※本稿は、柏本知成『ポストが怖くて開けられない! 発達障害の人のための「先延ばし」解決ブック』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
※登場する人物の名前はすべて仮名です。個人情報保護のため、一部の属性や状況についても変更しています。
■なぜ指示が飲み込めず動けないのか
わかったはずなのに、動こうとした途端、「えっと……何からだっけ?」。
そんなことはありませんか?
佐伯ナオトさん(20代男性)は、説明を聞いている間、相づちを打ちます。けれど、席に戻った瞬間、手が止まってしまいます。その日も、
「A4の用紙を20枚そろえてホッチキスで留め、5セットずつ袋に入れて、11時までに提出する」というシンプルな作業が、頭の中で砂のようにこぼれ落ちました。
視線は机の上を泳ぎ、用紙と袋を持ったまま、固まってしまいます。
そこで、私はナオトさんが趣味でよく「落書き」をしていることを思い出し、ペンとスケッチブックを渡しました。
ペンを握った途端、ナオトさんの手は軽快に動き出し、A4の用紙を四角、ホッチキスを星印、袋を封筒マーク……と描き、線でつないでいきます。
矢印が伸びるたび、工程がまるで線路のように紙面へと描かれます。
描き終えると、今度は名刺大のカードに「A4×20」「ホッチキス」「5セットずつ袋へ」「11時まで」と、4つの要素を走り書きしました。
小さな紙に書くことで情報がピタリと収まり、「散らばっていた言葉が箱に入ったみたい」と、本人はうれしそうにしていました。
仕上げにカードを胸に当て、目を閉じ1分間だけ「頭の中でリハーサル」。
こうして「手順を体に落とし込むイメージをする」という短い儀式で、動きのイメージを内側に染み込ませました。
■情報は「図形」にして整理する
数日後、「午前中に資料セットを3種類、用意しておいて」と指示されました。
以前なら、依頼を受けて固まっていたナオトさんですが、迷わずスケッチブックとカードを取り出し、手順を描いて色分けをしていきました。
1分間、頭の中で作業のリハーサルを終えると、締め切り15分前には、すべてを完了させました。
「やることが“絵”と“数字”になったら、あとは線路の上を走るだけでした」
スタッフも驚く正確さ。ナオトさんの表情には、これまで見たことのない自信が浮かんでいました。
指示が上手く飲み込めないとき、また情報を整理するときには、次の3ステップをぜひ試してみてください。
■情報を整理するときの3ステップ
① 図形で描く
名詞をアイコン化して線でつなぐと、頭の中の「もや」が地図になります。
② 小さく書く
手のひらサイズの紙に「何を・いつ・誰に・どうする」を詰め込むと、情報が逃げにくいのでおすすめです。
③ 1分間リハーサル
目を閉じて、動きを脳内イメージで再生すれば、手順が体に残ります。
「自分も、まず紙に描いてみようかな」と感じた瞬間、その紙があなたのもやを晴らす最初の地図になります。
POINT
・仕事の指示が上手く飲み込めないときは、指示を図形にして描いてみよう
・締め切りが苦手な人は「時間」を「距離」に置き換えよう
■常にギリギリになってしまうのはなぜ
「まだ時間があると思ったはずなのに、気づけば提出5分前――」
このように、時間がワープしたような経験が、あなたにもあるかもしれません。
就労移行支援事業所に通う大野ミユキさん(20代女性)は、企画書作りの訓練が得意です。しかし、締め切りが絡むと時間感覚が狂います。
ある日の朝、課題を受け取ったときには、
「3日後の15時までに提出? 余裕だね」という感じです。
ところが前日の夕方、まだタイトルすら入っていない。そして、提出の当日14時55分。「あと5分⁉」と、あわてて送信ボタンを押すのが、いつものパターンでした。
彼女が口にしたのは、こんな感覚です。
「締め切りって“遠い数字”に見えると、ぜんぜん手がつけられなくて後回しにしちゃって、いつもギリギリ」
そこで、ミユキさんがゲーム好きということで、「時間を距離に置き換えよう」と提案しました。
まず横にしたA4用紙に1本の直線を引き、左端を出発駅(いまの時間)、右端を終点駅(締め切り)に設定。
18時まで残り8時間だったので、線を8等分し、1駅=1時間の路線図を作ります。
次に、小さなクリップを“自分の電車”に見立て、1時間作業をするたび一駅進めるルールにしました。
ここでのポイントは時間通りに電車を進めるのではなく、作業した分だけ電車を進めることで、「期日の全体像を視覚的に把握すること」です。
駅にはシールで、「素材集め」「骨組み」「肉付け」「仕上げ」と工程を貼り、到着したらシールをはがしてクリアです。
■「いまどの行程を進んでいるのか」を把握
12時、クリップはまだ2駅進んだところでしたが、路線図には「残り6駅」の数字がはっきり見えています。
16時には終点の1駅手前、「ラスボス間近!」と笑いながら最後の仕上げ駅へ突入しました。
そして17時、クリップは終点駅に到着。ミユキさんは、提出ボタンを締め切り1時間前にクリックし、路線図の余白にクリアした証である、大きな★を描いてこう言いました。
「時計よりも路線図で見たら“いまどこ”がつかめたんです。だから、走るしかないって感じ!」
線路に置き換え「あと何駅」と数えるだけで、締め切りは敵ではなく、ゴールまで案内してくれる路線図に変わります。
次の4つのステップを試してみてください。
① 線を引き、紙に「線路」を作る
線の左端を始点(いまの時間)、右端を終点(締め切り時間)に設定します。
② 線上に「駅」を作る
1駅の時間を1時間とし、残り時間を割り、線路を等分していきます。長期の計画の場合、1駅の時間(1時間)を1日や1週間などに変更してもOK。
③ 駅ごとにタスクを貼る
駅ごとに、タスクを書いたシールや付箋を貼ります。
④ クリップやコインの「電車」を移動させる
1時間作業をするたび、1駅進めます。その際に、声に出して「次は○○(タスクの名前)駅」と宣言します。駅に着いたら、③で貼ったタスクをはがします。
時間は数字のままだと、遠くて実感がありません。
紙に1本、あなた専用の線路を引いてみませんか?
電車が動いた瞬間、ゴールはもう「距離」として目の前に現れています。
POINT
紙に線路を作って、時間ではなく、距離で残り時間を把握しよう
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柏本 知成(かしもと・ともなり)
KyoMi代表取締役
1985年、愛知県生まれ。山梨大学教育学部を卒業後、24歳で独立し学習塾を開業。これまでに約1000名の生徒を指導し、第一志望校合格率96.3%という高い実績を残す。2016年には国の認可を受け、障害者の社会復帰を支援する就労移行支援事業所を設立。
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(KyoMi代表取締役 柏本 知成)

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