高市早苗総理の誕生以後、内閣支持率が高水準で推移している。高市政権は長期政権たりうるのか。
政治ライターの遠藤結万さんは「人気のあるうちに解散を打って4年の任期を確保するのがこれまでの自民党の『勝ちパターン』だが、今回はそうはいかない」という――。
■高市政権発足、歴代2位の内閣支持率
高市政権が発足し、高い支持率をマークしている。例えば、2025年11月1日に行われたJNNの世論調査では内閣支持率は82%と、小泉内閣に次ぐ歴代2位の高水準となっている。各社の調査でも概ね高い水準が伺える。
特徴的なのは、自民党そのものの支持率は高い水準にないということだ。岸田政権以降、自民党の支持率は下降し始め、同じJNNの政党支持率では28.9%にとどまっている。参院選後調査の20.4%からは上昇しているものの、3割を割り込んでいることを考えればなお低い水準である(ANNなど、急伸している調査もあるが、それでも安倍政権、菅政権時と比べれば低い水準である)。
他方、18~29歳の自民党支持率は参院選後の6%から高市総理就任後の調査で22%へと大きく上昇しており、23%だった参政党、17%だった国民民主党などの支持率を吸収していると見られる。
■自民は支持しないが高市総理は支持する人たち
逆説的に、自民党支持率が高水準ではないということは、高市政権が幅広い政党の支持層から支持されていることでもある。同じJNNの調査にて、国民民主党支持層から86%、参政党支持層から90%と、高い支持率を得ている。立憲民主党支持層からも65%、公明党支持層からも70%の支持を得ているのも特徴だろう。
大まかに言えば、自民党支持層のうち、岸田→石破政権下で新興政党へ流出していた層は、一定回帰した層もありつつ、「自民党は支持しないが高市総理は支持する」という支持行動をしているケースも少なくないと言うことだ。

なぜこのような高支持率が生まれたのか。そして、高支持率は持続するのか。鍵は「物語」と「ビジュアル」である。
■「オーディション番組」の顔を持つ総裁選
朝井リョウの最新作『イン・ザ・メガチャーチ』では、推し活をテーマに、さまざまな人間模様が描かれている。作中に「オーディション番組出身のグループはどうしても、デビュー時が人気のピークになることが多い」という一節がある。
総裁選をオーディション番組と捉えれば、これは多くの日本の総理大臣にも当てはまるだろう。日本の総理大臣の支持は、総裁選をピークに数カ月で萎んでいく。総裁選は日本最大のオーディション番組であり、オーディション番組は、「物語」を生むための強い構造である。
総裁選期間中、総裁候補は各局の番組に引っ張り回され、朝のワイドショーから夜のニュースに至るまで、「誰が何票を持っているか」といった話題でメディアはジャックされる。高市氏の支持層からは評判の悪かった「オールドメディア」ではあるものの、自民党総裁が交代するたびに行われるこの「儀式」が、歴代総理の知名度を大きく引き上げてきたことは間違いない事実だ。
今回の総裁選は、とりわけ強い「物語」のフレームを持っていた。多くの識者が、総裁には小泉進次郎氏が就くと予想する中、期間中のさまざまな不祥事の報道もあり、大逆転で日本初の女性総理が誕生したのである。

■オールドメディアとSNSが共に「物語」を作り上げた
2001年の総裁選では、当初は橋本龍太郎元総理の再登板が有力視されていた。しかし、予備選や党員投票で小泉純一郎総理が圧倒的な支持を受け、地滑り的な勝利を収めた。この時もとても強い「物語」が生まれた。
総裁に当選すれば、メディアはおおむね100日程度の「ハネムーン期間」に入り、総理にまつわる私生活や生い立ちなど、あらゆる事柄を報道する。そ総裁選に出馬する前の高市早苗という政治家の知名度は、石破氏や小泉進次郎氏と比べても低かったはずだ。「白紙」に近い状態から、高市総理に関するさまざまな情報を得た有権者も多い。
高市政権のコアな支持層には、「オールドメディアに打ち勝った」という物語が共有され、それが発信を生み、SNS上では好意的な情報が溢れるサイクルが発生している。「サナ活」などのミームもテレビで取り上げられ、「総理が人気らしい」というイメージを再生産する。
しばしば「オールドメディア」と「SNS」という対立構造が取り上げられるが、双方が互いに影響し、「物語」を作り上げていると言える。
■「世襲」「男性」の属性を持たない特殊性
もう一点、高市総理の就任が鮮烈な印象を与えた理由がある。女性総理であり、必ずしもこれまで政治のインサイダーとされてきた「男性」「世襲」属性の政治家ではないということだ。
本は今、首都の知事と総理大臣が両方女性である。
そして、この二人のキャリアは似通っている。小池百合子知事・高市総理、ともにテレビのキャスターやコメンテーターを経て、非自民の立場から政界に入った。生粋の保守政治家というわけではなく、リベラルな立ち位置と見られた時期もあった。
他方、自民党入党後は、高市氏の靖国参拝が注目されるなど、保守的な政治家として見られることが多かった。両者とも世襲ではなく、介護を経験していること、平成における女性政治家の第一世代であること(高市氏が初当選した1993年の総選挙まで、自民党には女性衆院議員が10年以上存在しなかった)など、共通点も多い。
個別の要素として、日本では長らく「世襲」「高齢」「男性」が批判されてきた。二人とも、そのようなネガティブな要素を持っていない。
■若者が政治家を「ビジュアル」で選ぶ時代
年齢や性別による露骨な批判が許されなくなりつつある社会において、唯一批判の対象になりやすいのが中高年男性、つまり「おじさん」である。各級選挙でも、「中高年・男性」の候補は大きな逆風を受けている印象がある。そして、その要因は「ビジュアル」ではないか。
ビジュアルと書いたが、ショーアップ、見せ方と言ってもいい。
私は石破前総理を、見識のある総理の一人と評価している。
しかし、政治にそれほど関心のない若年層の知人に石破総理の印象を聞いたところ、「見てられない」と言われたことが忘れられない。
動画メディアの隆盛、そしてテレビも4Kとなった時代において、「ビジュアル」の影響は想像を超えるものがある。石破前総理に関してスーツの着方など外見的な点への批判が大きかったこと、高市氏のバッグやファッションなどが注目されていることは、こうした時代の流れを映していると言えるのではないか。
高市氏・小池氏の両者が、テレビという「他者に見られる場」から政治の世界に入っていったことは、女性総理と女性都知事の誕生と無縁ではないのではないか。高市氏の国会答弁は極めて聞きやすく、内容も読み上げではなく、自分の意思を込める意欲が感じられる。何より、はっきりしていてわかりやすい。
前任の石破総理が政策通でありながら「見られる」ことに頓着せず、答弁能力も高いが「ねっとり」した言い回しを好む政治家だったこととは対照的だ。
以上、今回の高市政権の支持基盤を読み解く上で、「物語」と「ビジュアル」の二つが大きな特徴であると考えた。
ここまで、政策的な理由を上げていない。また、左右の旧来的なフレームも用いていない。高市早苗氏を「右派」として見ている有権者がどれほどいるかは疑問であるし、高市総理は左右の対立を超えた広い支持を得ている。
また、個別の政策では賛否があったとしても、それ以上に大きな物語が生まれているのが現状だと筆者は考えている。
高市政権は選挙に勝てるのか?
■高市人気と「自民が次の選挙で勝てるか」は別問題
ここまで、高市政権の高支持率について見てきた。では、自民党は次の選挙で議席を伸ばすことができるのか。そのハードルはそれなりに高いと見ている。ポイントは、解散時期と選挙連携である。
自民党の支持率が、依然として低水準であることは先ほど述べた。通常、政党支持率は内閣支持率よりも約1カ月遅れて反映されるが、上昇は一定幅に留まっている。
今回の高市総理就任の自民党支持率への効果は一定程度はあるものの、過去の盤石だった時代の水準には戻っていない。国民民主党や参政党など、支持層が競合する政党も次の選挙では積極的に候補を擁立してくるだろう。
実際、高市氏の就任後、葛飾区議選など直近の地方選挙で自民党は好成績を収めていない。また、党内には必ずしも高市総理の路線と一致する議員だけが在籍しているわけではない。
公明党が連立から離脱した影響も大きい。全てではないにせよ、一定の票が野党側の陣営に流れるだけでもインパクトは絶大だ。
JX通信社の米重克洋氏は、10月21日のYahoo! 記事にて、自民党が勝利した52もの選挙区で結果が逆転すると試算している。
総裁就任による高支持率を入れた分析ではないものの、単なる支持率上昇で容易に埋まる数字ではない。また、現時点でのカギカッコつき「連立」のパートナーである維新とは、具体的な選挙協力の内容すら決まっていない。このような現状で、果たして年内に解散が打てるのか。ましてや、参院も過半数を持っていない状況だ。
■高市総理は「自民の勝ちパターン」に持ち込めるか
総裁選後、高支持率のうちに解散総選挙を行うというのは自民党にとっての「勝ちパターン」だが、時間が経てば、どれほど人気のある総理でも支持率が落ちていくのは避けられない。
例外的な長期政権であった安倍政権は、国民的な支持を得た政権だと記憶されているが、常に高支持率をキープしていたわけではない。支持率が不支持率を下回った時期もある。決して支持率頼みではなく、強い党内基盤をもち、適切な解散戦略を持って要所の選挙で勝利し、丁寧な交渉で公明党と盤石な関係を築き、長期政権となったのだ。
小泉内閣も、田中真紀子外相の更迭による支持率の急降下を経験している。しかしながら、小泉純一郎総理は「自民党をぶっ壊す」と掲げながらも、森喜朗元総理を含めた清和会の強いバックアップを受けて政権運営を行い、公明党との連立も維持していた。
高市政権が長期政権を築くためには、(1)早期に解散し、次の総選挙で大勝すること、(2)自身の主張に近い議員を当選させて党内基盤を固めること、(3)参院を含め連立・選挙協力のパートナーを増やすこと、の3点をクリアする必要がある。いずれも、低いハードルではない。
高市総理と自民党にそれを吹き飛ばすような強いモメンタムが生まれ、持続する可能性はある。欧米各国も含め、政界は大きく変化しており、既存政党も激変の時期にある。予測しようがないが、あり得るシナリオの一つだろう。
■高市支持層と自民支持層の乖離
高市氏が出馬した2回の総裁選は、過去と比べても異質なものだった。保守系インフルエンサーは公然と岸田総理・石破総理、あるいは小泉議員を批判した。驚いたのは、ネットで「自・公・立」なる言葉が生まれたことだ。これは、自民・公明・立憲が増税を進めている、という前提に基づいている。左右の対立を超えた「既成政党」と見られたのだ。
高市氏を支持する声の多くは、旧来型の自民党のあり方、つまり社会保障と責任ある財政を基軸とする包括政党としての自由民主党を否定しているように見える。それが、内閣支持率と政党支持率の乖離に表れているのではないか。つまり、高市氏の支持層が、そのまま自民党に投票するかどうかは、やはりまだ見通せない。
高市総理の支持層は、他の総裁候補の陣営とは根本的に異なる熱気を生み出していた。他方で、水面下で高市総理の手腕に疑問符をつけた党関係者もいる。その評価が、2021年の総裁選における石破氏の決選投票での当選の遠因となった。
■自民党の終わりのはじまり
高市総理は、政調会長、総務大臣などを歴任してはいるものの、幹事長や外務大臣、財務大臣など、歴代総理がステップとして経験してきた重要ポストを経ずに総理大臣に就任している。また、派閥の領袖として盤石な地盤があるわけでもない。
総理としては未知数な部類であり、これまでの国会でも意欲的ながら不安定な答弁が目立つ。 「物語」は永遠には続かない。一般的に、「ハネムーン期間」は100日前後と言われる。高支持率が物価高などの生活課題を解決するわけではなく、不満が溜まればその矛先は時の総理に向く。
高市政権の支持率が下落したとき、自民党にとっての本当の試練とも言える。自民党議員は、支持率の落ちた高市総理を「降ろす」ことができるのか。
あるいは、米共和党のように、高市氏の支持層に合わせ、党そのものが変化していく可能性もある。自民党が包括政党として存続できる時間は、必ずしも長くないのではないか。そう考える。

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遠藤 結万(えんどう・ゆうま)

PublicBeyond代表取締役

京都府京都市生まれ。早稲田大学卒業後、Googleを経て政治家のセカンドキャリア・パラレルキャリアを支援する株式会社PublicBeyondを設立。政治分野、議会政治などの仕組みについて、各種媒体にて執筆する他、平河エリ名義での著書に『25歳からの国会 武器としての議会政治入門』(現代書館)。2020年尾崎咢堂ブックオブ・ザ・イヤー大賞(演説部門)。

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(PublicBeyond代表取締役 遠藤 結万)
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