※本稿は、伊藤大介『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』(文春新書)の一部を再編集したものです。
■大腿骨骨折で、5年以内に2人に1人は死亡
健康診断のオプション検査のなかには、医師の視点から見ると「信頼性・精度が低い」「コストパフォーマンスが悪い」などの理由で、みなさんが思っているよりも期待した効果が得られにくい「オススメできない」ものもあります。そこで、4つのオプション検査を取り上げ、その問題点を伝えたいと思います。
【1】エコーによる「骨密度検査」
高齢になるほど、気をつけたい疾患が「骨粗しょう症」です。骨は人間の体を支える一番の土台ですが、年齢を重ねるごとにすり減り、骨密度はスカスカになります。いわばスポンジのような状態で、当然、ちょっとした刺激を受けるだけで骨折しやすく、ひどい場合は「寝たきり」になってしまいます。
骨粗しょう症の推計患者数(40歳以上)は意外に多く、2015年に日本で行われた大規模調査では、1590万人(男性410万人、女性1180万人)にものぼるという報告があります。特に女性の方に多く、60代では5人に1人、70代では3人に1人、80代では2人に1人が骨粗しょう症です。
骨粗しょう症が原因となって「大腿骨近位部骨折」をしてしまう人も非常に増えています。全国調査によると1997年には9万2400人だったのが、2017年には19万3400人と、2倍以上にも増えているのです。大腿骨近位部骨折をすると5年以内に死亡する確率は、なんと51%! 2人に1人は死亡しています。
にもかかわらず、骨粗しょう症は疾患として軽視されがちで、骨密度を測定して骨粗しょう症を予防する「骨粗しょう症検診」の受診者数は2022年で31万373人であり、100人中5.5人の割合でしか受けていません。これは非常に由々しき事態です。
だからこそ、みなさんにはもっと自分の「骨密度」を意識していただきたいと思います。……と、ここまで読んだ方は「あれ?」と思われるでしょう。「そこまで重要ならば、なんで『オススメしない検査』なんだ?」と。
問題は、骨粗しょう症を調べる検査、「骨密度測定」の方法にあります。
■骨密度の測定方法は3つあるのだが…
まず、骨密度測定には3つの方法があります。1つ目は「DXA(デキサ)法」と呼ばれるもの。腰椎と大腿骨に2種類のX線を照射して骨のミネラル分を測定する方法です。最も正確に骨密度を知ることができます。
2つ目は「MD法」。これもX線を使うのですが、手の中手骨(ちゅうしゅこつ)という部分の画像の濃淡をコンピューター解析することで骨密度を測定する方法です。
超音波が骨に伝わる速度や減衰量を計測して骨密度を推定します。現在、最も多く用いられているのが、3つ目の「QUS法」です。健康診断で受けることもできますが、例えば、街中のスーパーの健康飲料などを販促するための体験コーナーで、このQUS法の検査器具が使われている場面も目にします。
ただ、実は、この検査、精度があまり高くありません。骨密度の評価の指標として「Tスコア」というものをよく用います。Tスコアは、個人の骨密度が、若年成人平均値(YAM)からどれだけ離れているかを標準偏差(SD)で表したものです。
通常は、Tスコアが「-1.0」未満であれば、骨量が不足していることを意味し、より詳しい検査が必要になります。少し難しい話になりますが、QUS法でTスコアが-1.0という結果だった場合、「感度」は79%、「特異度」は58%という精度になっています。「感度」とは「病気を見逃さない能力」のこと。
つまり、本当に陽性(病気)である人を、検査が正しく陽性と判定できる割合のことを指します。
■QUS法の精度はかなり低い
79%という数値はそれなりに高いので、骨粗しょう症の疑いがある人を見逃しにくいことを意味します。一方、「特異度」とは「間違えて病気だと判断しない能力」のこと。本当は陰性である人(病気でない人)を、検査が正しく陰性と判定できる割合のことを指します。
58%という数値は精度としてはかなり低い。QUS法で測定すると、骨粗しょう症でない人でも、約半数が誤って「陽性」と判断されてしまうことを意味します。つまり「偽陽性」になる可能性が高いのです。では、QUS法で「骨粗しょう症の疑いあり」と言われた人はどうするべきなのか。結局、より精密な「DXA法」で調べることになります。
せっかく追加のお金を払って、オプション検査を受けるのですから、最初から白黒はっきりつけたいところです。料金もQUS法は3000円程度であるのに対して、DXA法は5000円程度と、違いは2000円ほどです。コストパフォーマンスを考えれば、最初からDXA法を受ける方が望ましいでしょう。
■20代で「骨密度73歳」という結果が出ることも
今から20年ほど前、東京大学の医学部生だった時のことですが、私は「鉄門ガンの会」というサークルの会長をしていました。
せっかくの機会なので、暇なときに会長である私も自分の骨密度をQUS法で測定してみました。すると「骨年齢73歳」という衝撃的な数字を叩き出したのです!
「何かの間違いだろう」と思って、反対の足の踵で測定しても60代という結果でした。当時は医学部生ですから、まだ20代です。「早くも高齢者並みに骨がスカスカなのか⁉」と、かなりショックを受けたことを覚えています。
骨密度に気を付けないといけないと思い、食事も改めてカルシウムやビタミンDなどを多く摂るようにしました。数年後、医学部5年生の時に受けた実習で、DXA法を試しに受けられるチャンスがあり、真っ先に手をあげました。自分の骨の状態が、本当に心配だったからです。
幸いなことに、結果は大腿骨でも、腰椎でも、20代の「年齢相当」でした。食事改善を頑張ったから……とも解釈できるかもしれませんが、わずか数年の間に40歳以上もの差を埋められるはずはない。QUS法とDXA法との精度の違いと考えるのが妥当です。私は「検査によって、これほどまでに結果に差が出るのか……」と驚きました。
一応、QUS法を擁護しておくと、超音波なので放射線被ばくはありませんし、非常に簡単に測ることができる。「感度」が高いので「骨粗しょう症の可能性があるか」を調べるスクリーニング検査としては優れています。結果に問題がなければ、骨粗しょう症の確率はかなり低い。
ですので「特異度」が低いことを理解した上でなら、市や区など自治体で広く行われているQUS法による骨密度検査は受けても良いと思います。
■人気の高いオプション検査でも…
次の「オススメできない」検査が、リスクや症状がない人に対する「BNP検査」「NT-proBNP検査」「心臓エコー検査」です。
BNP検査、NT-proBNP検査は、いずれも血液検査によって心臓にかかる負担の大きさや心臓の働きを調べるものです。心臓は負担がかかると、自分自身を守ろうとして「BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)」「NT-proBNP(N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド)」というホルモンを血液中に放出します。つまり、これらの数値が高いほど、心臓に負担がかかっている可能性が高いことになります。
BNP検査は2000円から4000円程度、NT-proBNP検査は1500円から3500円の費用がかかるのですが、血液検査を受けるだけで、心臓の状態をある程度まで把握できるので、人気が高いオプション検査の一つです。同じく心臓エコー検査も人気があって、超音波を使って、心臓の様子を直接、画像に映し出します。放射線を使わないため体への負担が少なく、繰り返し受けられるところが特徴です。
病気の発見だけでなく、治療後の経過観察や妊娠中の検査などに幅広く利用されています。
■病気の予兆を見つける能力がない
このように説明していくと、どの検査も、非常に効果的な検査に見えてくるでしょう。実際、私自身も診断の一助として活用しています。しかし、実際には大きな欠点があるのも事実です。
それは、BNP検査、NT-proBNP検査、心臓エコー検査は、あくまでも「今現在の心臓の状態」を見るものであって、「これから起こるかもしれない病気の予兆」を確実に見つけられるものではない点です。
患者さんはまさに「現在の心臓の状態」を知りたくて、これらのオプション検査を受けるわけですが、症状もリスクもない健康な人を検査する場合、これらのオプション検査で心臓の状態の“良し悪し”を把握しても、病気の予兆の発見には直結しにくい。その結果が正常であろうが、異常であろうが、医師はこれらのオプション検査の結果だけでは、具体的に行うべき対応策や治療法を明確に示すことができないわけです。
検査結果を活かすことが難しく、検査を受ける意味自体も薄くなってしまうと言えます。例えば、心筋梗塞は、心臓の血管の中に突如として血の塊ができ、血管が詰まることによって起こります。しかし、BNP検査、NT-proBNP検査、心臓エコー検査を受ける時点では、このような変化はまだ現れていないことが多い。
なぜなら、心筋梗塞は、突如として起きる血管の詰まりが原因であるため、検査のタイミングでこの急激な変化を事前に捕捉するのは非常に難しいからです。
■何の意味があるのかわからない
むしろ普段、皆さんが健康診断で受けているような脂質異常症や高血圧、糖尿病などを調べる検査結果の方が、よほど「心筋梗塞に今後なりやすいか」を示していると言えます。
また、BNPやNT-proBNPの値が高いからといって、確実に「今現在、心不全である」とまでは言い切れない。BNPは高いけど、心臓エコーで精査してみると、「元気に心臓が動いている」ということはよくあります。かといって、BNPの値が正常だったとしても、「将来、この先もずっと心不全になりにくい」と言えるわけでもない。何とも煮え切らないですが、一言で言ってしまうと、「結果が出ても、どうしていいかわからない検査」なのです。
2017年にイギリスで発表された、足首のむくみや息切れなど「心不全の兆し」がある304人の患者さんを対象にNT-proBNP検査の有用性を調べた論文によると、「感度」(心不全なら検査が陽性になる確率)は94.2%と非常に高い値でしたが、一方で、「特異度」(心不全でない人を正しく陰性と判定できる確率)は49.0%と低い結果でした。
つまり、NT-proBNPが高い結果となった場合でも、必ずしも心不全とは限らず、偽陽性も多く含まれることが示唆されています。また、この研究は心不全が疑われる症状のある患者を対象にしたものであり、症状やリスクのない健康な人に対しては、さらに検査の精度が低下する可能性があります。
■心臓エコー検査は補助的な機能しかない
心臓エコー検査も同じです。この検査は1万から1.5万円程度の費用がかかりますが、2013年に発表された、ノルウェーで6861人の無症状の成人に対して行われた心臓エコー検査の有用性を調べた論文は、「心臓エコーによるスクリーニング検査を行っても、脳卒中や心筋梗塞、あらゆる心疾患に関する死亡率に何の影響も及ぼさなかった」と結論付けています。
2021年に日本循環器学会が発行した「循環器超音波検査の適応と判読ガイドライン」にも、下記のように明記されています。
〈患者の訴える症状から網羅的なスクリーニングとして、心エコー法は第一選択の検査にはならない。すべての症状に共通することであるが、身体所見、血液検査、心電図、胸部X線写真などでその症状が心臓由来であることが疑われるときに、心エコー法はスクリーニング検査として適応になる〉
身体所見、血液検査、心電図、胸部X線など、健康診断の基本的な検査項目の結果をふまえた上で、初めて有効性が発揮される検査だということです。無症状で、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙歴など心臓のリスク因子もない方は、BNP検査や心臓エコー検査を受けても意味がないことが多いのです。
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伊藤 大介(いとう・だいすけ)
医師
1984年、岐阜県生まれ。東京大学医学部卒業後、同大医学部外科博士課程修了。肝胆膵の外科医を経て、その後、内科医・皮膚科医に転身。日本赤十字医療センターや公立昭和病院などを経て、2020年に一之江駅前ひまわり医院院長に就任。1日に約150人、年間3万人以上の患者を診察する。日本プライマリ・ケア連合学会認定医、同指導医、日本病院総合診療医学会認定医、マンモグラフィ読影医。2025年に日本外科学会優秀論文賞を受賞。著書に『総合診療医が徹底解読 健康診断でここまでわかる』(文春新書)がある。
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(医師 伊藤 大介)

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