※本稿は、針貝有佳『デンマーク人の休む哲学』(大和書房)の一部を再編集したものです。
■悩み事があると心は休まらない
皆さんは、どんなときに「休めている」と感じるでしょうか。また、どんなときに「休めていない」と感じるでしょうか。
なかには、デジタルデトックスをしても、何もしていなくても、「心が休まらない」という人もいるのではないでしょうか。
何か大きな問題や不安を抱えていると、頭が「悩み」に支配されてしまいます。余白というと聞こえは良いのですが、正直、何も予定がない暇な時間を持つこと自体が嫌だ、という人も多いのではないでしょうか。
隙間時間ができると、悩み事が頭の中をぐるぐると駆け巡り、ネガティブ思考が止まらなくなってしまう。それだったら、スマホを見て気を紛らわしていたほうがいい、と感じるかもしれません。
そもそも、深刻な悩みを抱えていると、心が休まりません。
そんな状態では、せっかく余白があっても、悩み事が頭を駆け巡るだけ。ただの苦痛でしかありません。
■デンマーク人は「問題を深刻化させない」
ハーバード大学のロバート・ウォールディンガー教授らによる幸福研究によれば、健康で幸せな人生を送るカギは「良好な人間関係」です。
つまり、良好な人間関係がなければ、本当の意味で心身がリラックスした健やかな状態で過ごすことはできない、ということです。
人間関係の悩みを抱えていると、時間があっても、デジタルデトックスをしても、心身が休まらない状態が続いてしまうのです。
デンマーク人を見ていると、問題を「深刻化させない」ことが上手です。
デンマークは国際ランキングで常にトップ3に入る「幸せな国」ですが、彼らにも悩みがないわけではありません。
ただ、デンマーク人は問題への対処が迅速で、さらに抜本的な解決方法をとるので、問題を必要以上に長期化あるいは深刻化させずに済むのです。
■世界一幸せな国の離婚率は40%
わかりやすい例を見ていきましょう。
デンマークは「幸せな国」でありながら、離婚率が40%を超えています。離婚率が高いというとネガティブなイメージを持つかもしれませんが、これは離婚という選択肢を持ちやすいということでもあります。
また、デンマーク人は離婚しても、1~2週間交代で子どもの世話をして、子どもの誕生日会やクリスマスなどは一緒にお祝いするのが一般的です。
私の目から見ると、彼らは問題が深刻化する手前で「離婚」という形で手を打つからこそ、離婚後も子どものために話し合いながら協力できているように見えます。
誕生日会やクリスマスにも、離婚した2人が子どものために集まり、お互いの親戚とも和やかに話しています。
夫婦として一緒に暮らすことは無理だという結論にいたっても、絶縁関係にならず、協力し続けていけるのは、問題が深刻化する前に対処するからではないでしょうか(もちろん、離婚せずに、最初から理想の家族を築ければ、それが一番だとはデンマーク人も思っています)。
■「石の上にも三年」ではなくさっさと転職
また、同じような例として、デンマーク人の転職率が高いことが挙げられます。一人あたりの生涯の転職回数は平均7回に上ります。
デンマークには「石の上にも三年」という発想はありません。
合わない環境に身を置き続けるよりも、合わない環境には早く見切りをつけて、もっと力が発揮できる場所に移動したほうが良いと考えるのです。
そのため、合わない職場に何年も居続けて、悩みを深刻化させていくというリスクを抑えることができるのです。
人間関係の問題は、多くの場合が「距離感」によって生じます。
関係が近すぎる、あるいは遠すぎることが、私たちの悩みのタネになりがちです。皆さんも身に覚えがあるのではないでしょうか。親しくなって近い関係になったら、相手の嫌な部分が見えてきたとか、親しくなりすぎてお互いを尊重する気持ちが薄れてしまったとか。
そんなとき、我慢してその関係を継続していてもストレスは溜まる一方です。
■メールの「結びの言葉」で距離感がわかる
あるいは、距離を調整するというのも一つの手です。
お互いの基本的な性格はなかなか変わりませんが、共存できる「距離感」を発見できれば、それだけでお互いにラクになりますし、物事が回るようになります。
デンマーク人は、何か問題があったときに、即座に「距離感」を調整します。
わかりやすいのは、メールやメッセージの終わりに来る結びの言葉です。デンマークではメールやメッセージの最後に「結びの言葉」を一言入れる習慣がありますが、ちょっと関係が近くなりすぎたと感じると、この結びの言葉を変えて「距離」をつくるのです。
具体的には次のようなものです。
①一番親しい関係
「愛を込めて」(Kærlig hilsen)
「ハグ」(Kram)
②カジュアルでニュートラル。親しみあり
「心からの想いを込めて」(Bedste hilsner)
「たくさんの想いを込めて」(Mange hilsner)
③フォーマル。ビジネス関係や知り合い
「敬具(よろしくお願いします)」(Med venlig hilsen)
慣れないと冷たく感じることもありますが、それはお互いに気持ち良く過ごすための「知恵」なのです。
■どの距離感が最も居心地がいいかを探る
温かいのか、冷たいのか、よくわからない。デンマーク人と接していると、そんなふうに感じることがあります。
デンマーク人の絶妙な温かさと冷たさのバランスは、その「距離感」にあります。
親切だけれど、一定の距離は保つ。いい人だけれど、無理をしてまで相手の期待には応えない。
ちょっと気になることはあっても、自分と直接関係ないことにまで口を挟まない。けれど、ここは自分の意見を伝えるべきだと思ったときには、ハッキリと自分の意見を伝える。
他人と自分は違って当たり前。他人と自分の間には境界線がある。
このような考え方をしたうえで、自分と相手の「共通点」と「相違点」に目を向け、どんな関係を築くのがベストかを模索します。どんな協力関係がちょうど良いか、どのくらいの距離感がちょうど良いか、最適な関係のあり方を探るのです。
■関係に深入りしすぎず、自分のライフスタイルを貫く
デンマーク人の人付き合いを関係性の近さからレベル分けすると、第一に家族・パートナー、第二に親友、第三に友達・同僚・親戚、第四に知り合いという段階があります。
身近な家族やパートナーとはとても親密な関係を築き、その次に親友が来ます。
親友は昔ながらの友人が多く、場合によっては、ほぼ家族のような存在です。
デンマーク人が圧倒的に大切にするのは、こういった身近な人間関係です。
そして、その次に、友達・同僚・親戚。このうちのどのカテゴリの人が一番近い関係かというのは、ケースバイケースです。
仕事が大好きな人は、同僚がとても近い存在になることもあります。毎週のように会う趣味仲間がいれば、仲間が近くなりますし、親戚と仲良しの人もいます。ここまでが、デンマーク人が大切にしている関係です。
そして、そこから離れたところに、たくさんの「知り合い」がいます。
海外からデンマークに移住すると、デンマーク人の「知り合い」の関係性を打ち破って、その内側に入っていくことに苦労します。デンマーク人のコアな人間関係はすでに出来上がっている場合がほとんどで、そこで完結しているからです。
デンマーク人には、新たに親しい関係の人を増やそうという気があまりないのです。ただ一つだけ、「知り合い」を打ち破れるとすれば、同じ関心や趣味を共有できる場合です。
外部からの新参者にとってはちょっと寂しい気持ちになりますが、「幸せな国」デンマーク人は、よく知っている大切な人を中心に暮らしているのです。
そして、それ以外の関係にはあまり踏み込まず、距離を取って、自分のライフスタイルを守ります。
----------
針貝 有佳(はりかい・ゆか)
デンマーク文化研究家
東京・高円寺生まれ。早稲田大学大学院・社会科学研究科でデンマークの労働市場政策「フレキシキュリティ・モデル」について研究し、修士号取得。同大学・第二文学部卒。2009年12月に北欧のデンマークへ移住して、デンマーク情報の発信をスタート。首都コペンハーゲンに5年暮らした後、現在はコペンハーゲン郊外のロスキレ在住。著書に『デンマーク人はなぜ4時に帰っても成果を出せるのか』『デンマーク人はなぜ会議より3分の雑談を大切にするのか』。
----------
(デンマーク文化研究家 針貝 有佳)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
