※本稿は、遠藤正敬『戸籍の日本史』(インターナショナル新書)の一部を再編集したものです。
■両親が離婚したらタラちゃんはどうなるのか
夫婦が離婚する時に第一に考えなければならないのが子どもの存在である。離婚すると子どもの戸籍はどうなるのか?
では、サザエ・マスオ夫妻が何らかの事情で離婚したと仮定しよう(マスオの性格上、DVや不倫に及ぶことは考えにくいが)。
離婚すればサザエは元の戸籍、すなわち父親の磯野波平を筆頭とする戸籍に復籍することになる。それにより彼女はフグ田姓から磯野姓に戻る。かくしてサザエはフグ田の戸籍から抜けるわけだが、もともと実家の磯野家で暮らしているので、サザエの生活の場は変わらない。磯野家を去るのはマスオの方であろう。
タラちゃんはサザエが引き取ると思われるが、その際、タラちゃんの戸籍や姓はどうなるのか。
答えは「親が離婚しても子どもの戸籍も姓も変動がない」ということである。戸籍は「氏」すなわち「家」を構成原理としているので、子はいったん一つの戸籍に収まり、一つの氏を得たら、親が離婚しようとも自分の氏(姓)を変えない限り、戸籍は親のどちらかを筆頭者(戦前では戸主)とするそれに登録されたままである。
タラちゃんは生まれた時から父・マスオを筆頭者とする戸籍に入っているので、離婚後に母・サザエが引き取ったとしても、タラちゃんはマスオの戸籍に残ったままである。
タラちゃんがこれを意に介さなければ別に問題はないが、ここが戸籍の七面倒(しちめんどう)なところである。
■磯野タラオになるには
サザエが離婚後、タラちゃんを「磯野家」の一員として育てていくのであれば、タラちゃんの姓をフグ田から磯野に変更する必要がある。
この手続きがまた面倒である。具体的には、まず家庭裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立てる。ここでの申し立て人は子になるが、15歳未満であれば法定代理人が引き受ける。当然、タラちゃんもこのケースになる。法定代理人とはこの場合、タラちゃんの親権者(ここでは離婚後単独親権=後述=の時代での出来事とする)、つまりサザエになる。
家裁から氏変更の許可が下りたら、タラちゃんが母サザエの戸籍に入籍する届出(これを「入籍届」というが、「入籍」という言葉から婚姻届と混同されることが多い)を役所に提出し、ようやくタラちゃんは「磯野タラオ」としてサザエと同じ戸籍に入れるのである。
こうした煩雑(はんざつ)な手続きを要するのは、それだけ戸籍が現実の家庭と乖離(かいり)しているという証左である。ここには「氏が同じであってこその家族」という家制度の名残りがあるといえるだろう。
■親権が変わっても戸籍は変わらない
さらに離婚後の問題となるのが、親権である。
親権とは「子どもの利益のために」親が監護・教育を行なったり、子の財産を管理したりする権限にして義務である。
明治民法時代は戸主の単独親権であった。既述のように、家制度の下では戸主は家族の扶養や財産管理の責任を負う地位にある以上、必然的に親権は戸主の掌中に委(ゆだ)ねられたわけである。
これが戦後の民法改正後、「男女平等」の精神の下、婚姻中は夫婦による共同親権が認められた。ただし、離婚する時はどちらが子の親権を持つかを決定する必要が規定された。これを「離婚後単独親権制度」という。
しかし、離婚後に父母のどちらかが親権者になろうと、やはり子の戸籍には何の変動も起こらない。2024年5月に民法が改正され、離婚後共同親権制度が導入されたが、その場合でも戸籍の扱いについては従来通りである。
再びサザエとマスオが離婚した場合を例にとろう。新制度によって、離婚後もタラちゃんの親権はサザエとマスオとの共同であるにしても、戸籍はそのままであるから、サザエがタラちゃんを「磯野タラオ」として育てるには先述のように、タラちゃんを「磯野」姓に変えなければならない。
■母子で暮らしても別戸籍という現実
さらに面倒なのは、現行の戸籍法では一つの戸籍に記載されるのは親子二代までとされている点である。このため、離婚すればサザエは波平を筆頭者とする戸籍に戻るわけだが、この戸籍にはタラちゃんは入れない。
要するに、離婚後に母子ともに仲睦(なかむつ)まじく暮らしているとしても、それと戸籍は別なのである。
また、離婚した女性が子連れ再婚するというのも珍しいことではない。ただし、ここでも姓の問題が絡んでくる。
離婚してシングルマザーになった磯野サザエが良きパートナーと出会い、再婚することになったとする。その場合、もちろんサザエは再婚相手と新しい戸籍を編製することになる。
この時に再婚相手(初婚とする)の姓を「夫婦の氏」とする形で再婚した場合、サザエは再婚相手を筆頭者とする戸籍を作り、彼の姓に変わるわけである。だが、連れ子であるタラちゃんをその戸籍に「夫婦の子」として入れるには、再婚相手と連れ子が養子縁組する必要がある(連れ子が15歳以上の時は本人の同意が必要)。
■姓が違っても家族の絆は変わらない
これまで幾度も述べてきたように、戸籍法は「氏を同じくする者」でなければ同じ戸籍に入れないというのが鉄則である。ゆえに、こうした煩雑な手続きを要求されるのである。この手続きをとらなければ、やはりタラちゃんはマスオの戸籍に「フグ田タラオ」として入ったままである。
とはいえ、姓の異なる親子であっても同じ屋根の下で幸せに暮らしていれば、そうした面倒な手続きを踏んでまで姓を変える必要はないであろう。
すなわち、戸籍や姓の異同は真の「家族」の絆を揺るがすものではないのである。
内閣府による最新の統計によれば、2020年の出生数における婚外子の割合は2.4%であり、平成以降、微増の傾向にある。今後は事実婚夫婦やシングルマザーが増えるとともに、婚外子も自然と増えていくことは想像に難くない。
戦後の民法改正により、戸籍における婚外子の扱いは明治民法から多少変更された。
いうまでもなく、子が生みの親の戸籍に入るのは「親子」という血縁関係に基づいている。だが、婚外子の場合、母子関係については分娩という事実によって明らかであるのに対し、父子関係については父が「これは自分の子だ」と認知しない限り成立しない。
■婚外子が認知されても姓と戸籍は別
ここでまた離婚後、シングルマザーとなったサザエを例にとろう。
サザエが新たなパートナーか、一夜限りの相手との子を産んだとする。その子は婚外子であるから、まずサザエが出生届を出すことにより、母サザエの戸籍に入る。当然、子の戸籍の「父」欄は空欄となり、サザエが単独親権者となる。
この時、タラちゃんはサザエと同じ戸籍(したがって「磯野」姓)に入っているものとする。
サザエの婚外子が父から認知されれば、子の戸籍の「父」欄にその名前が記載され、父の戸籍にも認知した事実が記載される(ただし転籍などによって新戸籍を作った時は認知の記載が削除される)が、それだけでは父子の戸籍も姓も別々のままである。
では、サザエの婚外子が父と同じ戸籍、同じ姓となるにはどうすればよいか。それにはまずその父と母サザエが婚姻することが前提になる。これによって婚外子は「嫡出子」となる(これを「準正」という)。その上で子は父の姓に変更する必要がある(手続きは前述の通り)。
繰り返しになるが、たとえ親子であっても氏(姓)が同じでなければ同じ戸籍には記載されないという戸籍法を貫く「同戸同氏」の原則のためである。
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遠藤 正敬(えんどう・まさたか)
政治学者
1972(昭和47)年千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。博士(政治学)。早稲田大学、宇都宮大学、大阪国際大学、東邦大学非常勤講師。専攻は政治学、日本政治史。
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(政治学者 遠藤 正敬)

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