白内障には、高齢者の病気というイメージがある。しかし、眼科専門医の栗原大智さんは「じつは50代の約4割が白内障。
もしも見えづらいなどの症状があれば、早めに眼科専門医に相談して治療を開始してほしい」という――。
※本稿は、栗原大智(ドクターK@眼科医パパ)『眼科専門医が教える最新知識 スマホ時代の「眼」のメンテナンス』(高橋書店)の一部を再編集したものです。
■なかなか自覚しづらい「白内障」
白内障は、目の中にある水晶体が濁ってしまう病気です。主な原因は加齢ですが、アトピー性皮膚炎や糖尿病、ステロイドの服用、外傷、紫外線などによっても起こります。
白内障になると、個人差はありますが次のような症状が出てきます。
・光をまぶしく感じる

・視界がぼやける、かすむ

・物が見えにくい

・物が二重、三重に見える

・白い壁が黄ばんで見える

・暗い場所で物が見えにくい
ただし、白内障の多くは進行がゆっくりであるため、なかなか自覚症状が出にくい病気です。「運転免許の更新ができなかった」「メガネ店で検査をしたら、眼科に行くようにすすめられた」という理由で眼科を受診して初めて、白内障が見つかる方も少なくありません。
■目薬をしても進行すれば手術になる
眼科を受診した際に、もし白内障があれば、進行を抑える目的で目薬による治療を行います。しかし、目薬を使っていても、残念ながら白内障は進行してしまいます。また、濁った水晶体を目薬で元に戻せるわけではないので、状態に応じて手術をすることになります。
手術では、濁ってしまった水晶体を取り除き、代わりに人工の眼内レンズを入れます。この眼内レンズは開発が盛んで、さまざまな種類のものが出ています。
目の状態によってより適切な眼内レンズを選択するのが良いでしょう。
それではここからは白内障についてもう少し深掘りして解説していきます。実は、80歳以上の方は全員が白内障です。日本眼科学会のHPでも、「80代では100%の方が白内障を発症しています」と記載されています。最初にこのことを聞いたときは、100%という数字に驚きましたが、たしかに診察でも「80歳以上で白内障がない方」に出会ったことがありません。
■白内障があるのは大きな問題ではない
もちろん、80歳より若くても白内障にはなります。50代で約40%、60代で約70%、70代で90%が白内障になるといわれています。また、加齢以外の原因が重なると、20代や30代でも白内障になることはあります。
このように白内障の方は一般的に思われているよりも多いのですが、これはあくまで白内障がある方の割合です。「白内障がある」と診断されることと、「白内障の治療が必要」な方は似ているようで違います。
普段の生活には支障がないのに、白内障と診断されることがあると思います。実際、僕の外来でも白内障と診断すると、驚く患者さんも少なくありません。
ただ、それで落胆しないでほしいと思います。そもそも、50代では約40%の方が白内障になっているからです。このように、白内障はよくある病気で、白内障があること自体はそこまで大きな問題ではないと、皆さんには理解していただきたいのです。
■若くして白内障になる「若年性白内障」
しかし、中には20代や30代の若さで白内障になってしまう方がいます。次は、若くして白内障になってしまう若年性白内障について解説します。
白内障は高齢者の病気と思っている方もいます。先にご説明したように白内障の過半数は加齢とともに発症しますが、20代、30代でも白内障になってしまう「若年性白内障」になる方もいます。中にはお子さんや、10代で白内障を発症してしまうこともあるのです。このように白内障は年齢を問わず発症します。
生まれつき、または子どもの時期に発症するものを、それぞれ先天白内障、小児白内障と呼んでいます。特に、先天白内障は、正常な視力の発達の妨げになりやすいため、早期に手術を行う必要があります。
■加齢以外にもある白内障の原因
一方、成人した後も、加齢以外のさまざまな原因で白内障になることがあります。
特に、糖尿病やアトピー性皮膚炎、ステロイド薬の長期使用、目のケガなどの外傷、放射線などは若年性白内障を引き起こす原因として知られています。このような既往歴があれば、見え方に十分注意する必要があります。
これら若年性白内障の症状は、加齢による加齢性白内障と同様で、見えにくさやまぶしさなどを感じます。ただ、その症状は急に進行してくることもあります。そして、加齢性白内障と同じく、進行してしまった白内障は元には戻らないので、治療のためには手術が必要になります。
ただし、若年性白内障はさまざまな理由によって、加齢性白内障よりも手術が難しくなる場合があります。そして、その状態を放っておくと、ますます手術の難易度が上がることがあるため、見えにくいなど症状があれば眼科を受診しておくと安心です。
とはいえ、若い方はまさか自分が白内障になるなんて思ってもみないでしょう。そこで、皆さんの白内障はどれくらい進行しているのでしょうか。かんたんに出来るセルフチェックをご紹介します。
■白内障のかんたんセルフチェック
白内障は進行がゆっくりで、自覚症状が出にくい目の病気です。そのため、定期的に確認することが早期発見に役立ちます。
自分では正確な視力検査をするのが難しいので、もう少しかんたんな方法を紹介します。図表1を、以下の手順にしたがって、片目で見てみましょう。
①目から30センチ離してください(メガネやコンタクトレンズはしたまま)。

②手で片目を隠し、もう一方の目で画像の文字を1字ずつ見ていきます。

③隠す目を変えて、もう一方の目でもチェックします。
画像の文字列が「GOOD」と読めなければ、白内障など目の病気により、コントラスト感度が下がっている恐れがあります。文字のコントラストが分からなくなり、薄い文字が見えにくくなることも、白内障の症状の一つです。見えにくさがある場合、特に左右で見え方に大きな差がある場合は、早めに眼科に相談すると安心です。
■手術に踏み切るタイミング
「いつ白内障手術を受けたほうが良いのですか?」という、手術のタイミングに関する質問を、患者さんからされることがよくあります。白内障が進んで視力が下がると運転免許の更新ができなかったり、日常生活の楽しみも制限されたりすることがあります。また、転倒や認知症のリスクも上がる心配があります。ただ、白内障は命に関わる病気ではないので、「なるべく手術をしたくない」と考える方もいるでしょう。
「白内障手術はいつするべきなの?」と医師に相談するのは当然だと思います。
僕が実際に外来で提案しているのが「手術に踏み切るタイミングの3つの目安」です。このどれかに当てはまれば、手術が望ましいと伝えています。
①ここ2~3回の矯正視力が0.7を下回る

②自覚症状が強く、日常生活に支障が出ている

③眼科医が手術をしたほうが良いと考える状態がある
①は運転免許の更新に絡む視力です。ただし、視力はドライアイなど治療可能な病気によっても変化があるので、1回の検査では判断せず2~3回の視力の変化を参考にするように提案しています。②は視力が良くても、対向車の光がまぶしくて車の運転が危ないなど、日常生活に支障が出ている場合には、手術をしても良いのではと提案しています。③は狭隅角(きょうぐうかく)や年齢などを考慮して、早めに手術をしておいたほうが良い方には、①と②が当てはまらなくても、手術の提案をしています。
この3つは今までいろいろな眼科医の話を聞いてきて、自分なりにまとめた基準です。手術を実際に行う多くの方はこのどれかに当てはまると思います。
■レンズは大きく分けて3種類がある
さて、白内障手術のタイミングについて、分かっていただけたと思います。続いて手術で挿入する眼内レンズについてお伝えしていきます。
白内障の手術では、濁った水晶体の代わりに人工の眼内レンズを挿入します。
この眼内レンズは、単焦点レンズ(保険適用)、多焦点眼内レンズ(国内で承認されたもの、レンズ代のみ保険適用外)、多焦点眼内レンズ(国内未承認のもの、レンズ・手術代ともに保険適用外)があります。
単焦点眼内レンズは1つの距離にピントが合う眼内レンズです。ピントが合う距離は裸眼で見えますが、それ以外の距離はメガネでピント調節をします。一方、価格が上がる多焦点眼内レンズは複数の距離にピントが合う眼内レンズです。メガネを使いたくない方に向いていて、実際に手術後に68.4%の患者さんが「眼鏡が不要、もしくはほとんど不要となった」と報告されています。
ただし、多焦点眼内レンズには欠点もあります。複数の箇所に光を振り分けるため、見え方のシャープさが単焦点レンズより劣ります。非常に細かいものを見る作業をする職業や趣味がある方には向きません。また、暗い場所で対向車のライトを見ると光の輪やまぶしさを感じることがあり、夜間に車を運転する場合には注意が必要です。また緑内障や網膜の病気があると、多焦点眼内レンズは良い適応とはなりません。
これらの特徴を理解せずに手術し、後から単焦点眼内レンズに入れ換えるという方もいますが、その手術はかんたんではないので、慎重に選びましょう。目の状態や生活で何を重視するのか、主治医に相談すると眼内レンズ選びに失敗しにくくなると思います。

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栗原 大智(くりはら・だいち)

眼科医

2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。資格:日本眼科学会専門医

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(眼科医 栗原 大智)
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