悪習慣を断ち切るにはどうすればいいのか。翻訳家の宮崎伸治さんは「ハーバード大学心理学講師が提唱した“20秒ルール”が応用できる」という。
海外の名著から一流の習慣をまとめた『世界の一流は朝・昼・晩に何をしていたのか』(青春出版)から一部抜粋して紹介する――。
※本稿は、宮崎伸治著『英米の名著から翻訳家が発見! 世界の一流は朝・昼・晩に何をしていたのか』(青春出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。
■忙しくても運動を怠ってはいけないワケ
多忙な人ほど、つい運動の大切さを過小評価しがちです。
かくいう私も、多忙を極めていた30代の頃、まったく運動をしませんでした。
運動する暇があれば少しでも著訳書の原稿を推敲したいと思っていたからです。
まったく運動をしなかったせいか、血液の循環が悪くなって冷え性になり、つねに肩こりと腰痛に悩まされました。あげくには夜間頻尿にもなりました。
マッサージ店に頻繁に通い、夜間頻尿を治すために4年半、毎日薬を飲みつづけましたが、肩こりも腰痛もひどくなるばかりで、夜間頻尿も一向に治る気配はありませんでした。
そんなある日、漢方医学の先生に出会い、運動こそがこうした健康上の悩みを解決してくれるものだと教わり、毎日ウォーキングをすることにしました。
アメリカのハイパフォーマンスコーチ、ブレンドン・バーチャードの著書『成功し続ける人の6つの習慣』によると、運動すれば単に体調が良くなるだけでなく、精神面にも良い影響があるといいます。
さらに、BDNF(脳由来神経栄養因子)の産出が増え、それにより海馬などの領域でニューロンの新生がうながされるので、脳の可塑性が高まり、脳の全体的な機能が向上するそうです。
運動すればセロトニンの分泌がうながされ、よく眠れるようになり、鎮痛作用や不安を軽減する作用もあるといいます。

まさにいいことだらけなのです。
■1日1万歩を始めた実際の効果
私の場合、1日1万歩以上歩きつづけるうちに、夜間頻尿が治っただけでなく、肩こりや腰痛も消えました。
さらに、毎朝清々しい空気を吸うことで心が晴れやかになりました。
まさに心身ともに健康になったのです。
以前は、マッサージ代や夜間頻尿の薬代だけでなく、病院に通う時間も無駄にしていたものが、毎日のウォーキング習慣のおかげでお金も時間も浮かせることができました。
Keep Fit(健康を維持すること)のために運動が大切であることを説く自己啓発書は、ちまたにたくさんあります。
ここではアメリカの作家ジョン・リムの著書『Keep Fit』に書かれた「運動を楽しむための3大原則」を紹介しましょう。
1.安全

英語のことわざにNo pain, no gain.というものがあります。訳は「苦労なくして成果なし」といったところです。しかし運動を楽しむには、過度な運動は避け、pain(苦痛)を感じたら、いったん運動をやめて医師にかかることが大事です。

2.効果

健康増進や病気予防、体力向上などの個人の目標にあわせて、効果的な運動を心がけます。

3.楽しみ

運動によって得られること以外に、定期的な運動から得られる最善の結果のために、モチベーションやゴールを設定するのもいいでしょう。

自戒を込めて話しますが、「忙しくて時間がもったいない」と運動を怠っていると、やがて時間もお金も奪われかねません。適切な運動で、それが容易に避けられるのです。ですから、運動はしないほうがもったいないくらいなのです。
■「やる気はあるのに実行できない」をなくす方法
規則的に運動し、バランスの良い食事をとり、読書し、スキルを磨き、パートナーや友人に心のこもったプレゼントをし、論文を執筆し……。
そんな生活を送りたいと願っていても、実行しなければ効果はでません。
それでも多くの人は、実行を先延ばしにしがちなのです。
一流の人は、実行するコツを心得ています。ひとつは「行動を起こす手間を減らすこと」です。たとえば、勉強したくてもなかなかはじめられないなら、勉強する本をあらかじめ机の上に置いておき、ページをひらいておくのもひとつの方法です。
宅配便を出さなければ……と思っても、つい忘れがちなら、宅配便の伝票に宛名を書いて、机の上に置いておくといいでしょう。
このように、ちょっとした手間を減らすことで、意外と実行しやすくなるのです。
ハーバード大学の心理学講師シャウン・エーカーは、良い習慣を身につけるためにThe 20-Second Rule(20秒ルール)を提唱しています。

彼自身の体験として、クローゼットに入れていたギターを、リビングに据えつけたギタースタンドに立てたところ、クローゼットから取り出す20秒が節約できたため、ギターの練習をすんなりと習慣化できたそうです。
彼にとっては、クローゼットをあけてギターを取り出す20秒が、習慣化できない原因だったのです。
「20秒」にこだわる必要はありません。要は、ちょっとした障害によってやる気がそがれやすいので、障害を少しでも減らすことです。
「やりたいけど実行できない」という人は、自分なりの方法で、ちょっとした障害を取り除く工夫をしてみると、驚くべき効果があるとわかるでしょう。
■20秒ルール「じゃない方」の使い方
前項で紹介した20秒ルールは、悪い習慣を断つうえでも効果があります。
私にとっては、テレビやユーチューブ動画は、なかなか断てない悪い習慣でした。帰宅してテレビのスイッチを入れ、そのままだらだらと見つづけてしまったが、後で考えてみると時間を無駄にしただけだった……。
そんな日々が続いていた30代前半のある日、「これでは仕事ができなくなる」という恐怖心からテレビを捨てました。
テレビがない生活は静寂そのもので、仕事に専念できるようになりましたが、やがてユーチューブ動画にはまりました。
視聴した動画の関連動画が次々と候補として上がってくるので、気をつけないと底なし沼のようにはまるリスクがあります。テレビのバラエティー番組もユーチューブ動画も、視聴率や再生回数を稼ぐために視聴者を釘づけにしようとつくられているので面白いのです。

もちろん、面白くてためになる動画もあるので、全否定するつもりはありません。
■悪い習慣を断つシンプルな方法
しかし、ためにならない動画がたくさんあるのも事実です。そのような動画を見つづけているとだんだんエネルギーが奪われて、30分もすれば、心理学でいうpsychic entropy(精神的なエントロピー)を引き起こしてしまうので要注意です。
entropyとは「無秩序さ」「乱雑さ」を意味する言葉で、ここでいう精神的なエントロピーとは精神状態の混乱を指します。
「今日は絶対に勉強する」と思っても、テレビを見ていると「まあ、別に今日やらなくてもいいじゃないか」と気持ちが萎えてしまう。それがまさにpsychic entropyです。
私はテレビを捨てるという荒療治をしましたが、テレビのリモコンを机に入れておくか、リモコンの電池をはずしておくのもいいかもしれません。ちょっとした手間がかかるようにしておけば、その手間が面倒でテレビをつけるのを控えるかもしれないからです。
悪い習慣を断ちたければ、それをする手間を増やせばいいのです。
冷蔵庫の食べ物をつい食べてしまうなら、買い置きをしなければいいのです。わざわざ店に行かなければならない手間がかかることで、余計なものを食べることを防げます。
手間を増やせば、意外と簡単に悪い習慣が断てるかもしれません。

《参考文献》

・John Lim『KEEP FIT』(Independently published, 2019)

・Shawn Achor『The Happiness Advantage』(Crown Currency,2010)

・ブレンドン・バーチャード著、和田美樹訳『成功し続ける人の6つの習慣』(ディスカヴァー21、2024)

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宮崎 伸治(みやざき・しんじ)

作家・翻訳家

1963年、広島県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業。英シェフィールド大学大学院言語学研究科修了。大学職員、英会話講師、産業翻訳家を経て、34歳で出版翻訳家デビュー。50歳以降に英語だけでなくドイツ語、フランス語、中国語など計8カ国語を本格的に学び始め、現在は英語・翻訳関係の資格20種類以上を含む、137種類の資格保持。おもな語学系の資格は、英検1級、独検2級、仏検準2級、伊検3級、西検4級、中検3級、HSK5級、TOPIK1級、ハングル能力検定5級、ロシア語能力検定4級など。著書『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』(三五館シンシャ)、ベストセラーとなった訳書『7つの習慣 最優先事項』(キングベアー出版)をはじめ、著訳書は60冊以上。

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(作家・翻訳家 宮崎 伸治)
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