※本稿は、ケイシー・ミシェル『ロビイストに蝕まれるアメリカ』(草思社)の一部を抜粋、再編集したものです。
■米国史上最もロビイストに厳しい政権のはずが…
ジョー・バイデンは、外国ロビー活動がもたらす脅威に対して、米国史上のどの主要な候補者よりも厳しい態度をとっていた。選挙遊説では「外国政府によるロビー活動の禁止」だけでなく、表向きは独立した企業による外国政権のためのロビー活動を可能にしていた抜け道を閉ざすことも約束したのだ。
この2つの公約は、外国ロビー活動に関する米国の政策において、アイヴィー・リーとナチスの時代以降で唯一かつ最大の変化を示すものだった。これによってバイデンは、外国ロビー活動がもたらす脅威の本質を真に理解している最初の大統領として位置づけられた。
だが何年かすると、バイデン政権が公約を守りきる兆しが見えなくなった。さらに悪いことに、公約を守ろうとする意欲がほとんど感じられず、そもそもバイデンが自分の約束したことを覚えているかどうかさえ怪しくなった。
バイデン政権に公平を期すなら、一部には構造的な原因があるかもしれない。議会や政権がバイデンの提案する禁止措置を実施できるかどうかについては、いまだにさまざまな法的解釈がある。なんと言っても、外国ロビイストたちが仕事と活動の拠りどころとする「請願権」が、米国憲法修正第1条によって守られていて、彼らが主張する世界最悪の暴君たちの宣伝担当を続けてもよい理由の核心として存在している。
過去の多くの大統領たちとまったく同じようにバイデンもまた、ワシントン界隈でもてはやされていたさまざまな外国ロビイストたちと協力し合ってきたのもその一因と言える。
■狙われたジョー・バイデンの息子
ジョー・バイデンの息子であるハンター・バイデンは、腐敗したウクライナのオリガルヒが経営するガス会社のために公然と仕事をしていた。ハンターが雇われたのは、ほかの外国企業との怪しげな関係でもそうだったが、ガス業界に関する専門知識があるからではなく、父親のジョー・バイデンとの関係、そしてその父親を望ましい政策へと誘導する潜在的な力を見込まれたからだった。
数百万ドルをかけたハンターの雇用は、残念なことに特殊な事例ではない。不正を行う外国企業や外国政権が、米国の政策に影響を与える手段として米国の政策立案者の親族を雇うのはよくあることだ。この悪しき慣習の始まりは、少なくともジミー・カーターの時代にさかのぼる。当時、リビアの独裁政権がカーター大統領の弟をロビイストとして雇い、フィリピンのマルコス独裁政権がカーターの息子をコンサルタントとして迎え入れた。
「米国の指導者たる人物が、どうしたらこんなことが許されると、自分を、そして国民を納得させることができたのだろうか?」と、腐敗防止に関する米国有数の研究者であるサラ・チェイズは語った。「もしこの国を救いたければ、敵にだけでなく、自分自身や友人や同盟国にも高い規準を求めなくてはならない」
■独裁政権と繋がっていた「バイデンの顧問」
バイデンの近親者のほか、バイデンの主要な支持者のなかにも同じように外国ロビー活動という泥沼のなかで数年かけて大金を稼いだ者たちがいた。
たとえば2020年の選挙期間中、バイデンをホワイトハウスに到達させるために寄付を集めていた主要な資金調達組織であるスーパーPAC(特別政治活動委員会)を率いていたのは、この委員会の財務責任者に任命されていたラリー・ラスキーだった。
ラスキーはバイデンとは旧知の仲で、長いあいだ「バイデンの顧問」として働き、2008年の選挙戦では広報責任者も務めている。ある記事によると、ラスキーは「伝説的な民主党活動家」だった。
ラスキーは、2010年代に別の役割も果たしていた。
わずか数年前に、議会が経験した過去最大の外国ロビー活動がらみのスキャンダルの中心にいた政権だというのに。記録によると、ラスキーが「戦略的コミュニケーションや助言」などをアゼルバイジャン政権に提供し、彼の部下たちが「メディアモニタリング」から、興味深いことに「インフルエンサーへの働きかけ」まで、さまざまなサービスを提供していた。
※編集部註:ギリシャ語で「泥棒」と「支配」を意味する単語から作られた政治学用語。支配者層が国家・国民の資産を横領し私服を肥やすような腐敗した政治体制を指す。
■バイデン政権が取り調べを放棄
残念ながら、こうした印象を与えているのは、外国ロビイストがバイデン政権の身近にいるという事実だけではない。
トランプ政権が、米国のさまざまな大学に対する非公表の数十億ドルの寄付――その多くが世界中の残忍な独裁政権から直接入ってきた――を公にしたあと、バイデン政権はさらなる取り調べを実質的に放棄した。2022年10月、ホワイトハウスは、米国の大学に対する海外の寄付については、追加調査は行わず、「継続中の調査については打ち切る予定だ」と発表した。
あきらかにされた過去の外国資金の規模を考えると、これ自体、懸念すべき動きに思える。だが、こうした資金の報告はすでに大幅に減少していた。あるアナリストによれば、「米国教育省の記録では、大学が報告した外国からの寄付は、2020年7月から2021年1月までの半年間で15億ドルを超えていたのに対し、2021年度の同期間は400万ドルを少し超える程度だった」。
つまり、バイデン政権が誕生してから、米国の大学への外国の寄付に関する報道がほぼ完全に消えていたのだ。ホワイトハウスは新たな調査をやらないと決めたも同然なので、この傾向が変わると思える理由はほとんどない。
■バイデン政権の怠慢
あるいは、トランプ政権が米国のシンクタンクに求めた透明性の要件を見てみるといい。2020年、当時国務長官を務めていたマイク・ポンペオは国務省として、米国の外交官とかかわりをもつシンクタンクに対し、「国営および国有企業を含む外国政府から受け取った資金を、ウェブサイトに明示」するように求める声明を発表した。
最初のうちバイデン政権は、シンクタンクに対するこの新たな要求を継続し、外国の雇用主を公表させるつもりだったと思われる。
2022年の夏に、司法省はいわゆる「アドバイザリー・オピニオン」(助言的意見)を発表して、外国の資金を使って書籍を出版したり、外国政府と米国のあいだの「協力を促進」したりする組織は、FARA(※)に登録しなくてはならないと説明した。
つまりシンクタンクは、これまでやってきた仕事に関して、FARAへの登録が必要になったのだ。言い換えれば、たとえ政治とは無関係の独立した機関を装い続けたとしても、外国の影響、外国のロビー活動、そして外国の利益を実践する手段としての活動が登録の要件に該当するのだ。
しかし、この「アドバイザリー・オピニオン」にもかかわらず、バイデン政権がそれを大々的に実行に移すことはなかった。バイデン政権の当局者は、シンクタンクに対してFARAに登録するよう圧力をかけるそぶりも見せず、このテーマに関心があるようにも見えなかった。
※編集部註:1938年に米国で制定された法律。外国政府・政党・個人などのために米国内で政治活動、ロビイング、資金調達などを行う代理人に対し、司法省への登録と詳細開示を義務付けたもの。
■ロビイストがやりたい放題できてしまう
それどころかそうした動きは弱まる一方で、シンクタンクは結果がどうなろうと気にせずに、外国の資金をむさぼり続けた。
ブルッキングス研究所の代表を務めるジョン・アレンのような人物(※)に関する綿密な調査や、湾岸諸国の専制君主やソヴィエト崩壊後のクレプトクラット(泥棒政治家)がいかに米国の一流シンクタンクに大金を惜しげもなく使っているかをあきらかにする調査が継続しているとはいえ、業界全体としては外国ロビー活動の媒介者としての役割を調べることにまったく関心がないように見える。
ましてや、彼らの組織がいかに外国政権の利益を促進しているかを示す情報をこれまで以上に開示する意向はまったくなさそうだ。
ホワイトハウス高官は、傍から見ているかぎり、ほとんど何も気にしていないようだ。2023年初頭に国務省は、シンクタンクにはもはや外国の資金を公表するよう求めてはいないことを認めた。いつのまにか、そして何の理由も示さずに、バイデン政権はトランプ時代の数少ない透明性重視の動きの1つを放棄していた。
どのシンクタンクがクレプトクラシー的な独裁政権から膨大な金額を受け取っていたか、またそれが米国の政策にどんな影響を与えているかに対するホワイトハウスの関心は、徐々に薄れてしまったのだ。
※編集部註:アメリカ海兵隊の元大将。退役後の2017年からブルッキングス研究所の所長を務めていたが、2022年カタール政府のために違法なロビー活動を行っていた疑いでFBIの捜査対象となっていることが発覚し辞任した。
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ケイシー・ミシェル(Casey Michel)
ジャーナリスト
ヒューマン・ライツ・ファウンデーション(HRF)でクレプトクラシー(泥棒政治)と戦うプログラムの責任者を務める。前著『クレプトクラシー 資金洗浄の巨大な闇』(草思社)は、エコノミスト誌で金融犯罪を理解するために最良の書に選ばれた。オフショア金融、外国ロビー活動、独裁主義、違法資金に関する記事をフィナンシャル・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル、フォーリン・アフェアーズ、ワシントン・ポスト」などに寄せている。
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(ジャーナリスト ケイシー・ミシェル)

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