進路選びに親はどうかかわるべきか。スクールカウンセラーとして3万人の親子に寄り添ってきた普川くみ子さんの著書『10代の子どもの心の守りかた』(実務教育出版)より、最善の進路を選ぶための親の関わり方を紹介する――。

■それは本当に「自分の意思」だったのか
習いごとを選ぶとき、親が「この習いごと、やってみたら?」と言えば、子どもはそのまま従うことも多いでしょう。
10代半ばより幼い年齢の子どもは、親の意見をそのまま受け入れ、「うん、やってみる」と答えることが少なくありません。
親はそんな様子を見て、「子どもが自分で決めた」と、都合よく解釈しがちです。しかし、その選択は本当に「自分で決めた」と言えるでしょうか。
たしかに、最終的に「やる」と決めたのは子ども本人です。表面的には、子どもが自分の意思で判断したように見えるかもしれません。しかし、その背景には「この習いごとをしてほしい」という親の願いや意図が、うっすらと透けて見えていないでしょうか。
子どもは親の気持ちを汲み取って、「親を安心させたい」「親をがっかりさせたくない」という思いから、親の望む選択をしてしまうことがあります。
これは聞いた話ですが、ある日、小学生の女の子が「ピアノを習ってみようかな」と言いました。「ピアノを習いたかったけれど、できなかった」という話を何度かしていた母親は最初、娘が自分と同じ興味を持ったことに喜びました。
女の子はしばらくレッスンを受けましたが数カ月後、「ピアノをやめたい」と打ち明けてきました。理由を聞いてみると「お母さんが喜ぶかなと思ってやってみたけど、あまり楽しいと思えなかった」とのこと。

母親はずっと娘にピアノを習わせたかったあまり、娘の気持ちを確認していませんでした。つまり、娘の行動は自分のためではなく、親のための選択だったのです。
■「自主性」と「主体性」の違い
「自分で決める」ことには、大きく分けて二つの種類があります。
一つは「何かをやるかどうか」を決めるパターン。もう一つは「何をやるか」を決めるパターン。
この二つには、「自主性」と「主体性」という意味の違いがあります。
「自主性」とは、何かを自分から率先して行動する姿勢のこと。たとえば、「誰かの指示がなくても、やるべきことを見つけて行動する」といったように、「周囲から期待されることを自ら進んでやる」というニュアンスを含みます。
もう一方の「主体性」とは、「自分の意志や判断に基づいて行動する態度」を指し、目的と責任を持って自ら選択・行動する姿勢です。
■自主的な子どもの不幸
つまり、誰かに用意されたレールから外れないよう自ら進むのが自主性だとしたら、主体性とは「どこに、どんなレールをどこに向けて敷くか」までを自分で考えて決め、進んでいくことなのです。
自主性が悪いわけではありません。親は子どもの幸せを願い、「これが子どものためになる」と思って提案しているのですから、その思いは尊重されるべきです。
ただ、それ以上に子どもの幸福度を高められる方法があります。
それは、「子どもが主体的に選び、行動する機会を持つ」こと。つまり、「何をやるか」から自分で決め、親の顔色を伺うことなく、自分の意志で挑戦する経験を積むことです。
■子どもの主体性を伸ばすために必要なこと
我が家の次女は昔から好奇心が旺盛で、自然科学や社会科学、人体のしくみなど幅広いことに興味を持っていました。そのため進路を決めるにも時間がかかり、高校3年生になってもなかなか方向性が定まりませんでした。親としてはその過程で焦りを感じることもありましたが、それでも、彼女が自分で決めることを尊重し、その決定を待ちました。
高3の6月、彼女はようやく進路を決めました。その選択は、高い目標を掲げての挑戦でした。正直に言えば、そのときは「それはかなり難しいのでは……」と心によぎりましたが、「やってごらん。応援しているから」とだけ伝えました。
その後、彼女は自分で受験校を選び、必要な費用やスケジュール、入学後の準備までを自分で調べ上げ、無事合格することができました。
彼女の挑戦を否定せず見守ったことで、自分の力で道を切り拓く姿を見届けることができたのです。
あのとき、私が否定的な言葉を口にしてしまっていたら、いまの彼女はなかったかもしれません。親としては、先行きが見えず不安もありましたが、結果として彼女が自分で選び取った道をしっかりと歩んでいることに、改めて子どもの底力を感じています。
■主体性がある子は幸せになる
神戸大学社会システムイノベーションセンターの西村和雄特命教授と、同志社大学経済学研究科の八木匡教授による調査でも、「幸福度に大きな影響を与えるのは自己決定である」ことが明らかになっています。
この調査では、20歳以上70歳未満の男女約93万人を対象に、「中学から高校への進学」「高校から大学への進学」「初めての就職」について、それぞれ自分の意思で決めたかどうかを尋ねました。その中から信頼性の高い約2万件のデータを分析したところ、「進路を主体的に決定した人ほど、幸福度が高い」という結果が得られたそうです。
■「あなたはどうしたい」とだけ聞く
ではなぜ、主体的な人生を歩む人は、幸福になりやすいのでしょうか。
それは、「自分で決めたこと」には大きな価値があるからです。
人は本来、自分の人生を自分のために生きる存在です。だからこそ、自分の望む未来や生き方のために「いまどう行動するか」を自ら選ぶことで、人生に対する納得感や責任感が生まれるのです。これを心理学用語で“自己決定性”といいます。
この自己決定性は、「自分の人生を、自分の力で思うように歩んでいける」という自信や勇気につながります。自分で選んだ道だからこそ、成功のために努力できるし、もし失敗したとしても、「自分で選んだ道だから」と納得し、学びにつなげることができるのです。

親から見れば、「その選択は失敗するに決まっている」「そんな道を選ぶなんてありえない」と感じることもあるでしょう。でも、それはあくまで親の価値観にすぎません。そんな親の思いとは裏腹に、子ども自身は案外、幸せを感じつつその道を進んでいるかもしれません。ですから、ただ、「あなたはどうしたい?」とだけ、尋ねてあげてください。
そうすれば子どもは、人生のさまざまな場面で、「自分が幸せになるためにはどうすればいいか」を自分の頭で考えるようになります。やがて、生まれた選択肢の中から主体的に行動を選び取り、その結果を他人のせいにしない人になるはずです。

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普川 くみ子(ふかわ・くみこ)

公認心理師・臨床心理士

東京生まれ。1995年の制度導入の翌年から第一線に立ち続けるスクールカウンセラー。30年間で小中高計12校、のべ3万人以上の児童・生徒・保護者・家族に寄り添い、問題解決に導いてきた、生徒・児童心理のプロフェッショナル。カウンセリング以外にも、親・教員・警察・病院・児童相談所・AIなどと連携した新しい生徒救済システム作りに携わるなど、いま学校教育界でもっとも注目されているカウンセラー。横浜創英中学・高等学校のほか、岡田武史氏が学園長を務める愛媛・FC今治高等学校里山校(FCI)、神野元基氏が理事長・校長を務める佐賀・東明館中学校・高等学校のスクールカウンセラーも務める。

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(公認心理師・臨床心理士 普川 くみ子)
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