※本稿は、内田和成『客観より主観 “仕事に差がつく”シンプルな思考法』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■人間の意思決定は「フレーム」で変わる
本書では、「相手の価値観に寄り添う」視点を持つことは、非常に重要だと解説してきた。では、どうやって、その相手の価値観を突き止めればいいのか。
その説明に入る前に、ここでは少し、人間の「認知の歪み」に関する話をしたい。
人間のものの見方というのは、必ず何かしらの「バイアス」がかかっている。
ゆえに、自分では「客観的にものを見ている」と思っていても、どうしてもどこかに偏りが生じてしまう。
ここで、行動経済学や心理学でよく引用される「タバコと神父」の話を例に挙げてみよう。
若い神父が告解の場で、上司の神父に質問をした。
「タバコを吸いながら、お祈りをすることはできますか?」
当然のごとく、「不謹慎だからやめなさい」と、上司の神父は若い神父を叱った。
ところが別の若い神父が、今度は上司の神父にこんな質問をした。
「私は心の弱さから、祈りのさなかにタバコを吸ってしまった。
すると、上司の神父はこう言った。
「悔い改める祈りならばよいだろう」
考えてみれば、どちらの若い神父も「タバコを吸いながら祈っている」という点では同じである。にもかかわらず、前者は喫煙という行為が「神聖な祈りの妨げ」というネガティブな文脈で捉えられ、後者は「懺悔のきっかけ」というポジティブな文脈で解釈された。
このように、同じ情報でも提示の仕方(フレーム)を変えるだけで、人の意思決定や判断に影響を与えることがある。この現象を「フレーミング効果」と言う。
人間の意思決定というのは、こんなささいなことで、簡単に変わってしまうのだ。
■日常生活に潜む「認知バイアス」
こうした人間の「認知バイアス」は、行動経済学などの領域で研究され、実際に私たちの日常生活の中でも活用されている。
たとえば、「松・竹・梅」と3段階に値段が分かれたランチを選ぶ際、ついつい真ん中の「竹」を選んでしまった経験はないだろうか。
これは「ゴルディロックス効果」と呼ばれ、極端な選択肢(最も高価な「松」や、最も安価な「梅」)を避け、中間にある無難な選択肢を選ぶ人間の心理(極端回避性)を利用した販売戦略といわれている。
たとえばサブスク契約をする際に、「ベーシックプラン」「スタンダードプラン」「プレミアムプラン」の3つの選択肢があると、つい「スタンダードプラン」を選んでしまうのも、この認知バイアスによるものだ。
ランチやサブスクのプランを決める程度であれば、多少本意ではない選択をしてしまっても、それほどダメージはないだろう。
しかし、ビジネスの現場では、こうした認知バイアスによって誤った意思決定をしてしまい、それによって大きな損失を被ることだってある。
「サンクコスト」という言葉を、聞いたことがあるだろうか? 「埋没費用」とも訳され、すでに費やしてしまい決して取り戻すことのできない費用のことを指す。
こうした費用は、本来その後の意思決定には関係がないはずだが、人は「もったいない」という心理からサンクコストを考慮に入れてしまい、不合理な判断を下すことがあるのだ。
■10億投資した薬の開発を途中でやめられるか
具体的なケースで考えてみよう。
製薬会社のA社が、これまでに10億円のお金を使って新しい薬の開発を行ってきて、ようやくあと少しで新製品を出せるところまで来た。
ところが運悪く、競合会社のB社がちょっとの差で、同じような薬の開発に成功し、先に発売までこぎつけてしまった。いまさらA社が開発に成功したとしても、ビジネス的には手遅れである。
ちなみにこの薬の開発には、あと1億の追加投資が必要だ。その場合の成功確率は、かなり高いものが予想されている。あなたが社長であれば、研究開発を続けさせるだろうか? それとも止めるだろうか?
この場合、実は開発を中止するのが、経済学的には正解となる。大前提として、すでに投資した10億円は、仮に薬の開発に成功したとしても戻ってこないので、なくなったものとして判断するのが正しい。
どうせ回収できないのであれば、新たに追加する1億円の投資は損失の上書きになるだけなので、追加投資をすべきではないのだ。
ところが現実には、多くの場合で投資の継続が意思決定される。
こうした返ってこないお金や時間を「もったいない」と感じ、合理的な判断が下せなくなる事例は、個人でも企業でもよく起こる。まさに、サンクコストのバイアスのなせる技と言えるだろう。
■「偏っている」ことを、まずは認める
この製薬会社の話はやや極端な例ではあるが、私たち人間がこうした認知バイアスから完全に自由になることは、正直不可能に近い。
だからこそ大切なのは、人間という生き物はみな、「歪んだ認知」や「偏ったものの見方・考え方」をしているという事実を、まずは理解することだ。それは当然、他人だけではなく、「自分自身にも偏りがある」と認めることでもある。
そうすれば、たとえば何かの意思決定をするときに、「自分はいま、サンクコストを気にして愚かな選択をしようとしていないか?」「もしかするとこれは、フレーミング効果の影響で印象が操作されているのではないか」といったことに気づく可能性を高めることができる。
これは、他者と交渉をしたり、説得を試みたりするときでも同じだ。
たとえ同じものを見ていても、その「ものの見方」には、必ずどこかに歪みがある。そしてその歪みが、両者のすれ違いや、意見の食い違いを生むわけだが、大抵の人はそのことに気づいていない。
だからこそ、「自分も相手も客観的ではない(なりたくてもなれない)」という視点を持つだけで、そうした不和が驚くほどあっさり解消されたりする。
ようするに、「客観性の落とし穴」についてまず理解しておくことが、その落とし穴にハマらないためには、非常に重要なのだ。
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内田 和成(うちだ・かずなり)
早稲田大学名誉教授/東京女子大学特別客員教授
東京大学工学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。日本航空株式会社を経て、ボストン コンサルティング グループ(BCG)入社。2000 年から2004年までBCG日本代表を務める。2006年度には「世界の有力コンサルタント25人」に選出。2006年から2022年3月まで早稲田大学教授。早稲田大学ビジネススクールでは意思決定論、競争戦略論、リーダーシップ論を教えるかたわら、エグゼクティブプログラムにも力を入れる。
主な著書に、『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』『イノベーションの競争戦略』(以上、東洋経済新報社)、『リーダーの戦い方』(日本経済新聞出版)など、ベストセラー・ロングセラーが多数ある。
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(早稲田大学名誉教授/東京女子大学特別客員教授 内田 和成)

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