子どもが不登校・ひきこもりになる家庭にはどのような傾向があるのか。不登校の子どもを平均3週間弱で再登校に導く独自プログラムを提供するスダチ代表の小川涼太郎さんは「私たちのもとに相談にくる保護者には、過保護であったり、子どもの言いなりになりやすいとい特徴がある」という――。

※本稿は、小川涼太郎『1万人以上の不登校相談からわかった! 子どもの「学校に行きたくない」が「行きたい!」に変わる本』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■子育てには4つのタイプがある
自立した子に育てる具体的なルールについては自著『1万人以上の不登校相談からわかった! 子どもの「学校に行きたくない」が「行きたい!」に変わる本』でご紹介しています。ここでは現在の子育てスタイルについて振り返っておきましょう。現在地を確認しておくことで、取り入れたいポイントが明確になります。
「スダチ式子育てタイプ診断」は、14項目の質問に回答するだけで、「厳格タイプ」「放任タイプ」「過保護タイプ」「言いなりタイプ」のいずれの傾向があるかを調べることができます(「厳格&過保護」のように隣接する2つのタイプにまたがる場合もあります)。
ベースとなっているのはアメリカの心理学者サイモンズの理論です。サイモンズは親の養育態度を「支配か服従か」「受容か拒否か」という2軸で表し、4タイプに分類しました。心理学の分野で長年使われているこの分類を活用しつつ、主に不登校の悩みを抱える家庭1万件の相談にのってきた経験を加えて独自に作成したのがスダチ式子育てタイプ診断です。
■あなたはどのタイプか
不登校支援においても、子育て塾においても実際に親御さんにやってもらっています。
「最近、とくに過保護気味かもしれないな」

「上の子に対しては過保護だけど、下の子に対しては言いなり度が高かったな」
というように、診断時の子育てを振り返るためです。
必ず4つのタイプのいずれかになりますが、バランスが取れているときは4象限の中央部分に位置します(「スダチタイプ」と呼んでいます)。理想に近づけるために気を付けたいポイントは、それぞれのタイプによって異なります。
ですから、最初にご自身の子育ての傾向を知っておくことは重要なのです。
「タイプ診断」としていますが、タイプを確定するものではなく、傾向を見るものです。結果に一喜一憂する必要はありません。
また、小学生用と中学生用に分かれてはいますが、子どもの発達や特性には個人差がありますし、地域性等の要素は考慮されていませんので、あくまでも一つの参考としてとらえてください。経験したことがないケースなど答えにくい質問もあるかもしれませんが、その際は一番近いものを選んでいただければOKです。
タイプ診断を行うタイミングによって結果が変わるのも普通です。一度診断して終わりではなく、ときどき振り返ることをおすすめしています。
こちらから簡単に診断ができます。完全無料で、メールアドレスの登録等も必要ありません。
子育てタイプ診断アプリ(無料)

【小学生用】

https://parenting-type-diagnosis.vercel.app/

【中学生用】

https://parenting-type-diagnosis-jh.vercel.app/
■愛情としつけのバランスが大事
いかがでしたか?
すべての方が必ずどれかのタイプになりますが、中心の位置に寄っている場合はバランスの取れた「スダチタイプ」です。スダチタイプは、愛情としつけのバランスが良く、自立した子に育てるスキルが高い育児スタイルだと考えています。
とはいえ、スダチタイプだから完璧ということでもありません。
現在は良い傾向にあることに自信を持ちつつ、将来にわたって維持またはより良くしていくために、本書の内容を活かしていただければと思います。
本書でお伝えする3つのルールは、すべてのタイプに共通しています。ただ、とくに気を付けたいポイントがタイプごとに異なります。ポイントを意識して重点的に行うようにすれば、より効果が高いはずです。
このような前提のうえで、各タイプの傾向と、それぞれ気を付けたいポイントの概要を押さえておきましょう。
■「過保護タイプ」の傾向
子どもを保護しようとするあまり、過度に積極的な養育態度をとってしまうタイプです。その結果、子どもの自発的な成長の機会を奪ってしまうおそれがあります。子どもは親に依存的になり、自主性に欠け、打たれ弱くなる傾向があります。
①問題解決能力が育まれず、ストレス耐性も低くなる
親が子どもに失敗させないよう、先回りして行動することで、子どもは自分で障害を乗り越える経験が不足し、発達の過程で本来身に着くはずの問題解決能力が育まれません。また、自ら失敗を克服する機会が少ないため、ストレスに対する耐性も低くなります。
解決策
年齢に応じた決断は子ども自身にさせましょう。また、失敗してもすぐには手を貸さず、自分でどう乗り越えるか考えさせることが重要です。

■「他責思考で我慢が苦手」になりやすい
②自己決定力が育たない
親の言うことを聞いてばかりいると自己決定力が育ちません。自己決定力は、幸福感に大きな影響力があることがわかっています。
解決策
次稿で紹介しますが、自己決定力が所得や学歴以上に幸福感に直結することを理解し、意識して子ども自身に決めさせるようにしていきます。
③欲求不満耐性が育たない
欲求不満耐性とは、物事が思い通りにいかないときに、その不満状態に耐える力のことです。子どもは小さいときから、小さな我慢をする経験を通して欲求不満耐性を高めていきます。我慢する経験が少なければ、欲求不満耐性が育ちにくくなります。
解決策
小さな我慢も必要であることを伝え、少しずつそのような機会を増やしてあげてください。
④他責思考になる
他責思考とは、何か良くないことが起きたときに「親が悪い」「学校が悪い」「社会が悪い」というように、原因を自分以外に求める考え方です。過保護な環境で育った子どもは、援助を当然のものと考え、その結果、他責思考に陥おちいりやすくなります。
解決策
他責思考は信用を失う考え方だと伝え続けてあげてください。また、他責的な発言があった場合は、すぐに否定せずに、まずは共感することが大事です。共感することで子どもは自分の話をよく話せるようになり、話しているうちに自らの非に気づくことも多いです。

■「言いなりタイプ」の傾向
親が子どもの顔色をうかがい、言いなりになるような養育態度をとってしまうタイプです。本来必要な指導が行われず、子どもに課題解決の機会が与えられないことが多くなります。その結果、子どもは共感性に乏しく、自己中心的になる傾向が見られます。
①親が子の「言いなり」になる
「甘え」に応えることと「甘やかし」の違いを理解しておらず、自覚のないまま子どもの言いなりになってしまっている場合があります。
解決策
「甘え」に応えることと「甘やかし」は違うことを理解しましょう。「甘え」とは、愛着形成のために情緒的な要求に応えることです。たとえば、ハグをしたり、子どもが話を聞いてほしいと言ったときに時間を取ってあげたりするのは「甘え」に応える行為です。一方、「甘やかし」は、お菓子が食べたいと言われたら好きなだけ食べさせる、ゲームを制限なくやらせてあげるなどの行為です。その場しのぎで甘やかすのではなく、中長期的な視点で見るようにしましょう。
■「自己中で依存的」になりやすい
②共感力が育たない
他人の視点で考える機会が少ないため、共感力が育ちにくくなります。空気を読むことが苦手になります。
解決策
日常の会話の中で、「いま○○さんはどんな気持ちだと思う?」といった質問をし、人の感情を想像させるトレーニングをさせてあげてください。
また、感情をイメージしやすい絵本や小説に触れさせ、共感力を育てましょう。
③自己中心的になる
何でも自分の思い通りになると感じることが多いため、自己中心的な行動をとる傾向があります。
解決策
応えられない要求には、理由を添えて断る勇気を持ってください。
④依存的になる
嫌だと思うことを親が代わりに対処してしまうと、子どもは自分で課題を解決する機会を失い、その結果、依存的になります。
解決策
年齢に応じて、できることは自分でやらせるようにします。また、間違ってもいいので、子ども自身に決断させること、嫌なことがあったときの対処法を子ども自身に考えさせることが大切です。
■「厳格タイプ」の傾向
子どもを受け入れず、支配的な養育態度をとるタイプです。命令をして、親の思う通りに行動させようとするため、子どもは自主的に何かを達成しようという意欲に乏しくなり、自己肯定感が低くなる傾向があります。
①親が周囲の目を気にし、子どもに理想を求める
学歴や就職先など社会的評価につながる部分について、親が気にかけすぎる傾向があります。世間体や周囲の目を気にするあまり、子どもに対して理想を押し付けたり、過剰な期待をしてしまったりすることがあります。
解決策
まずは親自身が自分の気持ちに向き合い、整理することが大切です。誰にでも少なからず「思い通りにいかないことに対する不安や悩み」があることを理解し、それを子どもに押し付けないように心がけることです。

■「主体性がない指示待ち人間」になりやすい
②主体的になれず、他責になる
子どもは親の顔色をうかがうのが常となり、主体的に物事に取り組む気持ちが育ちにくくなります。失敗した際には、「自分の判断ではない」などと他責的に考えることが多くなります。
解決策
子どもの主体性を奪っていないか、常に振り返ることが大切です。他責思考は信用を失う考え方だと伝え続けてあげてください。また、他責的な発言があった場合は、すぐに否定せずに、まずは共感することが大事です。共感することで子どもは自分の話をよく話せるようになり、話しているうちに自らの非に気づくことも多いです。
③自己肯定感が低くなる
親から自分の存在を認めてもらえていないように感じることで、自己肯定感が低くなりがちです。
解決策
条件付きで認めるのではなく、子どもの存在や価値観を日常的に褒めるように心がけましょう。
④指示待ち人間になる
指示、命令に従ってばかりいると、主体性を身につけることが難しくなり、いわゆる「指示待ち人間」になるおそれがあります。
解決策
子どもの身体や生命の安全を守るために命令することは問題ありません。また、「人の物を盗んではいけない」などの社会のルール、規範については、子ども自身の判断力や倫理観が育つ前に教える必要があります。それ以外のことは、できる限り本人の意思を尊重してあげてください。
■「放任タイプ」の傾向
子どもに対して拒否的であり、主体的に関わらない養育態度をとるタイプです。親自身の生活を優先し、子どもへの関心は薄くなりがちです。その結果、子どもは被害感や疎外感を感じ、自己肯定感が低くなる傾向にあります。行き過ぎると放任というより放置、ネグレクト(育児放棄)となりますので注意が必要です。
①親が気づかない
常に忙しくしており、子どもに無関心であることに親自身が気づいていないことも多いです。親として伝えるべきことは遠慮せずに伝えているつもりでも、子どもを観察していないため一方的で、子どもは「親の都合で言っている」と感じます。
解決策
子どもがどう感じているかが重要です。子どもの様子を観察し、指示を出した後は「いまの指示をどう思った?」というように子どもの意見を聞くようにしてみてください。
■「孤独を抱えたコミュ障」になりやすい
②自分を大切に思えない
物理的には生活が成り立っていても、愛情が足りておらず、被害感や疎外感を持ちます。子どもは自分自身を大切に思えなくなります。
解決策
1日5分でかまわないので、静かな場所で子どもと2人きりになる時間を確保し、その時間はしっかりと子どもに関心を向けてあげてください。
③コミュニケーション力が育たない
家庭内の会話が少ないことから、コミュニケーション能力が乏しくなります。
解決策
家庭内の会話を増やすようにしましょう。また、②と同じく、落ち着いて子どもと向き合う時間をとるようにしてみてください。
■復学支援を依頼する親のタイプ
これまで「スダチ式子育てタイプ診断」を受けた方の中で、もっとも多いのが「過保護タイプ」、次いで「言いなりタイプ」です。「放任タイプ」の方はそもそも私たちのような民間の事業者に子育ての相談をすることがないと思われますし、「厳格タイプ」の方も、ご自身の信念に基づいて子育てをしており、私たちのところへはたどり着くことが少ないのではないかと思います。そういったことから考えて、診断を受けた方の中に「過保護タイプ」と「言いなりタイプ」が多いのは当然なのですが、社会全体として見ても、過保護・言いなりに傾いていると感じています。
たとえば、「過保護タイプ」によくある例として、子ども自身が宿題を含めて明日の学校の準備をすることができるのに、「宿題やったの?」「持ち物は何? 準備はできたの?」と聞いたり、ランドセルを開けて中をチェックしたりするのが常態的になっているということがあります。小学1年生の最初のうちはそれも必要なことですが、慣れてきたら本人が自ら行うのを待たなければなりません。
この場合、たとえば「夜9時になったら、準備ができたかどうか確認するからね」と伝えておき、その時間になる前に準備をしている様子だったら褒めます。やっていない場合も口出しをせず、約束通り9時になったら「準備はできた?」と声をかけます。こんなふうに、仕組み作りをしつつ、親御さん自身が意識して行動を変えることで、無理なく子どもの行動も変化していきます。
また、子どもが不登校になったことをきっかけに「言いなりタイプ」になった(傾向が強まった)という方も少なくありません。現代の日本では、不登校の子に対しては「見守りましょう」「エネルギーがたまるまで、好きなことをやらせてあげましょう」という風潮があるため、好きなだけゲームをやらせてあげたり、欲しいものを買ってあげたりと、言いなりになってしまう親御さんも多いのです。
もちろん充電期間として、一定の間、子どもの好きなように過ごさせてあげることは悪くありませんが、それが長期にわたるほど問題の解決が難しくなっていきます。
いずれにしても、バランスのとれた養育態度によって、子ども自身の力を最大限に発揮できるように育てることを目指したいところです。

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小川 涼太郎(おがわ・りょうたろう)

株式会社スダチ代表取締役

1994年生まれ、徳島県出身。関西大学経済学部卒業。2016年4月、新卒でアビームコンサルティングへ入社。新規部署の立ち上げメンバーを経験し、約2年間で0から50人規模のチームへと拡大。日常の業務の中から「教育が変われば人も変わり社会も変わる」ことに気づき、「教育へ人生を捧げたい」と強く思い、2019年5月に退職し、株式会社スダチを設立。不登校の子ども達に向けたボランティア活動を通して、多くの不登校の子ども達と関わる中で、「本当は学校に行きたいけど行けない、自分でも行けない理由が分からない」という“目的意識がない不登校”で悩んでいる子ども達や親御さんが多くいることを知る。その現状に危機感を感じて、「不登校で悩んでいる人たちを1人でも多く救いたい」という想いから、2020年4月、不登校支援事業開始。2024年3月時点での再登校人数は850名を超え、平均再登校日数は18日。再登校率は90%を超える。著書に『不登校の9割は親が解決できる』『1万人以上の不登校相談からわかった! 子どもの「学校に行きたくない」が「行きたい!」に変わる本』(PHP研究所)がある。

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(株式会社スダチ代表取締役 小川 涼太郎)
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