriの主戦場だったから、ビジネスへの大きな影響はなかった。でも、かなり素早く動いたことで、感染拡大が進んだ時期でも慌てることなく対応することができた。
また、この時期に、「9090」をはじめ数多くのオリジナルブランドの展開にフォーカスし、事業内容を本格的にアパレルに絞っていった。
では、なぜ相手がZOZOだったのかというと、懇意にしている人がいたことも大きかったが、なんといってもファッション通販サイト「ZOZOTOWN」の影響力によってアパレル業界のど真ん中に位置するメジャー企業だからだ。一方、1990年代ストリートの文脈を大切にするインディーズ性も兼ね備えていて、僕は以前からZOZOをリスペクトしていた。
当時は代表取締役社長が前澤友作さんから澤田宏太郎さんに代わるタイミングで、原点回帰的にファッションをより強化していくコンセプトがあり、Z世代をはじめ若年層にも注力していく方向性もあった。
■好きな先輩の会社に株主に入ってもらいたかった
そんなZOZOのバックアップがあれば、より自由に、様々な打つ手を考えることができる。「好きなことを、好きな人と、好きなだけやりたい」がコンセプトの僕たちの会社には、株主として好きな先輩の会社に入ってもらいたいという思いもあった。
ちなみに、ZOZOの武藤さんには定期的にアパレル業界の大御所を紹介してもらっていた。後述するGDCを一緒に復活させた熊谷隆志さんもそのひとりだ。彼は、算命学的にいうのであれば僕の守護神らしいが、それくらいいい感じで一緒に仕事ができている。
また、アパレル物流最大手であるジーエフホールディングス株式会社代表取締役会長兼社長である児玉和宏さんもそうだ。金髪坊主頭の大きな体でドスの利いた声、年も3回りくらい違う児玉さんに最初に会ったときは面食らったが、この経験から他の先輩にまったくビビらなくなった。児玉さんには「経営者としての器」を背中で教えてもらった。
こうして、オリジナルブランドの展開開始と、ZOZOグループとの資本業務提携のタイミングが重なり、yutoriにとっていい事業環境が用意されていった。
■なぜZOZOはyutoriと資本業務提携をしたのか
大企業の傘下に入ると、コンセプトやカルチャーがずれていったり、親会社の方針で経営が制限されたりするデメリットがあるといわれることもある。
だが、ZOZOという大企業に比べて、当時のyutoriは小さなスタートアップだったので、正直なところ、ZOZOが僕たちをコントロールするインセンティブはなかったはずだ。僕たちをコントロールしてなにかをするよりも、ZOZO内部の機能開発をしたほうが、単純に株価も上がるだろう。
では、なぜZOZOはyutoriと資本業務提携をしたのか? それは、「ZOZOTOWN」のメイン顧客層の平均年齢が30代であり、Z世代やミレニアル世代を取り込むノウハウが欲しかったのが大きいと推測する。ZOZOにしてみれば、yutoriが得意とする若年層に対するSNSマーケティングや、若手デザイナー、インフルエンサーとのネットワークを活用した協働や連携が視野に入ってくる。
ただ、個人的には、アパレル業界に対する恩返しや応援という文脈で、僕たちに投資してくれた側面もあると思っている。
■「若者ばかりのベンチャー企業」に変化
ZOZOグループに入ったとき、社員にはある種の自信も育まれた。業績がよくても、オンラインのD2Cは業界では少数派だったので、「自分たちがやっていることは正しいのか?」という不安がみんなのなかにはあったはずだ。それが、ZOZOが認めてくれたことで、より自信を持って仕事に向き合えるようになった。
また、当時のyutoriには若者がたくさん集まっていて、社長の僕自身も若いわけで、世間から、大学のサークル的な雰囲気のベンチャー企業のように見られる面もあった。
そのため、ZOZOグループに参画したのには、周囲から見たときの説得力をつけるという意図もあった。
結果、ZOZOに入ったことで、工場やメーカーも注目してくれるようになり、これまで提携したことがない工場と協業できるようになった。
■創業者の能力を超える組織にするために
また、アパレル業界の経験者がyutoriに興味を持ってくれるようになり、人材採用で応募してくる層が変わっていった。
現在、yutoriの子会社である株式会社GDCの取締役の佐藤祐介もそのひとりだ。彼は、株式会社アダストリアのグループ会社で複数のD2Cブランド立ち上げを行ったのちyutoriに参画し、ブランド事業全般の成長や、生産サプライヤーの最適化などに携わってくれた。
将来的な上場や海外展開を見据えると、サプライヤーとのあいだでお互いが共通認識を持てる様々な商品情報の共有やビジネスプロセスの効率化が必要であり、社内においても内部統制の強化やデータ整備が急務だったのだ。
このように、ZOZOジョイン後から、yutoriは大きく変わり始めた。
そこで、どんどん分業を進めて、一人ひとりが自分のミッションを持って動いていくことで、自然とボトムアップされていく組織を構築し始めたのだ。その結果、主力の「9090」すら、社長の僕が一度も会議に出ないという状態にまで変わっていった。
スタートアップはもとより一般企業でも、「創業者の能力に組織が依存する」状態はよくあるパターンだ。でも、そうなると、いずれ創業者の能力以上にスケールアップしないという壁にぶちあたることになる。
だからこそ、この時期に会社をより大きくしていくために、みんなで考えて、みんなが自律分散的に動くことで事業を伸ばしていく組織をつくろうとしていたのである。
■「アパレル業界史上最年少」で上場
キャッシュを積み重ねて、着実に業績を上げていった僕たちは、いよいよ東京証券取引所グロース市場への上場に向けて進み出した。ほぼ宣言通りに2023年内の上場を目指したのは、そのタイミングで上場すれば「アパレル業界で史上最年少上場」というインパクトを与えられるからだ。
クリエイティブ領域に事業を有し、売上高が30億円程度で上場する会社なら他にも存在するわけで、世間からそう思われるとサプライズがない。自分たちが「どう見られているか」を常に認識し、綿密な仕掛けと事業展開をしていくことが重要だと考えていた。
上場のプロセスは大きく、「申請~承認」と「公開(新規上場)」のふたつのフェーズがある。まず、「企業の継続性と収益性」「コーポレート・ガバナンス」「適時開示体制」「公益性」などの項目を、監査法人や証券会社、東京証券取引所が厳密に審査していく。
■上場承認取り消しになるケースもあるが…
そして、無事承認されると、「ブックビルディング」という、投資家に対して仮条件を提示し、需要を調査して、公募・売出価格が決定される。そうして無事公開されるとはじめて、株式が売買されて初値がつくわけである。
申請から公開に向けた準備もそれぞれ綿密なプロセスがあり大変なのだが、実は承認されてから公開までの期間に指摘が入ると上場承認取り消しになることもあり、かなり油断できない時期となる。
粉飾決算や不正会計、ガバナンス違反、資金繰り悪化・倒産リスクなどは承認までに厳しく審査されるが、承認後の期間に外部からの悪意あるタレコミなどで、故意でなくとも、財務内容や不祥事の不都合が発覚するケースなどもあるらしいのだ。
僕たちの場合は、そうしたことも起こらず、むしろいろいろな人に「おめでとう」「yutori凄いね」「自分のことのように嬉しい」などといってもらって、本当にありがたかった。買収後も独立性を持った経営をさせてくれたZOZOの澤田宏太郎社長を含む取締役陣からは、「上場おめでとう。これがスタートラインだと思って、企業として更に大きく成長してください」というメッセージをもらった。
■2023年12月27日は拍手で終えられた
同世代で一番早く上場すれば、普通は嫉妬されることもあると思うけれど、そんなことよりもみんなの愛が猛烈に伝わってきた。
僕たちが掲げる理念は、やっぱり世の中にとっていいことだし、好きなことを好きな人と好きなだけやって、資本主義社会のなかで一定の成功ができるというストーリーを、勇気を持って提示したつもりだった。それに対するリスペクトも含めて、yutoriという会社が身の回りの人に凄く愛されていることを、あらためて感じることができたのだ。
そうして、いよいよ公開の2023年12月27日を迎えた。
まず、朝9時に証券会社へ行き、大きな会議室で初値をみんなで見る儀式があった。でも、行くと、デジタルボードになにも表示されていない。実は、公開5分前くらいまで値段が悪く公募割れの可能性があったため、証券会社の方が気を遣って映していなかったそうだ。ただ、結果的には初値からどんどん上がっていき、無事拍手で終えることができた。
そこから東京証券取引所へ移動。上場直後の取材を受けた後、多くの仲間が見守るなか、僕とカズマ、ハム、ふなっしー、執行役員の佐藤さんの5人で、記念の鐘を鳴らし、上場記念パーティーへと向かったのだった。
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片石 貴展(かたいし・たかのり)
yutori代表取締役社長
1993年、神奈川県生まれ。ニックネーム「ゆとりくん」。「9090(ナインティナインティ)」「Younger Song」「PAMM」など、2024年時点で約30のアパレルブランドを展開し、独自のSNSマーケティングによって創業わずか6年で年商43億円を達成。2020年7月、ZOZOグループ入りを発表。2023年12月、ZOZO傘下を離れ、アパレル業界では最年少&最短で東京証券取引所グロース市場に上場を果たし話題になった。今後5年で100ブランドまで増やすことで「日本で一番ブランド数が多い会社」として成長し、若者の好きや熱狂が溢れる「若者帝国」をつくるというビジョンを打ち出している。
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(yutori代表取締役社長 片石 貴展)

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